湘南の生しらす、解禁 首都圏から日帰りで春の味
春の味、しらす。3月11日(土)には、首都圏のしらす主産地である湘南のしらす漁が解禁、年内いっぱい、生のしらすが食べられるようになった。
しらすという呼び名は魚の名前ではない。透明な、様々な魚の稚魚を総称してしらすと呼ぶ。一般に食べられているのはカタクチイワシの稚魚だ。漁は、主に九州から東北までの太平洋沿岸で行なわれている。
さっそく解禁日に、湘南しらすの水揚げ漁港のひとつである鎌倉・腰越漁港を訪ねた。
この日お世話になったのは勘浜丸。腰越漁港でしらす漁を手がけるとともに、漁港前で「勘浜水産直売所」、ならびに食堂「しらすや」を営む。
まずは朝、しらす漁の船に便乗させていただく。
しらす漁は江ノ島からほど近い沿岸で行われている。すぐ近くには大勢のサーファーたちの姿が見える。
ポイントに着くと、しらすの群れを探す。群れを見つけたら、網打ち。漁船で弧を描くように漁網を落として行く。先端部以外は「袖網」と呼ばれる非常に目の粗い網だが、これでしらすを囲い込むことができるのだという。
網を落としてしばらくは「船びき」といってゆっくり船を走らせて網を引く。すると、網の描いた円は次第にすぼまっていき、細いU字型になる。
最後に機械で網を引くと、先端についた非常に目の細かい網(袋網)に魚が集まる。
袋網を船上に引き上げたら、中身をザルに移す。先に述べたように、しらすは稚魚の総称。カタクチイワシ以外のしらすも網にかかるため、それを丁寧に除外していく。また網の中には海藻やゴミも入ってしまうため、何度も水を替えて洗い、それを取り除く。
洗ってより分けてを繰り返すうちに、カタクチイワシのしらすだけが選別される。氷を入れて鮮度を保つ。漁港の目と鼻の先という近さでの漁だけでに、鮮度は抜群だ。
ただし、解禁初日ということもあり、この日はごく限られた量の水揚げになった。
漁のピークは例年ゴールデンウイーク前後だという。連休もあり、多くの観光客が生しらすを求めて腰越に集まる。
腰越漁港に戻ると、すでに何人かがしらすの初水揚げを待っていた。近隣の飲食店の人たちだという。初物の生しらすを仕入れ、店へと引き上げていく。
この日の水揚げでは、さすがに直売所に生しらす並ばない。限られた生しらすは直営の食堂「しらすや」へと運ばれる。
午前11時の開店を前に、すでに店には行列ができていた。名前と人数を店頭のメモ用紙に書き込み、開店を待つ。
この日は不漁だったこともあり、しらす丼はお休み。お目当てはしらすづくし定食だ。
生しらすの小鉢とともに、豆腐にのった釜揚げしらす、しらすの佃煮、しらすのかき揚げと湘南しらすを使った料理がずらり並ぶ。
捕れたての生しらすから味わう。まずは何もつけずに。つるんとして甘味を感じる。新鮮そのもののしらすだ。醤油をかけると、味が引き立つ。昼前と言うことで、白いご飯で食べたが、思わず日本酒がほしくなった。
腰越漁港最寄りの江ノ電腰越駅までは、JR・小田急の藤沢駅から13分。下戸でなければ、電車で行くことをおすすめしたい。
一方、ご飯にぴったりなのは佃煮とかき揚げ。しっかり味付けられた佃煮は、ご飯との相性抜群。そして天つゆではなく塩で食べるかき揚げもパンチの効いた味でご飯が進む。
湘南しらすが味わえるのは腰越だけではない。観光地の江ノ島や鎌倉、葉山でも新鮮な生しらすを味わえる店がある。
また、天候が悪く漁に出られない日や不漁の日ももちろんある。生しらすを味わうためには、事前のチェックが欠かせない。
飲食店はじめ湘南しらすの情報は「湘南しらす情報局(http://sea.ap.teacup.com/sirasu/)」が随時集約、発信している。
また、21日からは静岡県富士市の田子の浦漁港でもしらす漁が解禁になり、生しらすの販売が始まる。
海辺でしらす丼が味わえることで知られる田子の浦漁協食堂も4月1日から営業を再開する。間近に見える富士山の眺めとのセットが田子の浦のセールスポイントだ。
日々暖かさを感じられるようになるこれからの季節。海風もまた心地よくなる。潮の香りを満喫しながら、春の味・生しらすを味わってみてはいかがだろうか?
(渡辺智哉)
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