トーストの風味引き立てる絶品バター、ベスト10
おいしいバターは、こんがりと焼けたトーストの風味を引き立ててくれる。酪農家がこだわって作るものから個性的な輸入品まで、商品選びの幅も広がっている。いつもの朝食が少しぜいたくになるバターを専門家に選んでもらった。
圧倒的な香りの良さ フランス中西部の自然豊かなエシレ村で育った牛の生乳を原料にして、現地のエシレ酪農協同組合が製造する。乳脂肪分の多い生乳を木製の撹拌(かくはん)機に入れ、100年以上続く伝統的な製法で練り上げている。出来上がったバターはすぐにチルドで空輸する。ヨーグルトのような軽い酸味があり、発酵バター独特の風味が強い。フランスパンに向く無塩の商品もある。料理ではオムレツや魚のムニエル、貝類の白ワインバター蒸しなどに向く。日本の輸入元は片岡物産(東京・港)。
「圧倒的な香りの良さ。トースト1枚でリッチな気分を味わえる」(畔田隆弘さん)、「色白できめ細かく、パンに塗ると上質な乳脂肪のコクを加えてくれる」(下園昌江さん)、「味も風味も濃厚。週末や、しっかり朝ご飯を食べたいときに向く」(村瀬美幸さん)
(1)オンラインショップでは50グラム494円、250グラム(ブロックタイプ)2113円など(2)www.echire-online.jp/
日本人の口になじむ味わい 「欧州が本場の発酵バターを日本人の口によりなじむように」と、帝国ホテルの田中健一郎総料理長が監修して、8年前に発売した有塩のバター。北海道の生乳からできるクリームを独自に選んだ乳酸菌で発酵させ、チャーン製法という伝統的な製法で口溶けなめらかに練り上げた。ホテル内の朝食でも、パンのお供として小分けの容器に入れて提供している。
「発酵の風味、ミルクの味わい、適度な塩分が日本のトーストに一番合う」(松田武司さん)、「焼いたパンにのせると、牧草の香りとミルクのコクがふわりと広がる」(三宅清さん)、「ワンランク上の味わい。特別な日に食べたい」(田中高さん)
(1)113グラム840円(2)ホテルショップ「ガルガンチュワ」(電)03・3539・8086
じっくり熟成、粗塩で歯応え フランス西部のシャラン・ポワトゥ地方の牛から搾った生乳に乳酸菌を加えた後、12時間熟成させた。じっくりと寝かせて発酵の風味を豊かにした。生クリームのように口溶けがよいのが特徴。同じブランドで水色の包装の「セル・ドゥ・メール」は、海塩の粗塩を発酵バターに2%練り込み、ジャリッとした歯応えがある。製造はフランスのユーリアル社。日本の輸入元はイー・ティー・ジェイ(東京・中央)。
「うま味やコクなど味のバランスが完璧。料理のソースとしても万能に活躍する」(ダヴィッド・ブランさん)、「セル・ドゥ・メールは赤ワインのお供や、あんことも相性がいい」(藤原浩さん)
(1)共に250グラム1785円(2)(電)03・3297・7621、www.etj-gourmet.co.jp/
甘みと塩気、バランス良く 乳酸菌飲料「カルピス」は、生乳から脂肪分をとった脱脂乳が原料。このときに分離した脂肪分をバターとして加工する。当初は業務用で、口コミで評判になり1981年に家庭用を発売した。「甘みと塩気のバランスが非常によく、料理に使えばレストランの味わいになる」(中島眞介さん)
(1)450グラム1470円(2)百貨店・量販店など。カルピスお客様相談室(電)0120・378090
深い牧草の香り 北海道江別市の町村農場では、創業者が明治から大正時代にかけて米国で学んだ製法を受け継ぐ。農場では、牛がストレスなく静かに過ごせるよう心掛けている。搾りたての生乳をゆっくり練り上げた有塩のバター。「深い牧草の香り。ナチュラルなのにしっかりうまい」(中島さん)
(1)オンラインショップでは200グラム990円(2)(電)011・382・2155、www.machimura.jp
クセのないコク・爽やかな後味 クセのないコクと爽やかな後味が日本の食卓に合う有塩のバター。多くの乳製品を手がける明治の隠れた名品といえそう。春のアスパラなど北海道の食材とも合う。「日本の食パンとの相性がとてもよい」(三宅さん)、「毎日でも食べたい味」(松田さん)
(1)200グラム404円(2)お客様相談センター(電)0120・370369
きめ細かい口溶け 守山乳業(神奈川県平塚市)が岩手県の葛巻工場で製造。生クリームを振動でかき混ぜ乳脂肪を凝集させる「チャーン製法」で、大正時代から作り続けている。「きめ細かい口溶けで、牛乳のフレッシュさが伝わってくる。たっぷり塗って食べたい」(下園さん)
