「コロッケ道」を究める 揚げ物おいしく食べるために
三寒四温とはよく言ったもので、日中はコートが邪魔に思える日もだんだん増えてきた。
気温が上がると「屋外で飲み食いしたいなあ」という気持ちが湧いてくる。めいめいが酒と料理を持ち寄って、芝生の上で飲むうまさときたら! 食べ物はデパ地下のコジャレたデリでもいい、コンビニの乾きものでもいい、でも誰かの手作りだとちょっと嬉しい。
ある年の春、持ち寄った料理が偶然にもみんな手作りの唐揚げで、10種類近くも唐揚げを食べ比べる羽目になった。最初は「こんなに唐揚げばかりでどうするんだ」と思ったが、これがなかなか十人十色、同じように見えて同じ味はひとつとしてなかったのだ。
にんにくたっぷりスタミナ系、塩とレモンのさっぱりフレーバー、かじって思わず「あっ」と声をあげてしまうカレーの隠し味。名古屋らしく手羽先の唐揚げも。そして何より驚いたのが、Rちゃんが持参した唐揚げだった。
鶏胸肉を使い、下味はなし。そして長時間揚げることにより水分が抜けてパッサパサ。料理は得意という話だったが、ははん、今日は失敗してしまったんだなと思っていると、R夫から衝撃の事実が告げられた。
なんとRちゃんは自分好みの味を追求したあげく、このレシピにたどり着いたのだそうだ。唐揚げとはジューシーが身上だと我々はつい思いがちだが、そうでない人もいたということだ。
多めの塩をふりかけたパサパサの唐揚げを食べ、ビールをぐいっと飲む。彼女が理想としたのは、そのような唐揚げとビールの関係だったのだ。
「揚げる」という調理法は、水と油の交換作業である。
高温の油と出合うことにより、食材の水分が一部奪われ、そこへ油脂の風味や高温加熱特有の香ばしさが加わる。失われた水分を補いたくなるせいか、酒、ことにビールをうまくする…と感じるのは私だけの偏見ではあるまい。
そういえば繁華街のビアガーデンや居酒屋で、焼売もソーセージもたこ焼きもなぜか揚げられて出てきた経験はないだろうか。それには理由がある。
昨今のフライヤーは優秀で、温度も時間も自動で管理してくれるため、お客に出す最後の工程を「揚げるだけ」にしておけば、アルバイトでも対応が可能となるからだ。
というと揚げ物は手抜きなのかと思われそうだが、そうではない。
揚げ物は、油に入れるまでのプロセスが味の違いを生む。丁寧な下処理、素材ごとの下味や衣の使い分け、油の種類、温度、こだわればきりがない。それゆえに揚げ物のバリエーションは幅広く、奥が深いのだ。
私自身もいまだに、コロッケ道を模索中だ。
適当に作ってもおいしいのがコロッケだが、芋のチョイス、つぶし具合、肉の量、玉ねぎの炒め方、隠し味のスパイスなど、カイゼンにはきりがない。かけるソースとの相性も鑑みると、どうやらこれは一生をかける大事業になりそうな気がする。
熱々の揚げ物をほおばり、油をアルコールで流す快感は格別のものだ。春は揚げ物。次々と杯があくこと請け合いである。
タマネギ1個は1センチ幅の輪切り、バラバラにしたら大さじ1の薄力粉と一緒にビニール袋に入れ、まんべんなく粉をまぶす。卵1個にビール50cc、薄力粉50グラムを合わせ、よく混ぜたものに玉ねぎをくぐらせ、パン粉をまんべんなくまぶす。170度に熱した油で1~2分、色づくまで揚げる。衣に使ったビールが残っているので、否応なくオニオンリングとビールを楽しむ。
(食ライター じろまるいずみ)
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