四国「専門店なき常食地帯」 おでん文化、地域で違い
おでん再論(3)
東京・神田「媽媽(まーまー)」におけるオフ会は名古屋からの参加者もあり、騒然たる雰囲気の中で盛大に執り行われた。なぜ騒然としたかというと、会場が狭かったのである。地下の一室を借り切っての酒盛りだったのだが、酒が回るにつれて声は大きくなり、めいめい勝手にしゃべるもんだから、話し声や笑い声で部屋中ワンワン状態だったのである。
そんな会場が一瞬静まり返ったのは、デスクがどこかに消え黄金色の着物に着替えて戻ってきたときだった。そう、マツケンサンバ2の宴会用コスチュームであった。本人の名誉のために写真を掲載するかしないか迷っているところだが、私はもしデスクが踊りだしたらどうしようと焦ったのだった。
このコスチュームはエミー隊員がどこかで購入し、ひそかに音楽テープまで用意していたのである。デスクは会場に向かう車の中で「ぼくにだって羞恥心とプライドというものがあります。踊ったりしませんよ」と胸を張って言っていた。しかし、もしもあの底抜け音楽が流れていたら酔ったデスクが踊り出す可能性はあったと私は思っているのである。
デスク告白 可能性はありませんでした。なぜかというと、実は僕、マツケンサンバ2をきちんと聴いたことないんです。もちろん振り付けなんて見たこともない。だから踊れないのでした。流行について行けないワ・タ・シ。といいつつ、調子こいてたな。
エミー隊員 だまって音楽に合わせて動いてればいいんです!!
景品争奪戦は会半ばを過ぎて始まった。まず全員に1から20までの番号を書いたくじをひいてもらった。景品が詰まった袋も20個。全員に行き渡る。空くじなしである。
私がひとつひとつの袋から中の景品を出しつつ紹介する。
「イカスミサキイカ。三林京子さんご提供です」「はい、これは仙台麩です。油麩丼ができますよ」「えーっと、豊下製菓の豊下さんから贈っていただいたなにわ伝統野菜を使った飴の詰め合わせ。珍しいものです」「これはレアものです。パスタ用の稲庭うどん。いったい何なのでしょうねー」「おっと、赤パンツです。未使用と思われます」といった具合である。
そして品物を紹介した後に袋を裏返すと番号が書いてある。その番号のくじを持っている人が「はーい」と手をあげる。その都度、「おーっ」とか「わーっ」と盛り上がったのであった。
飲み放題の制限時間2時間を過ぎても終わらず、というかお楽しみはこれからだという感じで自腹モードに突入。その結果、私は酔っ払ってしまったのだった。「弱腰うどんで来年の流行語大賞を取る」とわめいていたらしいが、そんなこと言った?
エミー隊員は着物で登場した。そのほか2人の小社女性社員が個人的に出席した。参加者から「日経の女性社員は美人ぞろいでうらやましい限りです」というメールをいただいたので、あえて紹介する。よかったねエミー隊員。
エミー隊員 まんもすうれぴーっ。野瀬さんもデスクも、行く途中に出会った会社の人も誰一人ほめてくれないので悲しくなっていたところでした。着物にした甲斐がありました。
デスク質問 日経の男性社員は美男ぞろいでうらやましい限りです、ってメールはなかった?
エミー隊員、小社女性スタッフを代表して ない!