(1)200グラム645円(2)お客様相談室(電)0120・558369、www.moriyama-shop.com/
フレッシュなうま味 北海道興部(おこっぺ)町の酪農場で製造。ミネラル分豊富な牧草を食べて育つ牛の乳に乳酸菌を加えて熟成させた。「バターしょうゆご飯」にしてもおいしい。「フレッシュでさわやかなうま味」(藤原さん)
(1)100グラム840円(2)www.northplainfarm.co.jp/
ミルクキャラメルのような風味 蒜山酪農農業協同組合(岡山県真庭市)がつくる有塩バター。良質な草を食べたジャージー牛の乳は乳脂肪率が年平均5%以上あり、バターは「ミルクキャラメルのような風味」(村瀬さん)。
(1)100グラム380円(2)(電)0867・66・3645、www.hiruraku.com
値段手ごろ、和食の隠し味にも 北海道十勝産の生乳を100%使用したよつ葉乳業(北海道音更町)のバター。うま味、コク、塩気のバランスがよく、手ごろな価格帯。和食の隠し味として、しょうゆや味噌との相性もよい。
(1)150グラム315円(2)(電)0120・428841、www.yotsuba-shop.com/
表の見方 数字は選者の評価を点数に換算したもの。(1)価格(送料別、一部オープン価格)(2)取り寄せ先の電話番号や問い合わせ先、ホームページ(頭のhttp://は省略) 記事中のリンクは掲載時のものです
発酵タイプ、欧州で主流
牛から搾った生乳から乳脂肪を分離させ、練り上げたものがバター。一般的に、約100グラムを作るのに約2リットルの生乳を使うという。植物性油が原料のマーガリンとは違い、ミルクの乳脂肪分を濃縮しているため、牛の育つ環境や牧草の味わいにより様々な風味が生み出される。練り上げ方により、口溶けも変わる。
バターは1~2%の塩分を添加した「有塩」と、食塩なしの「無塩」に大別できる。日本の食パンは砂糖を加えたものが多く「有塩バターがパンのほんのりした甘さを引き立たせるため、相性がよい。砂糖は使わず、塩を練り込んだフランスパンには無塩バターが向く」(松田武司さん)。
今回のランキングでは1、2、3、8位が発酵バター。製造過程で乳酸菌を加え、発酵させて作るタイプだ。遠心分離機がない時代からバターが作られていた欧州では、生乳からクリームを分離させる間にクリームが発酵し、香りよく仕上がった。そのため、欧州では今も発酵バターが主流だ。一方、遠心分離機の発明以降にバターを作るようになった日本や米国では発酵させないのが一般的だ。
発酵させると特有の酸味とうま味が生まれる。使う乳酸菌の種類や加えるタイミング、発酵の温度や時間がメーカーごとに違うので、食べ比べると楽しい。
バターは鮮度が大切。「開封後は冷蔵庫の食品の臭いを吸収しやすいため、ラップで密封し、早く食べ切るのがおすすめ」(町田えりこさん)だ。
総務省の家計調査によると、日本では1世帯あたり年間2箱半(1箱200グラムで換算)程度のバターを食べている。バターは猛暑の影響などで品薄になることがあるが、農林水産省によると、今年は生乳の生産量が前年同期比1割ほど伸びており、国内の生産は安定している。ただ、売り切れになる人気商品も多く、予約が必要な場合もある。
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調査の方法 全国の百貨店・量販店、または取り寄せて購入できるバターを対象とし、売れ筋や専門家の推薦により21商品を選出。山崎製パンの食パン「ロイヤルブレッド」のトーストに塗って試食し、おすすめを選んでもらった。選者は次の通り(敬称略、五十音順)。
畔田隆弘(三越伊勢丹銀座店食品営業部マネージャー)▽下園昌江(お菓子研究家)▽ダヴィッド・ブラン(グランドハイアット東京副総料理長)▽田中高(山崎製パン中央研究所研究員)▽中島眞介(ホテルニューオータニ調理部長)▽町田えり子(料理研究家)▽松田武司(VIRON渋谷店 シェフ ブーランジェ)▽三宅清(パナデリア代表)▽村瀬美幸(チーズプロフェッショナル)▽藤原浩(日本フードアナリスト協会常任理事)
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