西の丸餅・東の角餅、どこが境界線? 食べ方に地域差
このごろのお餅(1)
今回からこのごろのお餅をテーマに取り上げる。まずは懐かしい餅つきの情景から。
それで思い出したのですが、私の嫁のところでは丸餅とか鏡餅も手作りでつくりますが、少し塩を多めに入れて餅をつき、それを四角く形作る「ねこ」というものもつくります。猫が寝そべっている様子からその名前がきているのか語源がはっきりわからないのですが、それをチーズみたいに薄く切って油で揚げてせんべいみたいに食べるのです。一種の保存食みたいなものですね。ご存知ですか?
餅つきは毎年12月30日に行い、私は杵を持ってペッタンコペッタンコとやっています。今年も行いますので、その「ねこ」の写真をとって送ります(明渡@奈良県さん)
田舎に住んでいた子どものころ、我が家でも裏庭で明渡さんのところのように餅つきをしていました。いつの間にか賃つきのおじさんたちがやってくるようになって、久留米に引っ越したら買うようになりました。思い出すのは今は亡き父が火鉢で餅をふたつ焼き、ひとつは砂糖醤油をつけて、もうひとつは納豆を包んで食べていた姿です。久留米は九州における納豆の飛び地、熊本に近いせいか昔から納豆に抵抗がなかったようです。
ここでデスク乱入「ねこ」とは「かき餅」の一種でしょうか? 我が家では暮れにのし餅を薄くスライスして干しておき、季節外れに油で揚げておやつにしていましたが、カマボコ型のかき餅もよく見かけます。スライスして「カマボコ」になる前のものがもしかしたら「ねこ」なのでしょうか?
餅が好き。こんなに好き。
高校生の終わりごろはさすがに量が減りましたが、「カップヌードル」の中に焼餅を入れて食べるのが一番好きでした。ずっと東京暮らしでしたので長方形の角餅で育ちました……昔、熊本の阿蘇あたりでは丸餅に納豆をくるむようにして食べると聞きました。九州の他地域ではあまり見ない食べ方だとか。九州における納豆のメッカ熊本らしいなあ、と思っていました。関東では納豆と餅はよく見かける組み合わせですよね。
ところで、売場で「あんサンド」という商品を見つけました。杵つきもちの中にあんが入った風味豊かなおもち、というキャッチフレーズ。オーブントースターなどで焼いて食べます。なかなかイケました(ミルフォードさん)
あの、ちょっとうかがいますが、カップヌードルの中に焼いた餅を入れると、麺が餅に絡みつきませんか? それとも「力うどん」感覚でOK牧場? 今度やってみよう。
それと亡父がやっていたのはこの阿蘇式食べ方です。亡父がどこで納豆を餅で包んで食べる方法を知ったのか聞いたことはありませんでしたが、やはり文化圏として近いので中・北部九州の食べ方なのかもしれません。
ちなみに私は食育の一環として子どもに「餅は砂糖醤油をつけて食べるものである」ということを教えていますが、昨年の正月にちょろぎ1カップを1人で食べた二女は素直に親の言うことを聞いております。
予定調和的に「納豆餅」が登場する。
何を隠そう、山国は「納豆発祥の地」だった!? 京北町には常照皇寺という桜の名所がありますが、その開山の祖・光厳天皇を描いた絵巻の中に、藁つとに包まれた納豆の姿があります。光厳天皇は納豆をこよなく愛され、平安末期より山国では納豆が常食されていたと言われています。そんなわけで、山国のお正月は納豆餅で三が日を祝うのが習わしでした。
また、幕末には里人有志が「山国隊」を編成して鳥羽伏見の戦いに参戦し、官軍を助けて近代日本の夜明けにつくしました。納豆餅はその山国隊の郷土食として広く勤皇の志士たちに賞味されたと伝えられています。
ほんまかいなとお疑いのむきもあるでしょうが、山国隊に真っ先に参加し、先祖伝来の山も田畑も全財産をつぎ込んだおっちょこちょいは私の曾祖父でした。なので、「関西人は納豆食べない」というのは京都ではそうでもないです(いけずな京女42歳さん)
納豆を餅につき込むとはまた豪快な。全財産を山国隊につぎ込んだご先祖様も豪快です。京女さん、オフ会で会いましょう。
山国隊が登場したからという訳ではないが、「合戦」の話。
雑煮は鶏出しで具は鶏肉・サトイモ・ゴボウ・コンニャク・セリなどで、醤油味です。新潟市近隣では焼餅でなく煮るところも多いそうです。鮭やイクラ(=ととまめ)を入れるのが特徴です。
山形のお餅で独特なものには「納豆餅」があります。つきたてまたは水・お湯で柔らかくした餅に納豆を絡めたものです。これも納豆ネタで以前触れられていたと思いますが。現在住んでいる新潟では食べないようです。
さて、新潟市近郊の新発田市で「全国雑煮合戦」なるイベントが企画されました。福岡・香川・京都・神奈川・千葉・群馬・福島からの参加があるようです。このほかにも市内店舗の創作雑煮の発表があるそうです。1回限りなのか今後も継続するのかはわかりませんが、ぜひ顔を出してみたいと思います(あがきた@新潟さん)
同じ県内でも角餅と丸餅が混在しているんですね。焼くところもあれば煮るところもある。山形の納豆餅は餅で納豆を包むのではなく絡めるそうです。
で、あがきたさんにお願い。もしいらっしゃるのであれば全国雑煮合戦の模様をお知らせいただけませんか。特に各地の餅の形状、焼くか煮るかなどについてお知らせいただけるとうれしいです。
今回、餅をテーマにした理由のひとつに、過去の学者の聞き書きや研究によって示されていた丸餅・角餅の境界線を検証するというものがある。すでに山形県内でも北前船の影響で丸餅になった可能性がある酒田の例が報告されるなど、一筋縄ではいかない問題ではあるが、ネットの力を信じて追求していきたい。
