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イチ子お姉さん 来年大学を卒業する学生の就職活動が始まったわ。試しに働くインターンシップとか、3年生の初めからずっと就活してる気がするわね。
からすけ 大学生は勉強も大変だし、就職活動は社会人になるためにいろいろ考える時期。なのに活動期間がコロコロ変わるような気がするけど……。

実は3年夏から仕事体験

イチ子 日本の学生は3月に大学を卒業し、4月から一斉(せい)に会社に入って仕事を始めることが多いの。新卒一括(かつ)採用(キーワード)っていうんだよ。大きな会社が集まっている日本経済団体連合会が「採用選考に関する指針」を出しているの。会社が、いつから大学3年生に採用予定人数や日程を知らせていいかとか、採用選考を始めていいかが書いてあるのよ。今年の採用の選考は6月1日から始まるのよ。

からすけ 3月1日にあった「今日から就職戦線スタート」ってやつは何なの?。

イチ子 各会社が就職に関する情報を公開し始めたっていうことよ。就職情報会社は3月1日に一斉に会社説明会などの情報を手に入れられるよう、受け付けを始めたの。

からすけ でももっと前から3年生のお兄さんお姉さんは走り回っていたみたいだけど。

イチ子 事前に仕事体験をするインターンシップのことね。もともとは欧(おう)米の会社が社員の採用のために使っていた仕組みなの。特に米国では会社が学生を数十日から数カ月受け入れて実際に働いてもらい、その学生の力を見定めるのよ。学生の側も仕事の内容が期待通りかどうか、体験しながら見てるわ。仕事がつまらないのですぐに辞めるなんてことが起きないようにするお見合いみたいなものね。けれど日本のインターンシップは主に採用とは別のもので、会社が社会貢献(こうけん)活動として学生に仕事体験の場を与えるものと考えているの。

からすけ うーん、同じ事をするのに、日本と外国では目的が違うということなのかな。

イチ子 就活中の私の先輩(ぱい)に聞いたら、「インターンシップのおかげで今年の就職活動はスタートが早かった」と話していたわ。最初に参加したのは昨年の8月だったそうよ。インターンシップに参加できるかどうかの面接が45分くらいあって、大学の名前や専攻(こう)、自己紹介文や会社の何に興味を持っているかといった参加希望書をメールで送ったって。働いたのは8月の3日間。次に11月、今年2月にそれぞれ1日で計5日間だったって。2月には1日だけ会社に行く「ワンデイインターン」に15社くらい参加したそうだから、結構時間をかけているね。

からすけ 入りたい会社を目指して何社も受けるんだね。学生は一生懸(けん)命になるよね。

イチ子 ある会社のインターンに落ちてがっかりしていたところ、3月に入って、その会社に勤める大学の先輩から会いたいというメールが急に来たと言っていたわ。会ってみると、志望動機や会社のイメージについていろいろ聞かれ、会社に入りたいという意思を伝えるためのエントリーシート(キーワード)を早めに出すよう言われたそうよ。2月に集中していたワンデイインターンではグループ討論が多くて、社員が見ながらメモを取っていたって。本番に備えた「面接の練習」まであったというから、選考と変わらないわ。

<キーワード>
 新卒一括採用 新社会人を企業や官庁が4月にまとめて大量採用すること。大正時代には確立していた。日本企業が多く採用している入社年次別の人事管理とは合っているが、能力主義人事との相性は良くない。このため新卒・既卒にかかわらず人を採る通年採用を始める企業が増えている。
 エントリーシート 学生が就職を希望する企業に、履歴書とは別に提出する選考書類。サイト上に企業が質問と書式を設定する例が多い。質問は「自分の性格」「学生時代に力を注いだこと」「入社希望の理由」など様々だ。回答内容が増える傾向にあり、学生の負担が大きいとの批判がある。

採用選考まで1年がかり

からすけ 後はどんなことをするの?

イチ子 3月初旬(じゅん)からエントリーシートを会社に送るの。会社は「学生時代に一番ピンチだったこと」「自分を動物に例えると何か。その理由を説明せよ」なんていう文章のテーマを出すそう。大手企(き)業の場合、たいてい4月中旬までにインターネット経由で集中的に出すの。書く量もものすごく多いから先輩たちは精神的に大変。大学のOBから連絡が来て会うこともあるし、4~5月には本格的な面接が始まるのよ。

からすけ うーん。大忙(いそが)しだね。

イチ子 1953年に大学と産業界の間で就職協定ができて以来、倫(りん)理憲章や指針と名を変えて、各会社が守るべき取り決めは続いてきたわ。けれど決めても決めても守られないの。でも会社が一斉に学生を採るためには、完全に守れないとしても目安が欲しいのよ。学生も大学も、採用がさらに前倒(だお)しされて、2年生から就職活動が始まったら大変だから、やはり目安が欲しいわけ。

からすけ 大学時代が全部就活期間になったらひどいよね。

イチ子 数年前までは、採用情報解禁が3年生になった年の10月や12月だったから、実際の活動は7~8月ごろに始まっていた。あまりに早すぎるので解禁を4年生になる年の3月まで遅(おく)らせたのよ。でも、インターンが3年生の7月に始まって、3月以降の本番と一体化しているのでは、就活が1年がかりなのは変わらないみたいね。私たち大学生って大変でしょ。

就職活動 奈良時代にも



東京都立桜修館中等教育学校の荒川美奈子先生の話奈良(なら)時代の最高学府である大学は、平城京を動かす官人と呼ばれた官僚(りょう)を養成する機関でした。古代日本の官僚が身に付けておくべき能力は、中国から伝わってきた漢字で法律や裁判の判例などを理解すること。大学の授業は全て漢文で行われ、漢字の発音を学習する「音」という授業もありました。定期試験は10日に1度行われ、年に1度の期末試験は3回連続で落第すると退学となりました。この難関を通過すると、官人への推薦(せん)がもらえ、その後式部省で行われる試験の成績に応じて役職に就きました。
 試験の内容は論文。内容だけでなく文章の表現力も審(しん)査され、優秀(しゅう)な答案は今日にも伝えられています。就職に必要な知識や能力には、その時代が必要としているものが表れています。そして、働くことは世の中をよりよくすること。すべての就活中の皆(みな)さんにエールを送ります。
[日本経済新聞夕刊2017年4月1日付]

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