プロが選んだ「手元に置きたい料理本」ランキング
クリスマスや正月など人が集う季節に重宝するのが料理本。「もてなし編」「お菓子編」「初心者編」の3つに分け、料理本に詳しい専門家に「手元に置いて読み返したい一冊」を選んでもらった。
<もてなし編>
著者は料理研究家の行正り香さん。初版から20刷を数える人気本。ジェノヴァ、スパニッシュ、チャイニーズ、シシリアン、プロヴァンスなど11種類のメニューを用意。テーマごとに前菜、主菜、デザート、飲み物、BGMまできめ細かく提案している。著者の料理への思いがわかるエッセーに始まり、品書き、見開きいっぱいの料理の写真、各料理のレシピやテーブルの演出でページを構成する。料理写真家の日置武晴さんが撮影した躍動感のある調理風景や食欲をそそる料理の写真も魅力のひとつ。
(1)1998年(2)文化出版局(3)1680円
人気シェフと料理研究家134人の一押しレシピを365品目掲載。月刊誌に掲載したレシピのより抜き集で、定番のおかずからもてなしで活用できるおしゃれなものまで取り上げている。「下ごしらえ」と「作り方」を分けた構成で、作業の流れが頭に入りやすい。
(1)10年(2)プレジデント社(3)980円
人気の20店のスペイン風居酒屋バルで出されている200のメニューをまとめている。「仲間とわいわい楽しみながらもてなしたい時に向く料理が満載」(川津幸子さん)
(1)11年(2)柴田書店(3)2625円
米国在住経験が長い料理研究家、馬場香織さんが著者。鍋やオーブンに入れて火にかけるだけで本格的な料理ができるレシピを載せている。
(1)08年(2)角川マガジンズ(3)1200円
著者はフードコーディネーターの山脇りこさん。カクテル風に野菜や果物を盛り付けるなど、サプライズ感のある演出を紹介している。
(1)11年(2)講談社(3)1260円
7位 三国清三の「おうちでフレンチ」 三国清三 小学館
8位 ビストロ仕立てのスープと煮込み 谷昇 世界文化社
9位 もてなし上手 復刻版 栗原はるみ 扶桑社
10位 ようこそ、私のキッチンへ 有元葉子 集英社
<お菓子編>
著者は菓子教室「スイス・フランス菓子研究所」(東京都北区)を主宰する相原一吉さん。洋菓子を作る時に浮かぶ素朴な疑問に答える形で構成する。解答を読み進めるうちに菓子作りの理論が自然と頭に入る。材料の混ぜ方で生地の膨らみが変わる様子も理科の実験のように見せている。
(1)2001年(2)文化出版局(3)1680円
著者は「オーブン・ミトン」(東京都小金井市)のオーナーシェフの小嶋ルミさん。スポンジケーキ、クッキー、スコーンなど焼き菓子の出来を決定付ける生地をおいしく仕上げるコツをまとめた。素材の泡立て方や混ぜ方に多くのページを割いて解説している。
(1)04年(2)文化出版局(3)1575円
料理研究家の藤野真紀子さんが著者。チーズケーキなどの焼き菓子からババロアなどの冷たいデザートまで洋菓子作りの基本を丁寧にまとめる。「手順の写真が多いので安心」(杉山智美さん)
(1)08年(2)NHK出版(3)1050円
家庭で作れる菓子のレシピをコンパクトにまとめた教科書のような本。手順で迷いやすいところは写真付きで丁寧に解説している。
(1)98年(2)ベターホーム出版局(3)1575円
焼き菓子を中心に家族で食べられるおやつのレシピをまとめている。切り方や並べ方にこだわった写真も魅力的。
(1)12年(2)柴田書店(3)1890円
7位 平野顕子のアップルパイ・バイブル 平野顕子 河出書房新社
8位 おやつの時間にようこそ 有元葉子 集英社
9位 フランス菓子店「イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ」の焼き菓子教室 椎名真知子 柴田書店
10位 パティスリーポタジエの季節の野菜スイーツ 柿沢安耶 講談社
<初心者編>
今年で50周年を迎えた料理教室がまとめたロングセラー。調理道具の使い方に始まり、魚のさばき方、野菜の切り方、だしのとり方まで料理の基本を網羅している。編集部が「お母さんが娘と一緒に台所に立っているような本」と表現するように、丁寧な解説に定評がある。
