肉といえば牛、ヒレじゃなくて「ヘレ」 関西人の常識
お肉問題(2)
2003年5月24日の日本経済新聞別刷り「NIKKEI プラス1」の「仕事常識」面に「この言葉 よろしかったでしょうか」という記事が掲載された。
「『~~になります』『~~でよろしかったでしょうか』――。数年前から若者の間で広まった新しい言葉。使う本人は丁寧語のつもりだが、違和感を抱く人も多い。ついに、と言うべきか、"新・丁寧語"禁止リストを作り、従業員を指導する会社が登場した」という文章で始まるこの記事を読んで、私は思わず拍手した。
「ニナリマス症候群」に対する「ん、もー」という気分については「すき焼き(4)」で書いたが、企業自体がその問題に気づき、従業員に「正しい日本語を使おう」と言い始めたのである。画期的である。ベル・エポックである。
撲滅に乗り出したのは「ロイヤルホスト」を経営するロイヤルと帝国ホテル。ロイヤルの社長室に聞いたところ、この記事が出て予想を上回る反響があったそうである。無論「よくやった」「がんばれ」といった内容で、いわゆる「ファミ・コン方言」への違和感がいかに強いかを示している。私も新聞を読んで、思わず駅前のロイホに行き激励したい気になったものである。
そして次の瞬間、駅が遠いことを思い出したのである。
本題に入ろう。
中略部分、ご両親が幼いころ牛を飼っておられたというお話。「共食いはしない」は笑えます。
私はウサギですが、フランス人ではないので今のところ共食いしていません。長女は午。共食い未体験です。
ヘビの人やネズミの人もわりと共食いは少ないのではないでしょうか。ハクビシンはうかつに食べない方がいいようです。
アメリカで豚肉がそんなに高価なんて知りませんでした。アメリカのビーフで思い出したのですが、出張で彼の国に行ったときステーキの厚さ大きさにはびっくりを通り越して困ってしまいました。
ひょっとしたら命より健康が大事なんじゃないだろうか、健康になるためには死んでもいいと考えているんじゃないだろうかと思うほど健康志向が強い半面で、肉だのアイスクリームは巨大なものを食べているので「そんなもの毎日食ってたら、いつか死ぬぞー」と言ってやりたくなりました。
日本食がブームになっていたころで、私もワシントンDCの寿司屋をのぞいてみました。すると太った白人男性が握りの桶を3段重ねで食べていたので「いくら寿司が低カロリーだといっても、そんなに食ってたら、いつか死ぬぞー」と思ったものでした。ありゃ、メールと全然関係なかった。
ダチョウ肉のルーツは南アで、かつては戦略物資的な存在だったそうです。「偏食アカデミー」を連載中の平成9年、私たちはダチョウを取材しました。その時点で21道県1490羽が飼育されていました。今はもっと増えているでしょう。ちなみに日本でダチョウの飼育が始まったのは平成2年。沖縄の比村直光さんという人が最初でした。
肉は赤身ながら淡泊。脂がほとんどないそうです。刺し身にすればマグロやカツオを思わせ、焼けば牛肉に近く、ヘルシーさが売り。
都内でもダチョウ専門店は数えるくらいしかないので、北仙台あたりの名物料理にしたらいいかもしれません。もっともダチョウのタンがうまいかどうかは知りません。
ここでデスク乱入 仙台の牛タンと聞いては、黙っていられません。私がひんぱんに仙台を訪れた1970-80年代半ばまで、仙台みやげと言えば笹カマ。牛タンなんて影も形もありませんでした。一体、いつから牛のベロが大きな顔をするようになったのか。うまいからいいけど。
で、何を言いたいかというと「ダチョウだって10年後、20年後に名物にのし上がるチャンスがある」ということです。ダチョウで町おこしをうたっているところは全国にありますが、どこが「定番」になるんでしょうか。
野瀬 昔、サンキューベロマッチというギャクがあった。
デスク 谷啓はダチョ―ンとやってたし。
野瀬 ……。
肉すなわち牛派の声。
この後に続くメールの後半は鯨肉にかんする美しい思い出。私も子どものころは冷凍鯨をよく食べていました。給食でも鯨は定番。
で、鯨が肉でないという考え方にはいまだに釈然としないとのことですが、私の母は「クジラ肉」と言っておりました。従って私にとっては鯨はかつてよく食べた肉であり「海のもの」であってもほ乳類なので、その点からもやっぱり肉です。
関西は牛一色である。肉星人さえ生息している。ほんでもってダイエットになっとらんじゃないか。豚肉を魚扱いとは大胆じゃないか。
広島風お好み焼きの影響を受けている岡山あたりで非関西のゆらぎを感じさせるところが面白い。九州あたりになると肉すなわち豚、あるいは鶏というニュアンスが強くなるのではないかと予想している。北海道はどうなるのだろうか。だいぶっちゃんさん、大幅に中略してしまって申し訳ない。すき焼きは終わってしまったので、許していただきたいのである。
関西人の声が続く。
牛かつとビフカツの区別がつきません。どう違うのでしょうか。衣? 揚げ方? いずれにせよ、東京のスーパーの揚げ物が集まった総菜コーナーではどちらも見掛けません。そもそも東京ではビフカツってそんなにポピュラーな食べ物ではないようです。やはり圧倒的にとんかつです。牛かつとビフカツの違いを知りたい。
今週はメールが多い。そして大作ぞろいである。紹介しきれなかった分は来週に。魚沼の在の方、無視なんかしていないのでご安心を。
ところで、2003年6月14日に久留米で焼き鳥シンポジウムが開かれることになった。そこで「久留米焼き鳥日本一宣言」が発せられることになっている。私は行く。行って焼き鳥とラーメンを食べる。
昨夜、ある人と飲んだ。初めての店だったが、一人で切り盛りしている脱サラの主人がいい味を出していた。肴もみんな手づくりで美味かつ安い。客は近所の人ばかり。中に薬局経営という人がいて試供品を配りまくっていた。私はビタミン剤をもらった。隣の人はマムシドリンクをもらっていた。
その店で三林京子式焼酎の金魚割りを普及してきた。焼酎のお湯割りまたは水割りに唐辛子(鷹の爪)と大葉(シソ)を浮かべたもので、夏向きの美しい飲み物である。主人は気に入ってさっそく店のメニューに加えてくれた。みなさんも試してください。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。