ここで告白しなければならない。岐阜の中島さんからいただいた「漬物ステーキ」ならびに「柿ドリンク」「柿サワー」を会場に搬入し忘れ、貴重な物件はいまだエミー隊員の机の下に保管されたままなのである。
これではいけないので大阪オフ会に持っていくのである。
尾羽毛(おばけ)は当然、尾羽(尾の部分の皮)をゆがいてから、そのまま薄く切って食べるが、塩鯨は塩漬けなのでこのまま食べるときは、御御御付に入れたり茶漬けにしたりして食べるか、軽く塩抜きして食べるそうです。新潟県地方の郷土食らしいです。
トマトを最初におでん種にしたのは静岡の「五鉄」というお店で、30年前におでん種にし、その後東京の「よしひろ」とか「すえ幸」とかが入れたと聞きます。
この「五鉄」に行くといろいろ変わったおでんが食べられるとか。例えば「りんご・イチゴ・バナナ」をはじめとして、創作物が130種以上あり、そして出し汁も「関東・関西・静岡」味があるそうなので、一度行ってみたいところです(島野さん)
「おばけ」(おばいけ・おばやけ)が「尾羽毛」からとは知りませんでした。塩鯨って新潟の郷土食? それが九州にも広がったのでしょうか。『たべもの語源辞典』を開いてみましたが、その点に関する記述はなし。代わりに「皮と肉との白と黒の鮮やかさに驚いた者たちが黒白(クロシラ)とよんだことから、クロシラといった。それがつまってクジラになった」とありました。わーお。
御御御付は「おみおつけ」。
塩鯨でもう1件。
道南で鯨の汁ものが正月に食べられていたなんて……日本は広い。というのも『たべもの起源事典』で「鯨鍋」の項を読んでいたら「はりはり鍋とも呼ばれる水菜と鯨肉を使った鍋ものは昔から大阪の庶民の食べ物で、関東大震災後に東京でも試みられたもののすぐに立ち消えになった。東西食文化の典型的な違いがわかる」とあったのです。鯨を好んで食べる地域、食べない地域といろいろです。
大阪のおでん種にころやさえずりがあるのもこれで納得しました。大阪人は鯨好きです。
大阪の隣り、和歌山に行ってみよう。バスラーメンとおでんの関係。
で、このバスラーメンにつき物なのが、はやなれ(寿司)とゆで卵。カウンターに何げにおいてあるので、ちゅうか出来てくるまでについ食べてます。最近はいなりもあるみたい。それと、おでんね、セルフサービスです。讃岐のうどん屋とおなじシステムか。おでんには必ず串が刺さってて串の数で精算されるんやけど、なんとなく自己申請的。
ここのはゴッタ煮でなくて、おでん屋にあるようなしきり付きの専用鍋なことが多くて、ネタは何はともあれスジ。それからコンニャクと卵と大根とジャガイモ、焼き竹輪、ごぼ天、イワシ天、平天くらいかな。よう煮えたスジの美味いこと。家族で行くと取り合いやったもんです(和歌山生まれ札幌在住のちろこさん)
和歌山ラーメンといえば一時期「車庫前系」とかなんとかが話題になったが、「田舎の方に行けば行くほど店がバスになる」という法則はどれくらい知られているのだろうか。そしてバスの運転席辺りが厨房で、車内じゃなかった店内ではおでんが普通に食べられているのである。前乗り後ろ降りのバスなら、乗車してすぐのところにある厨房に中華そばを注文しておでんを取り、後部の座席で食べながら中華そばの到来を待つことになる。すっごく合理的。こういうメールを読むと行ってみたくなるのである。バスラーメンか。いいなあ。
和歌山ラーメンはサバの早ずしとセットというのは常識としても、おでんとの関連はあまり言われてこなかったと思う。香川ではおでんはうどんの友であり、和歌山ではラーメン(中華そば)の友なのである。
デスクひとりごと 和歌山って大阪のとなりだよなぁ。
エミー隊員 じ・ば・ら?
デスクきっぱり もちろん!
四国のおでんはユビキタス?