(1)1985年(2)ベターホーム出版局(3)1470円
大正生まれの著者、辰巳芳子さんが病床の父に作り続けたスープのレシピ集。「和の汁もの」と「洋風スープ」に分け、さらに細かく分類した「スープの図式」で素材と調理法の組み合わせを整理している。「丁寧に作るスープは少し手間がかかるが、心を込めて作る料理の初心を教えてくれる」(石森いづみさん)
(1)02年(2)文化出版局(3)2730円
著者は東京・渋谷で料理教室を主宰する川上文代さん。煮る、揚げる、蒸すなど調理の基本を丁寧にまとめ、調味料の割合を示して味付けのポイントを細かく解説している。
(1)10年(2)新星出版社(3)1365円
料理研究家で管理栄養士の検見崎聡美さんが著者。料理の経験がない人でも作れる肉じゃがやさばのみそ煮などのレシピを冒頭で紹介。
(1)06年(2)成美堂出版(3)1260円
表紙にトマトの皮むきをアップで撮った写真を使うなど、大胆なレイアウトが特徴。料理の下準備もわかりやすくまとめている。
(1)08年(2)オレンジページ(3)840円
7位 料理のきほん練習帳 小田真規子 高橋書店
8位 さらに、美味しい方程式 野崎洋光 文化出版局
9位 女子栄養大学のお料理入門 小川久恵 女子栄養大学出版部
10位 私の保存食ノート 佐藤雅子 文化出版局
ネット全盛でも根強い人気 レシピの完成度高く
書籍全体の販売金額が減少傾向にある中で「料理本は節約や健康志向を背景に堅調に売れている」と、出版科学研究所研究員の久保雅暖さんは指摘する。
インターネットで検索すれば一般の人の投稿を中心に数多くのレシピを閲覧できる。手元にある食材で作れる料理を簡単に調べられるので活用する人は多いだろう。一方、料理本の良さは「料理や編集のプロが時間をかけて作った完成度の高いレシピを知ることができる点」(久保さん)だ。
例えば料理本の多くは初めて作る人でもまねできるように注意すべきところを太字にしたり、別のページでまとめたりと工夫を凝らしている。
女子栄養大学短期大学部准教授の豊満美峰子さんは「ネットの投稿レシピの中には塩分が多すぎるものや調味料の分量を間違えているものが意外に多いので、注意してほしい」と話す。プロの目が入ることで、一定レベル以上のおいしい料理が作れる安心感も料理本の魅力といえそうだ。
「料理本の写真から食材や味の組み合わせのヒントを得ることがある」と話すのは東京生活研究所食品コーディネーターの藤本紀久子さん。料理をおいしく見せる食器やテーブルセッティングの写真も参考になる。
多くの料理本から自分に合ったものを選ぶ基本は「作業の流れの説明がすっと頭に入るかどうか」(料理本編集者で料理研究家の川津幸子さん)。失敗しやすい作業の場面を写真を見せてきちんと説明するなど、よく練った構成の本は読者の目線を強く意識してまとめられている。
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表の見方 数字は選者の評価を点数化。(1)初版年(2)出版元(3)税込み価格。6~10位は本の名前、著者、出版元の順。
調査の方法 料理本に詳しい専門家11人にもてなし編、お菓子編、初心者編の3つのジャンルでそれぞれ3冊以上推薦してもらい、候補リストを作成。各ジャンルのリストの中から順位を付けて専門家に選んでもらった。料理本として完成度が高く、長く愛用できることを重視した。選者は以下の通り。(敬称略、五十音順)
石森いづみ(フードスタイリスト)▽小川綾子(料理書専門古本屋onakasuita店主)▽川津幸子(料理本編集者・料理研究家)▽木田マリ(フードコーディネーター)▽杉山智美(東京ガス「食」情報センター主幹)▽高橋侑希(紀伊国屋書店新宿本店)▽津布久孝子(味の素家庭用事業部部長)▽戸井美子(キッコーマン・コーポレートコミュニケーション部)▽豊満美峰子(女子栄養大学短期大学部准教授)▽半田純一(丸善丸の内本店和書グループ)▽藤本紀久子(東京生活研究所食品コーディネーター)
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