讃岐だけがうどんじゃない 博多や大阪「弱腰うどん」
「海の家」改めノンジャンル(4)
初日5万人、2日目10万人で計15万人。そう久留米で2004年11月6、7日に開かれた「史上最強最大 ラーメンフェスタ」の入場者である。初日はそうでもなかったが2日目は日曜日とあって朝早くからラーメンを食べようという人々がどこから湧いて来たのかというくらい詰めかけ、大変な騒ぎになってしまった。
用意したラーメン3万3000食に対して入場者が10万人だから食べられたのは3人に1人の計算である。早々と売り切れになる店が続出した。人口23万の町のイベントに15万人て、あんた大変なこつばい。
注目のラーメンバトルは醤油の佐野実さんが「とんこつ」、とんこつの香月均さんが「醤油」、同じく河原成美さんが「塩」、とんこつ醤油のデビット伊東さんが「味噌」に挑戦した。これに80人の審査員が点数をつけてグランプリを争った。
私も審査員になった。4人の作品の写真をここに掲げるが、それぞれに優劣つけがたい出来。
私が座ったテーブルは全国の名だたるラーメンフリークというか専門家が集まっており、隣がTVチャンピオン第8代ラーメン王で、向かいが巨大ラーメンサイト「東京のラーメン屋さん」を主宰する大崎さんという顔ぶれ。その他の人々も雄大な自腹を誇る、いかにも「この体、ラーメンでできてるぞ」みたいな面々ばかりであった。
彼らの食べ方を観察していたのだが、最初は香りをかぐのが作法みたいだった。そのまま鼻をスープに近づけ、それから箸でスープをかき回してさらに香りチェック。その後に具や麺を食べる。
のほほんとうまそうに食べている人はいなくて、真剣な顔してズルズルやっている。「そうか、専門家ってこんな風に食うのか」と感心して見ていたのだった。
私は香月さんの作品を「一番うまい」に選んだが、集計の結果、河原さんが優勝した。
「博多の雑煮を念頭に置いた」という作品で、焼いた小さなおもちが入っていた。ラーメン店主というより凄い料理人です、彼らは。
ラーメンフェスタ会場とは別のイベント広場は屋台村になり、こっちも深夜まで混雑した。
予告通り佐世保の西尾さんが久留米に見え、デスクも交えて屋台で飲んだ。ここにはシンポに参加してくださった民族学者の石毛直道さん、中国麺の大家、坂本一敏さん、コナモン協会会長の熊谷真菜さん、富士宮やきそば学会会長の渡辺英彦さんも加わって、誰が金払っているのかわからないけどなんだかタダで飲める酒が出回っていたのが嬉しかった。
デスク記憶があやふや どこで何を食って、どう支払ったかは覚えてないのですが、とにかく良く食い、飲みました。
西尾さんと話し込んでいた熊谷さんが突然「佐世保に行く」と言い出して、翌日本当に佐世保に行ってしまった。西尾さんの案内で佐世保バーガーや蒸しまんじゅう、パンといったご当地コナモンを堪能されたようである。
さて皆さんからいただいたメールがたまっている。ご紹介ご紹介。
まずは「おでん」関連から。と言ってもいつものように紹介していると長大になるので、要点だけを列挙する。
「かんとうに」の具は牛肉・突きこんにゃく・厚揚げ・にんじん・ジャガイモ・大根・昆布(2センチ角)・ごぼう天・うずら卵水煮です(竹村さん)
学校給食ではどんなメニューであっても必ず牛乳がつくようである。竹村さんの手前言いにくいのだが、終戦直後の栄養不足の時代ならともかく、21世紀のみ代にあってなぜそのようなことが継続されているのであろうか。パンに牛乳ならわかる。だが、きのこご飯に牛乳、ちらし寿司に牛乳、親子丼に牛乳はわからんのである。盛岡に取材に行ったとき小学校の給食風景を見てきたが、確かに「芋の子汁とまぜご飯に牛乳」であった。中には2本も飲んでいる子供もいた。
幸いウチの子は家でご飯を食べるときに牛乳を要求しないからいいが、広い世の中には「牛乳がないと飯がのどを通らない」という少年少女がいたりはしないだろうか。学校給食から牛乳がなくなると酪農関係には被害甚大ではあろうが、ちょっと考えてね。
播州の片隅に出現している「かんとうに」はおでんの亜種であろうか。しかし、牛肉が入っているところをみると煮物のようでもある。ついでながら「かんとうに」と言われても関東に住んでいる者は困る。そんなもん、こっちにはない。
デスク納得 確かにない。
カキを出してくれるお店もありますね。つぶ串は他の地方にもあるのかしら。つぶ貝のむきみを串に刺したものです。魚介類ばかり思い浮かびます。
ギョウザ巻きにはお目にかかったことがありません(北海道の雪あかりさん)
北海道が出たついでにこれも。
それともうひとつ。1986年夏に札幌市中央区でオープンした店を見るまで、お好み焼き屋さんというものを見たことがありませんでした。その直後に渡米して、いまだに1度も帰国していないので、まだお好み焼きの味を知らない日本人です。北海道ではまったくポピュラーじゃありませんでしたね。
たこ焼きも南小樽駅前にある老人夫婦がやっている小さな店以外見たことがありません。もうなくなっちゃたかなー(小樽市の出身さん)
このサイトでやった調査によると鉄板系コナモン文化は関西や広島を中心とする西日本型文化であり、東北・北海道では極めてなじみが薄いことが判明した。従って「お好み焼きを知らない。たこ焼きも1回食べただけ」であっても何ら問題はないのである。何も困らないのである。
でもチャンポンは食べてね、九州でね。
おでんから遠く離れるが、北海道関連でこんなメールも来ていた。
その「カツゲン」、今では販売されていないようなのですが、本当でしょうか? 食の方言ドリンクとして残っていて欲しいなあと思ったりします。
ポリタンクネタに近いのですが、東京ではバンソウコウのことをかなりの人が「バンドエイド」と言ったりしますが、北海道(札幌地区?)では、「サビオ」という人が多いというウワサを聞きました。真偽のほどは不明。確かに「サビオ」っていう商品もありましたね。北海道でのシェアがべらぼうに高かったのでしょうか?
