鰹節のまちで味わう至福のねこまんま 削りたて、舞う
西伊豆カツオ探訪(1)
静岡県西伊豆町田子。伊豆半島の西岸に位置し、かつては焼津と並ぶ、鰹節の生産拠点として栄えた。かつお漁は衰退したものの、今なお、大量生産に不向きの、伝統的な鰹節製法を受け継いでいる。
鰹節は、切ったカツオを煮沸してから燻し、カビを付け、発酵させて作る。「田子節」最大の特徴は「手火山式焙乾法」だ。
鰹節の焙乾は、肉の燻製などと同様、煙を充満させて焙乾するのが一般的だが、直火の強い火力でカツオの表面を一気に加熱することで、うまみを閉じ込めることができるのだという。
しかし、強火がゆえに、すぐに焦げてしまうため、付きっ切りでの調整が不可欠。猛烈な熱気は職人にも大きな負荷になる。
大きさに応じ、10~15回焙乾を繰り返す。カビ付けも、樽の中で熟成、天日干しで菌を殺し、さらにまた別のカビをつけて、を繰り返す。1本の鰹節を作るために、約半年の時間を費やす。
「手火山式」の魅力を味わう。
懐かしい削り器を拝借、自ら鰹節を削る。
削り器を調整すれば、透けるような薄さにも、厚めにも自在に削り分けられる。
削りたてを白いご飯にまぶし、少しだけ醤油をかけて味わう。ちょっと厚めが、味わいと食感をぐんと良くする。なんとも贅沢な「ねこまんま」だ。
一方で薄く削ったものは冷奴に。醤油をかけると、豆腐の上で鰹節が華やかに舞う。
鰹節談義に花を咲かせた酒宴のシメには、さらに手の込んだねこまんまが待っていた。
干しわかめなどが入った混ぜご飯に大量の花かつおをちらし、それを卵かけご飯にする。良くかき混ぜたら、仕上げにはさきほどの、厚めに削った鰹節をぱらり。
これはもう「ごちそう」という他ない。鰹節の国に生まれた幸せを、噛みしめて味わう。
(渡辺智哉)
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