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xiangtao / PIXTA

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前回の「ハロワ(ハローワーク)の友人」の続きだ。ものを知らない私は「ハローワーク」の持つ「イメージ」に何だか「MBA、法科大学院」が「そぐわない気がする」と口にして、友人たちから「笑われた」というところまで前回お伝えした。

A氏「3月が一番忙しいんだよね。こんなところで梶原さんとモツ焼きを食ってる場合じゃないんだけど、ま、いいか……」

詳しくは前回をお読みいただきたいが、私の友人には転職あっせん会社やハローワークでキャリアコンサルタントとして働く友人が何人かいる。きょうはそのなかから某有名転職あっせん会社から1年前、ハローワークに「転職」し現在は「訓練前キャリアコンサルタント」という肩書きで活躍するA氏が口にした「ちょっとビックリな話」をお伝えする。

A氏「きょうも私、うちのハローワークに来た失職中、30歳代後半の男性のコンサルを担当。結局、その方は一橋大学のMBAコースへ進むことになりました」

A氏「もう1人、私のところに見えた離職者は、話し合った結果、神戸大学の法科大学院に進み、将来は法曹界で活躍する決意をしました」

A氏は私に問いかける。「ハローワークとは失業給付金を受け取りに行くところとか、失職しても大手企業のように転職あっせん会社を無料で付ける余裕のない会社を離職した人が切羽詰まって通うところって、まさか思っていないよね?」。相談者には「優しく丁寧な人」と評判だそうだが、私にはちょっと厳しいA氏だ。

梶原「ちょっとだけ思ってる。ところで、訓練前キャリアコンサルタントって何?」

ぶっちゃけて聞いてみた。

「訓練前キャリアコンサルタント」の仕事内容とは?

A氏「失職中の人が『今のままの自分じゃ、希望する職に就けない。もっと専門的な知識・技能を身につけるために訓練を受け資格を取りたい。そのために学校に行きたい』と考えたとき、その教育をサポートするのが専門実践教育訓練給付金制度」

梶原「スキルアップはしたい、でもそのためにはお金がいる、そのお金がないからスキルアップできない。スキルアップできないからいつまでたってもお金を稼げない。ジレンマだよね」

A氏「そこで国がお金を出そうという制度なんだけど、お金もらって勉強して、資格もらってそれで満足じゃ国は困る。学んだことは仕事に生かして経済を活性化することに役立ててほしい。学びが仕事につながるかどうかをチェックするのが私の仕事」

資格取得後、その資格を生かす仕事に就けば学費の6割を国が持つ。これだけですごいと思ったら、さらに支援を手厚くするなんて話もあるらしい。

A氏「医療や福祉、教育、ビジネスやIT系と、今はほぼ全ての分野から選択できる。指定された学校には全国の有名校が並んでいる。あのリーマン・ショックで失職した当時、この制度があれば絶対利用していたなあと悔やんでいるんだ」

「訓練前キャリアコンサル」を受けると、「働く意味」「スキルアップする意義」「それを仕事にどうつなげるのか?」をA氏のようなコンサルに徹底的に問われるらしい。ちょっと面倒くさい気もするが、「自分の貴重な人生をどう生きるのか」という大きな問いへの答えを見つける作業だと前向きに考えることもできる。

bee / PIXTA

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職を失ってよいことなどあまりないが、「失って初めてわかること」もないわけではない。

A氏「強いて言えば、自己理解のチャンスでもあると、自分の失業時代に重ねて感じるね。『会社を離れた俺は何?』と、考えたくないこともいっぱい考えた」

MBA以外にも多様な職種に役立つ多彩なスキルを学べるチャンスがあるのだという。A氏が扱っただけで年間100人を超すそうだ。

ハロワに有名企業からの求人が増えている理由

「IT(情報技術)製品の販売営業」をリストラされ、「本来好きだったゲームソフト開発」を学ぶため、若者に交じって学校に通い、ゲームクリエーターへと着実に進む「おじさん」。サラリーマンをやめ、実家の家業を継ぐ決心を固め、みそとしょうゆの醸造を学ぼうと、指定された学校に通う「孝行息子」。スポーツジムのインストラクターの職を離れ、看護師になろうと、府中の看護学校に通う「お姉さん」。

A氏「訓練制度に限らず、職を得るときに何でも使ってやれという気持ちは大事だなと思う。ハロワ主催の『自己理解セミナー』は評判がよいよ(運営していないところもある)。高度なアセスメントからワークショップまで全部無料」

アセスメントに使う心理検査キットは自費で購入するとえらく高くつくから、お得といえばお得な気がする。

A氏「最近、ハロワに病院、大学などの公的機関や有名企業からの求人も増えている。なぜかって? どの組織もお金にシビアになってきたってことが一つ。転職専門会社に払う手数料を惜しむ傾向がでてきたんだね。ハロワなら無料だし。もう一つは人手不足」

梶原「えー?! 大企業のリストラだの、AI化だの、ニュースを見ると人余りが深刻なんじゃないの?」

A氏「梶原さんと一緒に勉強していたころ(6~7年前)と、今の有効求人倍率(仕事を探している人1人当たり何件の求人があるかの数値)を比べてみると一目瞭然。2016年12月で全国平均1.43、東京に限れば2.05。安倍さんの味方をするわけでは決してないけど、思った以上に悪くない。先はわかりませんが、悲観ばかりしててもしょうがない。会社が払ってくれるなら職業あっせん会社もありがたく使いこなす。それに加えてハロワも自分のリソースとして使う。困ったときは使えるものは何でも使うのが一番ですよ」

苦い離職体験を持つA氏らしい言葉だった。

(本記事は梶原の友人からの聞き書きを元にしています。詳細はご自身でご確認ください)

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は2017年3月23日の予定です。

梶原しげる(かじわら・しげる)
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。著書に『すべらない敬語』など。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。

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