納豆、粘りと匂いは是か非か おいしく食べる秘策あり
学生時代、一人暮らしの友人宅へ泊まりに行ったときの話だ。夜遅くまで飲み交わし、酒がまだ抜け切らぬ翌朝に彼女が作ってくれた朝食は、ご飯に味噌汁、あとはちょっとしたおかずといった、簡素だが嬉しい和食。「いただきます」と手を合わせ、改めて食卓をじっくり見た私は、小鉢に盛られたモノに釘付けになってしまった。
「こ れ は な に ?」
こんもり盛り上がった大根おろしに数粒の茶色い豆。それは納豆おろしというには、あまりに納豆に失礼だというくらい、納豆とおろしの比率がおかしいものであった。
友人いわく「とにかく糸引くのが嫌い、匂いも嫌い。でも納豆は体にいいから食べないといけないでしょ。それで工夫したの」。確かに大量の大根おろしと混ぜれば、納豆の粘りも匂いもほぼ気にならなくなる。だが、そこまでガマンして食べるようなものか。嫌いなものを無理に食べるストレスで逆に体に悪いんじゃないかと、ふたりで大笑いしたものだ。
納豆と糸、粘り、匂いは切っても切れないものだ。納豆大好きな私でも、いつまでも切れない糸に閉口することもある。混んだ電車内で隣の人から納豆の匂いがしたら、むむとなる。嫌いな人には我慢ならないだろう。
納豆の匂いを軽減する方法は、ないでもない。まずは加熱すること。生のまま食べることが多い納豆だが、油との相性もいい。天ぷらにしたり、チャーハンやチヂミ等に具材として加えると、粘りも少なくなり食べやすい。だが出来上がったものはともかく、調理中の匂いは生の数十倍は強烈だ。納豆嫌いが自ら調理するのは、諦めた方がいいかもしれない。
キムチやカレーなど、個性の強い食べ物と合わせるという手もある。それぞれの個性が対消滅を起こし、マイルドに食べやすくなるのだ。ネギや辛子を多めに合わせるのも、同様の効果がある。しかしこの方法は自分は良くても、他人からするとよりグレードアップした匂いになる危険性もはらんでいるので、注意が必要だ。
では糸の方はどうか。こちらも方法はないでもない。納豆の糸は水溶性のため、水気に触れさせればいいからだ。前述の大根おろしを混ぜるのもそのひとつ。他に全卵を合わせたり、汁物に入れたり、もっと大胆に「洗ってしまう」というやり方もある。
粘りの少ない、匂いも少ない納豆を作ることは、納豆業界の長年の課題であったという。しかし現在ではメーカーの研究により、匂いも粘りもかなり軽減した商品が出てきている。そのうち「納豆が粘る? お客さん、昭和の人?」なんて言われてしまう日も近いのかもしれない。
しかし私は納豆くさーくて、ねばねばーっとした納豆らしい納豆が好きだ。
ちなみに納豆に卵を使うかどうかのアンケートを取ってみたが、卵を使わない人が半数以上いる上「卵を使うと粘りがなくなるのが嫌だ」「納豆本来の香りが弱くなる」などのコメントも寄せられた。糸マシマシ匂いマシマシ納豆の開発もぜひお願いしたいところだ。
納豆1パックに付属のタレかしょうゆ小さじ1を混ぜ、万能ネギ1本の小口切りも合わせる。市販の天ぷら粉小さじ2も混ぜたら、180度に熱した油の中へ4~5等分にして落とし、カリッとするまで揚げる。レモンと塩でどうぞ。
(食ライター じろまるいずみ)
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