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東京・新宿西口で格安航空券の販売を始めた。

1階が焼肉屋という雑居ビルの7階に、仲間と2人で広さ20平方メートルほどの事務所を構えました。冷房もなく、窓を開けっ放しにしていると肉を焼く煙が立ち込めてきました。そんな事務所に背広も着ていない20歳代後半の若い男性が「大手旅行会社の半額で航空券を売りますよ」とアピールしても、お客さんは信用してくれませんでした。

東京・新宿を拠点に事業を拡大した

東京・新宿を拠点に事業を拡大した

格安航空券は正規の団体航空券を1枚ずつのバラ売りにして安売りするものです。当時は旅行好きが知っているぐらいで、一般の消費者にはなじみの薄いものでした。そのためか、代金は先払いで、出発当日に空港で航空券を手渡しますと説明しても詐欺だと思うお客さんも多かった。せっかく来店していただいた女性のお客さんは「検討してまた来ますね」とぎこちない笑顔で去って、二度と来てくれませんでした。

最初の半年間は週に1人か2人しかお客さんが来ない日が続き、ドイツ留学でためた資金も賃料などの経費でみるみる減っていきました。一緒に事務所を立ち上げた仲間も半年後には「もう限界だ」と去って行きました。ドイツ留学ではあれほど簡単にお金を稼げて、自分には商才があると思っていただけに挫折を味わいました。しかし、この苦しい時期がビジネスを学習する貴重な時間となりました。

営業時間中に読書に没頭した。

お客さんが来ないので、1週間に3~4日はやることがありません。電話も鳴りませんから、ひたすら事務所で読書をしました。ビジネスの経営資源をどう配分するかを見極める「ランチェスター戦略」といった経営本だけでなく、司馬遷の「史記」や「孫子の兵法」など中国の古典も好んで読みました。新田次郎の「武田信玄」などの歴史小説も愛読しました。

もうからないので、本を買う金はありません。午後5時で営業を終えると、近所のパチンコ屋に向かいました。お昼の休憩時間に「マーケティング活動」と称して、事前に玉が出そうな台を調べておいて、夕方からひたすらパチンコをしていました。当時は文庫本などを景品としてそろえるパチンコ屋が多く、出玉を文庫本などに換金しました。全26巻ある山岡荘八の「徳川家康」は20巻以上をパチンコ屋でそろえました。

たばこの煙だらけの店内で銀玉の行方を目で追いながら、ビジネスについてひたすら考えました。歴史書から物事を大局的に見ることの重要性を学びました。経営の師匠と呼べる人もいなかった当時の私にとって、あの半年間は自己流のビジネススクールだったのかもしれません。

「大手の半額以下でも売れない日本が間違っている」。もう格安航空券の販売をやめようかと思い始めた頃から、ぽつりぽつりとお客さんが増えてきました。商売を支えてくれたのが、私と同じような旅好きの若者たちでした。

[日経産業新聞2016年1月12日付]

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