私は福井県人ですが、当地は丸餅で石川、富山は切り餅です。少なくとも雑煮にする餅はそうなるはず。
福井でも具(大豆とか青のりとか小エビとか)を入れて焼き餅にする餅は切り餅です。それと、愛知の少なくとも尾張地方は切り餅です。
雑煮だと福井は味噌味で丸餅を煮る。石川・富山は醤油味切り餅を焼く。尾張は醤油味で切り餅を煮るです。
どなたがおっしゃっていたのかは忘れましたが、切り餅・丸餅の境界線は福井と石川の間であると聞いた覚えも確かにありますが、いかがでしょうか?(越前女さん)
食べ物の境界線には糸魚川―静岡構造線近辺のほかに琵琶湖東岸ラインというものもあった。肉まん・豚まんの呼び方、いなり寿司は三角か四角かという境界線がほぼ琵琶湖東岸を走っていたことを覚えておられるだろうか。あるいは餅の形もそうなのか。それとも……。
嫁ぎ先の福井のお雑煮は昆布出しの具なし味噌汁の中に丸餅が1つ沈んでるだけと言うものが一般的なようで、さみしい思いをしています(新潟出身福井在住主婦さん)
新潟には豚汁に鮭の切り身が入った雑煮がある。福井の雑煮が味噌味というのは動かないらしい。と、雑煮の話ではない、餅の話であった。しかし、餅と雑煮は切っても切れない仲ではある。雑煮情報もどうぞ。
名古屋式お雑煮は角餅を焼かずに煮て入れるというのです。関東と関西でここまでの人生の半分ずつを過ごした者としては、「角餅を焼いて入れる」のでなければ「丸餅を煮て入れる」のだという2項対立にようやく順応し、これを内面化したところなのです。角なら焼く。丸なら煮る。このどちらかであるはずだったのです。
それを、角餅を煮るとは。私はこれからの人生を、これへの順応に捧げることになるのでしょうか。ていうか、単にどっちかにしてくれー(日野みどりさん)
そうなのである。久留米では丸餅を煮て雑煮に入れていたのに、「角餅を焼く」東京で生まれ育ったはずのカミさんは「角餅を煮て」雑煮を作るのである。だが、新潟出身福井在住主婦さんによると新潟でも角餅を煮るそうであるから、世の中は複雑なのである。
我が家でなぜ餅は焼かずに煮るかというと、カミさんがオーブントースターを買うことに命懸けで反対しているからである。ビルトインのオーブンがあるのに、なぜ買う必要があるのかと主張してやまない。
焼き網だって私は西友の2階で何度も買った。でも気がつくと流しの下の奥深くにしまわれ、さらに気がつくと捨てられているのである。どうしてか、焼き網が嫌いなようなのである。ガス台の魚を焼くやつは上から加熱するタイプなので、餅を焼くと上ばかり焦げて、火鉢でやるようにぷくーができないのが寂しい。
で、どうしても焼きたいときはオーブンを予熱し250度くらいで様子を見ながら焼くことになるが、たかが餅1個のために多量のガスを消費していると思うと、何だが玄関の電気をつけるのにプラグを原子力発電所に直接つないでいるような気分になるのである。
次のメールの意味は深い。
子供のころから、年越しは「お寿司(にぎり)」と決まっていて、それでみんなおなか一杯になるので、そばを食べる余地がなかったかもしれませんが、大人になるまで年越しそばというものの存在を知りませんでした。
別に我が家が特殊だったわけではなさそうで、大晦日は(お寿司屋さんに)時間指定の予約をして待っていますが、忙しいのか遅れることが多いです。
ほかに食卓にのるのはうま煮(世間で筑前煮といっているものとたぶん同じ)や茶碗蒸し、おせち料理の一部、なますとかです。いうまでもなく、茶碗むしには甘い栗が入っています(三月うさぎさん)
伝承料理研究家の奥村彪生氏によると全国の正月料理で重視されるものは「年取り膳」「正月膳」「重箱に詰めた組重」「大鉢や大皿盛り」の四つに分類できるのだそうである。
塩鯨が話題になった折、塩鯨は新潟では夏の食べ物だが北海道では年越しの食べ物であるというメールを紹介した。そして、今回の「北海道では大晦日に寿司など豪華な食べ物が並ぶ」というメールが来着した。つまりこれは「年取り膳」の風習であって、塩鯨もその仲間に入れてもらっているということであろう。
年越しそばというのは、本来はきちんとした年取り膳をしつらえるべきところ、大晦日が忙しくてならない江戸の商家が簡単にそばで済ますようになったのが起源であるというから、別に北海道にまで伝播していなくてもいいのである。
旧暦では、夜から1日が始まるとされるので、元旦は大晦日の夜からということになる。従って大晦日に年取り膳をいただくのが自然。
久留米では何かというと「鉢盛り鉢盛り」と大騒ぎをする。正月も外注するときは鉢盛りであるからして、奥村氏のいう「大鉢や大皿盛り」文化圏ということになるのであろうか。
さて、エミー隊員がこんな写真を撮ってきた。「どう、おわびしながら出すんでしょうね」としきりに考えていた。ついでながらこの店には「豚の三段腹肉」という単品メニューが存在する。誰ですか、自分のお腹を見詰めているのは。
デスクあわてて顔を上げて えっ、だれだれ?
大勢でこの店に行った折、エミー隊員は「弁慶鍋、弁慶鍋」と連呼していたそうだが、「義経鍋」の誤りなので、彼女に成り代わって東京のお父さんこと私が訂正する。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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