暗黙の前提条件をわかっている
経営コンサルタント、セレブレイン代表取締役 高城幸司(最終回)
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13.暗黙の前提条件をわかっている
中堅の食品商社で研修をしたときのこと。社員の中に、「僕はすごく『優秀』だ」と自負している人がいました。
その会社が取り扱っているのは穀物で、国内に7店舗を持つ専門商社。売り上げは700億円です。これを基に「新しい事業を考えてください」と言ったところ、彼はその前提条件を無視して「メキシコに会社をつくり、そこで商品を仕入れて、北米に売りましょう」と自信たっぷりに言い出したのです。
そもそも、その会社は国内にしか拠点がありません。それでも「まずはメキシコです」と言い張る。なぜなのかと思い、話を聞いてみると、彼自身が以前、有名な穀物商社のメキシコ支社で働いていたから、ということでした。
「優秀」と自覚する人の中には、こういった発言を無意識にする人がいます。中には自分の「優秀さ」を示すために、あえて前提を飛び越える人もいます。会社の前提条件を越えるくらい僕は「優秀」です、というわけです。しかし、それはいただけません。
ラーメンのチェーン店で、社長が「今の発想を捨て、新しい観点でプランを考えろ」と言ったとします。そこで、「明日からとんかつ屋をやりましょう」と提案する社員がいたとしたら? 社長からは「ちょっと待て、そもそもうちはラーメン屋だろ」と呆れられてしまいます。
最初に「ラーメン屋の範囲で考えて」とは誰も言いませんが、会社の、とくに上層部の間では、そういった前提条件は暗黙知(経験や勘に基づく知識)となっていることが多い。そんな中で、どれほど優れたとんかつ屋のプランを提示したとしても、会社からは「優秀」だとは言われないでしょう。