ひらめきブックレビュー

大きい企業こそ相手をまねる ウエルシア、合併の極意 『差別化を以て戦わずして勝つ』

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ドラッグストアといえばいまやコンビニと並ぶ身近な消費者の味方だ。街に必ず何軒かあり、医薬品だけでなく生活用品や食料品の品ぞろえも充実している。一方で、店頭では似通った商品の安さを競う光景も珍しくなく、パイの奪い合いは激しそうに見える。

そんななか、国内ドラッグストア業界売上首位の座についているのが、ウエルシアホールディングス(以下、ウエルシア)。傘下にはウエルシア薬局やシミズ薬品、金光薬品といったドラッグストアのほか、介護事業や化粧品専門店など全部で11社が名を連ねる。ウエルシアの代表取締役会長である池野隆光氏が掲げる戦略が「差別化を以(もっ)て戦わずして勝つ」だ。

本書『差別化を以て戦わずして勝つ』は、これまでの徹底した差別化戦略について、池野氏自ら明かしたもの。ドラッグストアにおける差別化のやり方や社会貢献への理念などが詳しく語られ、グループ成長の秘密が見えてくる。

■社内に多様な意見や視点

ウエルシアの強さの一つが柔軟性だ。同社は合併を繰り返してきた。それも、地域の一番手ではなく三番手、四番手の小さい会社が多かったという。池野氏自身、30年近く経営した池野ドラッグを率いて2002年に合流している。

合併では得てして小さい会社が大きい会社に合わせがちだが、ウエルシアは「大きいほう(会社)が小さいほうのまねをしよう」と考えた。小さい会社が、かえって無駄のない経営をしていることが多いからだ。例えば合併交渉のような重大な会議で、小さい会社側が少人数の参加者で対処できていたら、自社は規模拡大に伴って非効率になっているのではないかと足元を見つめ直す。

このように合併で多様な経験や価値観を取り込みつつ、固定的な観念や慣習は押し付けない。その結果社内には多様な意見や視点が生まれ、行動を柔軟に変えていくことができたと池野氏は語る。柔軟さこそ、他社にはないウエルシアらしさなのだ。

■地域の健康をトータルに支える

「ウエルシアモデル」と呼ぶ事業方針は、調剤、利便性(深夜営業)、カウンセリング、介護の4つを柱としている。これらに共通するのは、地域の健康をトータルに支える薬局になるという方向性だ。

薬局の範ちゅうを超えた包括的な地域貢献の成功例が、地域包括支援センターの運営だ。埼玉県白岡市からの委託を受けたもので、民間企業の参入は珍しい。社会福祉士など専門人材を置き、地域住民の気軽な相談場として活用されている。隣接の薬局は売り上げが好調だそうだ。

また、2014年にはウエルシアが申し入れる形でイオンの子会社になった。その理由にはやはり地域貢献の想いがある。例えば地域とコラボした商品を継続してつくり続けられるようになれば、地域活性につなげられる。イオンのもつPB(プライベートブランド)ノウハウを取り入れて商品開発力を高め、自社の可能性を広げる狙いなのだ。

池野氏の流儀では、地域や社会貢献のための柔軟な発想が先にあり、他社との差別化はその結果としてついてくるもの。そのために、大小関わらず「よいもの」を柔軟にかつ貪欲に取り入れる。これが勝者の戦略なのだろう。

今回の評者=戎橋昌之
情報工場エディター。元官僚で、現在は官公庁向けコンサルタントとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。大阪府出身。東大卒。

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