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「奇襲」で勝つビジネス心理戦

相手に気持ちよくドンドン話させる簡単なしぐさ

2017/3/7

EKAKI / PIXTA

まじめな顔つきで話を聞くと、かえって相手は構えてしまう

 残念なことに、私はコンサルタントとして致命的な欠点を抱えています。それは「相手の話を聞く表情が硬すぎる」こと。話を真剣に聞くうち、つい表情が険しくなって、相手に「納得していない・同意していない」印象を与えてしまうことが多いのです。自覚しているのですが、なかなか直りません。

 真面目に話を聞いているだけです。しかし、その表情が相手に反論めいた空気を伝えてしまうとは、何と悲しいことでしょう。これによって相手が「この人には話したくない」モードに入ってしまうと、もはや心を開いてくれません。これは仕事だけでなく、友人・家族関係においても深刻な事態です。

 実はこれ、私だけの問題ではないようです。これまでに同じような印象の方を何人か見ました。真摯に耳を傾ける姿勢がアダとなって、相手に納得していない・同意していない空気を伝えてしまう人は意外に多いのですよ。これでは仕事だけでなく、人間関係全般に支障をきたします。そこで私は、ある改善策を考え出しました。それが「メモを取る」こと。このメモ技を読者にもご紹介しましょう。

 ほとんどの人は話を聞きながらメモを取ると思いますが、それはあくまで自分のためです。そうではなく、「相手のために」メモを取るのがポイント。話をする相手をじっと観察しつつ、「乗ってきたな」というタイミングでこう切り出すのです。

「その話、詳しく聞かせてもらえますか?」

 ここでサッと手帳とペンを取り出し、メモ取りを開始。経験上、この「手帳とペンを取り出すタイミング」が何より重要です。相手が最も言いたいことを話し出した、その瞬間を見逃してはなりません。このタイミングがピタリとはまるだけで、相手は「自分の話を聞いてもらっている」ことを実感してくれます。またメモを取りながらであれば下を向いて話を聞けるので、硬い表情の人もそれを見せなくてすみます。

メモを取るのは自分のためではなく、相手を「乗せる」ため

 「自分のために」メモを取るのが正攻法であるとするなら、「相手のために」メモを取るのが奇襲です。この作戦をうまく用いれば、相手に納得と共感の意を示すことができます。これによって表情の硬い私も、何度となく相手の本音を引き出すことができました。

 その逆に、一生懸命話している相手に向かって「メモを取らない」人がいます。これでは相手に「興味がありません」という無言のメッセージを伝えてしまいかねません。これこそは前回の連載3回目で紹介した「裏メッセージ(裏メッセ)」そのもの。私自身のボス体験からも、こちらが一生懸命話しているのにポカンとしている部下には、ときにいらだちを覚えます。「ちゃんと聞いてんのか、お前」と。本人が意図しないうちに「その話には興味ありません」という裏メッセを伝えてしまうのですね。読者の皆さん、怒りっぽい上司の話を聞くときは、きちんとメモを取りましょう。

IYO / PIXTA

 しっかり相手の声に耳を傾けてメモを取る。たったそれだけのことで相手との距離を縮め、よりよい関係を築くことができます。この作戦はビジネス全般に応用ができそうです。たとえばレストラン。最近、レストランに予約を入れながら当日姿を見せない、けしからん予約客が増えているそうです。あらかじめ料理を用意しておいたのに、お客さんが時間になっても現れない。電話してみると、平然と「行きません」と悪びれない返答。そんな無断キャンセルに頭を抱えているレストラン経営者が多いのだとか。怒りと嘆きとやるせなさ、そのお気持ち、よ~くわかります。そんななか、予約時の「たった一言」で無断キャンセルを減らすことに成功したレストランオーナーがいます。

 私たちがレストランに電話して食事の予約をするとき、電話で聞かれるのは「日時、人数、料理、電話番号」ぐらいです。これがふつう。しかし、そのレストランオーナーは違いました。一般的な確認事項に加え、相手にこう尋ねるのです。

「差し支えなければ、どんな集まりか教えていただけますか?」

 その集まりが誕生パーティーなのか、同僚の歓送迎会なのか、それとも仲間内の飲み会なのか。オーナーはさりげなく聞きながら、料理やお酒の提案をするそうです。もしお祝いなら「ケーキのご準備もできますが」とアドバイス。この会話のポイントは、当日の準備のためというより、顧客に向けて「あなたのことを考えていますよ」というメッセージを発している点にあります。「自分のことを気遣ってくれている」と感じた顧客は無断キャンセルをしにくい心理状態になるのでしょう。

マニュアル通りの機械的な受け答えでは客が逃げていく

 先日、ある地方都市の焼肉屋さんに入ったときのことです。「いらっしゃいませ、何にしますか?」と注文を取りにきたのは小学生の男の子。なぜか「ビール!」の注文をためらう私たち。あとで聞いたところ、その子は店の息子さんであり、彼は親の店の手伝いをしていただけでした。「な~んだ」と安心した私たち。昔はそんなふうに「店の手伝いをする子ども」をよく見かけたものです。しかし、チェーン店ばかり目立つ都会で彼のような子どもを見かけることはほとんどありません。昔の「商売」が「ビジネス」という名で呼ばれるようになって、店と顧客のふれあいがどんどん希薄になっています。

 効率的なマニュアルによってビジネスライクな接客が行われる今、無断キャンセルする客が増えるのは必然なのかもしれません。でも、だからこそ無断キャンセルを減らし、ファンやリピーターをつくるためには「よく聞くこと」が必要なのでしょうね。千里の道も一歩から。読者の皆さん、今晩、友人や家族の話に、いつもより耳を傾けてみましょう。それだけで空気が変わるはずです。その成果をぜひ教えてください。

「どこかで会ったとき、詳しく聞かせてもらえます?」

「奇襲で勝つビジネス心理戦」は火曜更新です。次回は3月14日の予定です。

田中靖浩(たなか・やすひろ)
 田中公認会計士事務所所長。東京都立産業技術大学院大学客員教授。
1963年三重県出身。早稲田大学商学部卒。「笑いの取れる会計士」としてセミナー講師や執筆を行う一方、落語家・講談師とのコラボイベントも手がける。著書に「良い値決め 悪い値決め」「米軍式 人を動かすマネジメント」「実学入門 経営がみえる会計」(いずれも日本経済新聞出版社)など

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