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中国IT引っ張るテンセント 「プラス」発想で市場開拓 『テンセントが起こす インターネット+世界革命』

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スマホさえあれば、医療、教育、交通移動、レクリエーションなど日常のさまざまな活動がとても便利で効率的になる――。そんな社会の実現を目指して新しい技術とサービスの開発を推し進めている企業の一つに、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」を展開している騰訊控股(テンセント)がある。中国版GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)の一社と目されるテンセントは、何を考えているのか。

本書『テンセントが起こすインターネット+世界革命』(永井麻生子訳)は、テンセントのビジネスモデル、経営思想、目指す方向性や中国全体のインターネット戦略などをテーマとする一冊。複数の専門家らによる共著で、主な著者はテンセント最高経営責任者(CEO)である馬化騰(ポニー・マー)氏と中国「インターネットプラス100人会」発起人の張暁峰氏だ。原著は2015年7月に発行された。

■ユーザーをつなげて森を作る

インターネットプラスは、もともと馬氏が提唱したアイデアだ。テンセントの掲げる「インターネット+(互聯網+)」の理念とは「境界を越えて融合し、すべてをつなげる」である。インターネット+金融で生まれたフィンテックのように、様々な業種や、人と物の関係性をインターネットでつなげて新しいエコシステムをつくるという方針である。テンセントは、ユーザー同士のネットワークが経済活性化の土壌になると考えている。

これがよく表れているサービスがウィーチャットだ。知人同士で贈り合うお年玉「紅包(ラッキーマネー)」をウィーチャット上でも送金できるようにしたことで、中国でモバイルペイメント普及のきっかけとなった。1つの企業がユーザーへ一律的なサービスを提供するのではなく、ユーザー同士をつなげて有機的なエコシステムにしていく――「宮殿ではなく森を作る」と馬氏は表現しているが、これがテンセントの信念の一つである。

ウィーチャットの広がりは目を見張るものがある。2015年の時点で河南省鄭州において、医療や社会保険、戸籍関連事務や出入国などに関わるサービスが、ウィーチャットを通して受けられるよう構想されていたようだ。

■食の安全性にも貢献

インターネットに「+」するものとしてテンセントはあらゆる業種を視野に入れており、例えばスマート農業の可能性についても熱をもって語られている。個人のウェアラブルデバイスを農地のセンサーシステムとつなげば、作業状況や農作物の産地を食卓にいながらチェックできるようになる。また、個人の嗜好や必要な栄養などをデバイスが計算し、そのデータを農業生産者のもとへ届ければ、ニーズのある農作物を無駄なく生産できる。既存の産業チェーンの大変革だ。13億人超の人口を抱える中国にとって、食の安全性の向上と効率化は国の基盤となる重要ごとであると同時に、巨大市場を作り出せるのだ。

あらゆる人、物、場所をつないで創造性を生み出せば、中国はイノベーションが活発に起こる強い国家になるという馬氏の熱意が伝わってくる。急激に成長するデジタルチャイナの根本思想を知ることができる貴重な一冊だ。

今回の評者 = 梅澤奈央
情報工場エディター。ウェブ制作会社にて、企業・行政・教育機関の広告を手がける。東京都出身。大阪大学卒。

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