四国の人というのは、いつでもどこでもいくつでもおでんを食べているんですか。専門店なきおでん常食地帯。
おでんがうどんと共存しているところがここにもある。
我が家では、おでんに里芋はデフォルトです。知り合い何人かに聞きましたが8割は里芋入りでした。お店の商品おでんでは5割くらいか。入っていない理由は「スープが濁る」でした。
私が若いころ屋台村でピザ屋をやってるとき、隣のおでん屋の仕込みは、大根と手羽先を一緒に煮て、冷めたら手羽先のガラは捨てて昆布とかつお節の出しに混ぜて薄口醤油で味を調えていたと思います。薄味だけどコクがあっておいしかったなぁ。
久留米には「はんぺん」がありません。スーパーにも売ってはいるんですが、たいがい「賞味期限切れ安売りワゴン」にあるくらいマイナー食材です。で、メジャーなおでんネタが「丸天」。直径12cmくらいの丸く薄いさつま揚げなんですが、実はうどんの具の定番でもあります(久留米焼き鳥学会の豆津橋さん)
久留米でもうどんにおでん。そしてラーメンにもおでんです。久留米の人ってそんなにおでんを食べていましたっけ。私の家ではそうでもなかったので知りませんでした。
前回からのテーマ、おでんに入る動物系に関して「鶏の手羽先」が再度登場しました。「丸天」は久留米弱腰うどんの必須パートナー。おでんでも活躍しています。
ここでデスク乱入 実は忘年会の景品としてギョウザ巻きを買ってきたのですが、その際、東京の下町黄金郷、立石のおでんだね屋さんで他にも亜種を購入、自宅でひっそりと楽しみました。シウマイ巻き、ウインナ巻き(もちろん赤いやつ)を初体験しました。紅ショウガ入り薩摩揚げはうまかった。
家では大根、練り物(赤、緑や白の丸い練り製品ありました。これが串に刺さって店で売っています)、卵、ジャガイモそれからスジでした(眠れる豚さん)
広島でもおでんはバイプレーヤー。そしてHAMANさんも書いておられましたように、広島ではジャガイモのようです。
話が西に偏ってきた。東に目を向けよう。
それと、津軽そばが現地にではなく函館市にあるのをご存知か。もちろん100パーの手打ちそば。そばはタレが命。たれも100パー天然素材。それが逆輸入されて今、青森ではにわかに津軽そばを自称するものもでているという(お名前ありません)
それから初出の「ぼたんちくわ」。煮込み専用のチクワなのですが、珍しいモノだなんて知りませんでした。普通のチクワ(穴にキュウリやチーズを入れて、おつまみとかにするタイプ)って、両端が白くて真ん中だけに茶色い焼き色の部分があるでしょ。ぼたんちくわは1円玉くらいの丸い焼き目がちくわの全体に点在しています。原料のすり身の種類の違いで真っ白ではなく少し黒ずんでて、長さも太さも生食用のチクワより1回り大きいです。あくまで煮込み用なので生のまま食べるとボソッとしますが、ダシで煮込むと味がよくしみ込みます(八戸市・あんパンチさん)
同じ青森県でも津軽と南部では違っている。
ところで4歳のお子さんが上手にツブを食べる姿は確かにかわいいに違いない。お父さん似?
津軽そばについては日麺連HPの中の「にっぽん蕎麦紀行」37回。なかなか感動的な話である。
おでん常食地帯でないところには、それなりの理由が存在するはずである。その理由のひとつ。
それに冬寒いとこでは、お汁もしっかりおなかに収める料理でないと体が温まりません。新潟の「のっぺい」でも、山形の「納豆汁」でも、お汁いただきますメニューです(新潟市 矢作ちかぶーさん)
あがきた@新潟さんからも「おでんはマイナーです」というメールをいただいた。おでん専門店もおでんをメインにしている店も見当たらないそうである。そして新潟では里芋、ジャガイモとも入らないとか。
すこしアトランダムに。熊本のおでんにはこんなものが入る。
私も食べたことがあります。あれはイワシのかまぼこの薫製ですかね。香りといい歯ごたえといい、おっしゃる通りビールにグー。
函館と青森では「ショウガ味噌」だが、四国の南予地方では「みがらし味噌」。愛媛県生まれ神奈川在住さんによると、みがらし味噌は「フカの湯さらし」とおでんの両方に使うとか。辛子、麦味噌、酢、砂糖、酒を丹念にすって作る。
朱肉のような色の消しゴムサイズの物件は、近江八幡の赤コンニャクと思われる。京都で一般的かどうかは不明。
長野さんからは「東京でむちゃくちゃ弱腰のうどんが食べたいなら、目黒・権之助坂の途中にあるセルフ讃岐うどんの店に急げ」との情報。讃岐うどんで超弱腰というのがうれしい。繁盛しているそうだ。世間に弱腰派は多いのである。
目黒駅から権之助坂に下りる角のパチンコ屋に隣接した立ち食いそば店がまだあるなら、そこも弱腰うどんだった。
おでんから離れよう。三林京子さんから「ヱビス」の写真が来着。あなたの「ヱビス」はタイが1匹? 2匹?
第1部でテーマ候補にあがってそのままになっていました。時期がきたらやりましょう。皆さん、時期が来たらですよ。来週、どっとメールを送ったりしたらいけませんよ。
声涙ともにくだるようなこの問いかけに、北海道在住者および出身者は何と答えるのであろうか。意外な地域から反響があるかも。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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