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「奇襲」で勝つビジネス心理戦

「裏メッセージ」を操って売り切れの連鎖を呼ぶ

2017/2/28

米大統領夫人のメラニアさんは型破りの行動で論議を呼んでいる=ロイター

 意図せずに発信してしまう「拒絶メッセージ」

 トランプ新大統領との首脳会談のために訪米した安倍晋三首相夫妻。そのワシントンでちょっとした騒ぎがありました。外交デビューを果たしたメラニア夫人が昭恵夫人の大学訪問に「同行しなかった」のだとか。ファーストレディーにあるまじき振る舞いとして、米国メディアは「おきて破り」と報じています。何かを「した」のではなく、「しなかった」ことで非難される。私はこのニュースを聞いて、「既読スルー」という言葉を思い出しました。

 返事をしないのはただ忙しいだけなのに、やられた側は「無視された」と感じてしまう。それが「既読スルー」の恐ろしいところ。若者のなかには「既読スルー」に強い怒りを覚える人もいるようで、「スルーされて腹が立った」が動機とされる殺人まで起こっています。すぐに返事が届くのが当たり前。恋愛やビジネスのあちこちで、そんな空気が強くなっています。メールに必ずしもすぐ返事をするとは限らない私などは「メール、届いてますか?」とやんわりお叱りを受けることもしばしば。のんびり屋には住みにくい世の中になったものです。

 既読スルーは本人が意図しないうちに、「返事する気にもならない」という拒絶メッセージを伝えてしまっています。メラニア夫人も「同行しなかった」ことで、「傲慢である」という印象を持たれてしまいました。どちらも「~しない」ことによって「裏メッセージ」が生まれています。今回はこの「裏メッセージ(裏メッセ)」と、それをビジネス奇襲に生かす方法について考えてみましょう。

 いきなり話のレベルが下がって恐縮ですが、私が小学2年生のときの想い出から。学校から帰った私は、みんなの前で作文を発表することに「立候補しなかった」ことを親に話しました。すると突然、父親が烈火のごとく怒り出したのです。私は頭を思い切りひっぱたかれたうえ、物置に閉じ込められました。泣きながら許しを乞うたあの日のことは、いまも忘れられません。

 あのとき私は、自分がなぜ怒られねばならないのか、まったく理解できませんでした。何か悪さをしたのではなく、作文の発表に「立候補しなかった」だけです。でも父親からすると「馬鹿野郎、てめえ、手も挙げられないのか!」ということなのでしょう。まったくもって理不尽な話ですが、あれは「しない」ことが怒りを買う時代の先取りだったのかもしれません。

「なにもしない」の安全策に潜むリスク

 私の父親は、友だちの家のガラスを割るなどの「悪行」についてはあまり怒りませんでした。「男の子はそれぐらい元気な方がいい」という理屈で。「なにもしない」のは最低である。一歩踏み出して動け、それで失敗しても気にするな。そう教えてくれた父親は、いま思えばありがたい存在でした。

 いまや私の親父のような人間は少なくなりました。それどころかリスク回避やコンプライアンス重視のせいで、「あれはするな」「これはやめろ」と言われることが多くなっています。だとすれば「なにもしない」のが一番。しかし、「なにもしない」ことにも大きなリスクがあるのです。それは意図しない裏メッセを相手に伝えてしまうこと。「~をしない」が好まれる世の中にあって、ますます裏メッセに鈍感になる私たち。裏メッセは新たなリスクになってきたといえるでしょう。

EKAKI / PIXTA

 たとえば2人の女性から求婚されている男性がいるとします。Aさんと結婚すべきか、それともBさんを選ぶべきか。幸せな彼はここで「選べない」状況に陥るかもしれません。ここで決断できない彼は自ら意図しないうちに「優柔不断な男である」との裏メッセを発信してしまうのです。これでは2人から愛想をつかされてしまいかねません(身近にあった実話です)。皆さん、恋愛でもビジネスでも、裏メッセに気を付けましょう。それだけでなく、裏メッセを味方に付ける方法を考えましょう。そうすれば奇襲を繰り出すことができます。

逆効果になりかねない「絶賛発売中」の売り文句

 たとえばモノを売るとき、当たり前のように「絶賛発売中」といった感じで売ろうとしていませんか? その鼻息荒い「売らんかな」姿勢は、もしかすると逆効果かもしれません。なぜならお客さんに「あまり売れていない」という裏メッセを伝えてしまう可能性があるからです。食料品を売る某人気ネットショップでは、いくつかの品物に「売り切れ」と表示しています。売り切れ商品の画面を削除するのではなく、あえて「売り切れ」を明示する、これは心理的にかなり効果があります。なぜなら「売り切れ」表示を見たお客さんは、そこから「とても売れている」という裏メッセを勝手に読み取るからです。きっと何人かは「今度入荷したら買おう」と思うことでしょう。

 イベントやセミナーを開催する会社から数多くのメールが届きます。おもしろさやユーモアのかけらもない、単なる「開催予告」のメール。そのメールを見た私は「あまり人が集まっていないんだな」と感じます。売り切れになったものもあるようですが、それはあまり告知されません。結局、いつも届くのは「申込受付中」の内容ばかり。心理的な奇襲を仕掛けるためには、こう言いかえた方がいいでしょう。

 「満員御礼」

 集客中のイベントを熱心に告知するより、すでに満員となったイベントについてデカデカと「満員御礼」と表示する。これによって人気がある事実を顧客に伝えることができます。

 私たちはすでに「売れた」ものを、「終わった話」にしてしまい、まだ「売れていない」ものを売ることに熱心です。しかし、過去に売れた事実を「伝えていない」ことでチャンスロスが発生していることを見逃してはなりません。ビジネス奇襲を繰り出すには、「人が見ていないものを見る」感性が大切なのです。

「奇襲で勝つビジネス心理戦」は火曜更新です。次回は3月7日の予定です。

田中靖浩(たなか・やすひろ)
 田中公認会計士事務所所長。東京都立産業技術大学院大学客員教授。
1963年三重県出身。早稲田大学商学部卒。「笑いの取れる会計士」としてセミナー講師や執筆を行う一方、落語家・講談師とのコラボイベントも手がける。著書に「良い値決め 悪い値決め」「米軍式 人を動かすマネジメント」「実学入門 経営がみえる会計」(いずれも日本経済新聞出版社)など

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