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NOBU / PIXTA

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テレビを見ると、「大企業の危機」「深刻な貧困」などの「胸を痛める話題」が多いが、先日集まったカウンセリング勉強会の仲間からは珍しく「前向きな話」が聞こえてきた。口火を切ったのは、元金融マンで今はキャリアコンサルタントとしてハローワークで働くA氏だ。彼はリーマン・ショックのあおりをうけ、それまで働いていた海外の支店撤退業務を完了させた後、その職を離れた経験を持つ。

A氏「あのころ、転職あっせん会社の世話になったが、深刻な不況のせいもあり、なかなかうまいマッチングができなかった。とくにハローワークなんて、役人根性丸出しの応対で失望したのを思い出す。あの時代から比べると今のハロワは、少なくとも私のいる○○は全然違う」

同じくハロワ勤務の元生命保険会社勤務の友人も、A氏の話に深くうなずいた。

B氏「いまだにハロワは失業給付金をもらうだけの場所で、職業あっせんは前職の用意した専門会社任せって感覚が根強いんですよね。ハロワなんてどうせ、ろくな仕事がないだろうって」

A氏「私もお客さん(相談に来る人を彼らはそう呼ぶ)から『お前ら、失業の心配のない公務員に俺たちの気持ちなんかわかってたまるか!』とどなられることもありました。実際には私を含む多くの相談員は契約、非正規で、転職経験ありが多いんですけどね」

B氏「今の時代、離職、転職という人生の転換期にハロワを軽んじる人は損をすると私は思います」

A氏「その通り! きょうもハロワに来た30歳代後半の男性の相談を受けて、一橋大学のMBAコース進学を紹介して喜んでいただきました」

梶原「え??」

A氏「神戸大学の法科大学院を案内したところ、弁護士を目指す決断を下した人もいます」

梶原「はあ? 失職でお先真っ暗、じゃなくて、MBA? 法科大学院?」

相談員が語る、いまどきハロワのサポート事情

ハロワの「思わぬメリット」については、次週たっぷりお伝えすることとして、B氏が語った「一般的だというハロワのやり取り」を記すこととする。私同様に「ハロワってどんな感じ?」という方の参考になればありがたい。

B氏「守秘義務がありますから、詳細は避けながら話します」。以下がその内容だ。

クライアントは40歳代半ばの男性。前職はIT(情報技術)関連。自分より年下の経営者と折り合わず、自分から離職。つてを頼りに業界で転職先を探すも意外な大苦戦。失業給付金をもらうために、月に1回通い、「最低2回の就職活動報告」を「テキトーに」するはずだったハロワで「本格的な職探し」を決意するのに半年かかったという。

彼はそれまで出会った相談員の中からB氏を指名、本気で再就職を考えた。B氏は彼の求職票の資格欄にいくつも書かれた情報処理系資格の脇にそっと添えられた「介護ヘルパー2級」という文字を見のがさなかった。「その資格を活用する道もある」とさりげなく示唆したが、「あれは気の迷いで取っただけ」と即座に拒まれた。

ahirun / PIXTA

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そして男性は、ネットで探したという某飲食店チェーンの求人広告を見せてきた。「かねてから飲食の世界にトライしたいと思っていた」。B氏は動機や目的を詳しく尋ねた。

「飲食店の顧客管理システムを手伝ったことがあり、業界にはかねてから興味があった。自分ならこうしたいというプランがある」

相談者の希望を否定することは原則としてないが、B氏は気になった。求人は経営管理ではなく、調理の現場スタッフ募集だったからだ。

B氏は来談者たちから調理現場の現状をいろいろ聞いていた。ネット上に求人情報があふれる職種は「景気がよい」ともいえる半面、「やめる人も多い」と解釈すべきだとB氏は考え、「覚悟」を聞いてみたのだ。

甘くない飲食業界の仕事 体力・筋力も要求

彼は「こう見えても、徹夜仕事には慣れっこですし、キーボードを死ぬほど打ってますから腕の力だってまんざらじゃないんですよ、ほら」と、か細い腕を見せてきた。応募したら即決で「来社されたし」だった。「もうお世話をかけません」と笑顔で別れてから3カ月。彼が再びB氏を訪ねてきた。あの笑顔がうそのように沈み込んでいる。

聞けば連日「きりモノ(野菜を包丁で切る作業)」ばかりやらされて腱鞘(けんしょう)炎になって腕が使いものにならなくなったという。彼はすっかり弱気になっていた。

「田舎で一人暮らす、お袋の面倒を見るのも悪くないかなと思って……」

「つらいですねえ~」と、ひたすら共感的に受け止める相談員とは違い、B氏は現実主義者だ。「問題解決」に資する道を最優先に行動した。

B氏「よければ田舎の住所、教えていただけます?」

実家周辺をチェックしてみたら、近くの施設でヘルパーの求人が見つかった! そのことを彼に伝えてみた。「気の迷いで取っただけの資格」を使う仕事など、はなから拒否されるかと思ったら意外な答えが返ってきた。

「お袋の顔を見に行くついでに、そこの面接、受けてみるかな……」

それから半年。約30年ぶりに戻った故郷での暮らしは想像以上に快適だったらしい。職場では「都会から若く元気で優秀な人が来てくれた」と大歓迎。B氏が先日受け取った手紙には「期待にこたえるべく、より円滑な介護システム構築のため、これまで培ったIT技術を生かすのが目下の目標です」とあったという。

この話を聞いて「ハロワもまんざら悪くない」と思った。

次回は「ハロワでMBA? 使いこなすハロワ」についてです。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は2017年3月16日の予定です。

梶原 しげる(かじわら・しげる)
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。著書に『すべらない敬語』など。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。

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