ちなみに、九州(福岡・熊本)では、「リバテープ」と言っていたらしいのですが、これも本当ですか(ミルフォードさん)
ガラガラガラガラポーン。私の頭の中を引っかき回したら「リバテープ」という言葉が飛び出してきた音である。うーん、九州時代は確かにリバテープと言っていた。「お母さん、ケガしたばい。リバテープはなかね」。うんうん、言っていたなあ。面白い。
ここでデスク乱入 東京は「バンドエイド」です。
エミー隊員 ちなみにエミーの実家では「おばあちゃん、カットバン出してよ」と言っていました。ミルフォードさんのメールにまったくこの名称が出てこなかったのが恥ずかしくて仕方ありません。
おでんに戻る。
多分、どの地方でも通じるのはコンニャク、玉子、袋物、ゲソ巻き・ゴボウ巻き、大根、豆腐くらいですかね?
出し汁も昆布・魚介系だけ、鶏系だけ、両方を割った物。さすがに獣系はないと思いますが。
味も醤油、味噌、醤油+塩……これも星の数ほどバリエーション考えられますね。具を入れる順番もあるのではないでしょうか。出し汁の出るような物から入れて薄い物を最後にするとか。まとめて入れて一気に作るとか(根菜類は別にゆでてからですよ)。
入れる具材でも、特に「巻き物系」は地方色が出ませんかね。「竹輪麩(ちくわぶ)」みたいに出るとおもしろいのですが(島野さん)
前回、そのような点をはっきりさせなかったからイマイチうまくいかなかったのである。設問は単純にしないと混乱する。今度はよーく考えてコトに当たろうと思う。島野さんからは「長崎のトルコライスと台東区入谷の『キッチン ナポリ』の『トロイヤン』はルーツが同じではないか」という仮説を寄せていただいたが、「トロイヤン」という食べ物を知らないので答えられないのである。
デスクはてな 僕も知りません。すいません。勉強します。
おっと、分類間違いでこんなメールが紛れ込んでいた。
盛岡のおでんにつける味噌だれは甘いらしい。今度食べてみよう。韓国のおでんうどんはポピュラー。食べたことがある。カレーざるそばは食べる予定がない。
「チャブニチュード」関係のお店情報をお寄せいただいたとき、なぜかつくば市に絡んだものが多かった。中には「ビルごとおチャブ」というメールもあった。だが、私はつくば市がおチャブな町であるなどと思っているわけではない。今のところ。
以下、駆け足。
醤油や味噌といった基本調味料はいずれテーマにしたいと思っている。甘い醤油については過去にも間欠的に出ている。やる必要があるだろうか。ちょっと考えよう。
味噌汁も深い。というのも青ネギ地帯の西日本ではネギは味噌汁に散らすことはあっても、白ネギのように煮て具にはしない。全国に様々な味噌汁があるが、これも考察の重要な対象であろう。
群馬の「焼きまんじゅう」に続いて栃木の「ジャガイモ入り焼きそば」「いもフライ」がカミングアウトした。栃木市出身22歳さんもおっしゃっているが、縁日の「煮イカ」も含め北関東の食の方言は名古屋のそれに比べると何となく地味である。いや、名古屋が派手すぎるのか。
浜松のMartinさんから「野瀬が何と言おうとコカ・コーラには甘口と辛口がある」というメールとともに「証拠写真」が送られてきた。ここに掲載する。「甘口も辛口もない」と言ったのは私じゃなくてコカ・コーラとペプシです。
ここで、あがきた@新潟さんからの写真を掲載する。レモンラーメンの写真を撮るため、3回も現地に行っていただいた。ついでに栃尾の「あぶらげ」の写真も。
広辞苑では「あぶらあげ。あぶらげとも」。
佐世保の西尾さんから長崎の某所で遭遇したという「タコサンド」の写真。お好み焼きからキャベツを抜いたような生地。その中からタコ。ソースとマヨで食べるとか。
西荻の怒髪天娘さんからは名古屋駅前のデパ地下で売っているという「こんにゃくいなり」報告。醤油だしと柚味で薄く味がついた煮コンニャクに酢飯が入っている。味噌だれをかけて食べる。この店の店長さんはイケメンだった。
油揚げの形に関する詳細なメールが複数きているが、来週紹介する。
私は最近、讃岐うどんの隆盛を横目で見ながら、非讃岐型弱腰うどんが心配でならない。博多も久留米も大阪もみんな柔々の弱腰うどんだが、これがおいしいんだよねー。
だが、神田に最近できた「博多うどん」の店に急行したら、麺は弱腰ではなく強腰稲庭うどんだった。危うくちゃぶ台に手がかかるところだった。その近くにある大阪の「かすうどん」も稲庭系の強腰細うどんであった。
どうも讃岐ブームが続く東京では「うどんはコシが命」みたいな価値観が定着しつつあり、讃岐を除く西日本系の店が東京に出店するとき、ついつい本来の弱腰を捨てて慌てて強腰を装っているのではいかという気がしてならない。
弱腰でいいじゃないか。弱腰のどこが悪いんだ。
というわけで、久留米に行ったときにみんなで食べた超弱腰久留米うどんの写真である。
同志を募って「弱腰うどん応援団」でも作ろうか。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしていま
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