冬の美味、フグの白子 官能的な「美女の乳」を味わう
タラやフグが産卵期を迎える1月~3月は、オスの精巣部分である白子もおいしくなる季節。とろりと甘い白子は、さっと湯引きしてから白子ポン酢にしても、鍋の具材にしてもうまい。
タラの白子は秋田や山形、福井では「だだみ」と呼ばれ、北海道では「たち」、京都では「雲子」と呼ばれるなど、地方によっても呼び名が違う。
トラフグは卵巣や肝臓に猛毒を持つことで知られるデンジャラスな魚だが、身や白子は無毒または微毒で、非常においしい。身を薄くスライスしたフグ刺しは食感もよく上品な味わい、てっちりはえもいわれぬ良いダシが出て、シメの雑炊までうなるほどのおいしさ。
唐揚げもいい。毒があってもなんとか工夫して食べ続けたい食材であったことは、一度味わえば納得だ。縄文時代や弥生時代の貝塚からフグの骨が出土していることから、日本人は縄文時代からフグを食べ続けてきたのだろうと考えられている。
なかでもフグの白子は中国では「西施乳」と喩えられたという。「西施」とは中国古代四大美女に数えられた、春秋時代の伝説の美女のこと。つまり、フグの白子は「美女の乳ほどに味がよい」とまで称賛され、愛されたのだ。
たしかに、ミルクを想像させる真っ白な色、とろーり濃厚で絹のような舌触り。中国の人々が美女の乳を想像しながら味わったのもさもありなん。旬の白子のおいしさは官能的ですらあるのだ。
フグの白子は白子ポン酢でも、鍋に入れても文句なし。天ぷらもたまらない。焼くと外側がカマンベールチーズのような食感になってこれまた珍味だ。
だが、「美女の乳」らしく味わいたいなら白子酒をおすすめしたい。裏ごしした白子に熱々の日本酒を注ぎ入れまぜあわせた白子酒はなめらかでほのかに甘く……美女の乳はひょとっしてこんな…とイケナイ想像をめぐらすのもオツな大人の味だ。
アンコウ、サケなど水揚げ港近くでしか出回らない貴重な白子もある。サケの白子は秋口だが、アンコウ、タラ、フグの白子は冬が旬。旬のうちに一度でも味わえたなら、幸福ならぬ口福に違いない。
(日本の旅ライター 吉野りり花)
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