東海岸、西海岸に続く第三の経済圏としてダラス経済圏が生まれようとしているのをご存じだろうか。新しい経済圏の創設を目指すテキサス州は人口2830万人(2017年米国公式推計)で名目GDPは約1兆7000億ドル(2017年)。人口と経済力でカリフォルニア州に次ぐナンバー2の州である。しかも今後の人口増加予測は第1位で将来性も抜きんでている。
本書『なぜ、トヨタはテキサスに拠点を移したのか?』は、米国トヨタの本社移転問題を切り口として、アメリカ経済の行方を探る1冊だ。著者の倉石灯氏はテキサス在住の商業不動産投資専門家で、中野博氏は作家兼実業家として活動している。
■アマゾン、フェイスブックも進出
2017年、米国トヨタはカリフォルニア州に60年間にわたり置いてきた本社をテキサス州プレイノ市に移転した。移転理由はいくつもある。まず州法人所得税、州個人所得税ともにゼロという圧倒的優位な税制に魅力を感じた。北米の各拠点との時差が少ない地理的利便性や各拠点への直行便の存在も評価された。州内にはハブ空港として世界2位のダラス・フォートワース空港を含み2つの巨大国際空港が立地する。安価な地価や家賃も利点だ。
テキサスは、第5世代移動通信システム「5G」の実証実験の舞台の1つでもある。「モビリティ・サービス」を標榜するトヨタにとっては魅力的な環境だろう。
加えて同州は石油、シェールガスなどの全米最大規模の資源と太陽光などの再生エネルギーとを組み合わせて、安価で安定した電力供給を進めている。この政策が隠れた「テキサス・メリット」になっている。多くのIT企業に安心感をもたらしているのだ。実際、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックなどアメリカのIT企業やNTTといった日本企業が続々と進出している。
■ITとフロンティアスピリットが融合する
テキサス州は、JR東海の技術協力でアメリカ初の高速鉄道として新幹線を敷設する計画だ。新幹線は都市間交通を担うが、そもそも公共交通、タクシー、ライドシェアといった都市の内部での交通の質が向上しなければ、都市の成長はあり得ない。同州では、すでに自動運転の実証実験車が走っている。ウーバー・テクノロジーズによる「空飛ぶタクシー」の試験飛行はダラスで行われる見通しだという。
同州は新技術をITと融合した「スマートシティ」の創造を試みる最先端の州であるとともに、人口膨張に備えた都市交通問題の実験場でもあると著者は見ている。
カウボーイと銃というテキサスのイメージは遠い昔のことだ。最先端のITとフロンティアスピリットで未来を切り開く――。最近はビジネスの州として進化が著しい。「アメリカ経済の未来はテキサスが担っている」。そんな予感を抱かせる一冊だ。
情報工場エディター。地方大学の経営企画部門で事務職として働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディターとして活動。香川県出身。