シーズン終盤 今のうちに食べておきたいホタルイカ
世の中には「イカ・タコ症候群」とでも呼びたい人たちがいる。酒を飲む際に「イカとかタコとか、そういうのさえあればゴキゲン」とする人のことで、特に日本には多い。
イカの焼ける香りに敏感に反応し、タコの茹で具合には一家言を持ち、ぬるめの燗を飲みながら「肴は炙ったイカでいい」とつぶやくような人たちだ。
そんな彼らにとって、春は待ちに待ったホタルイカ到来の季節である。
旬が薄れがちな昨今にあって、ホタルイカはきっちり雪解けとともにやってきて、梅雨前にはいなくなってしまう刹那の邂逅。この短い間に1年ぶんを食いだめせんとばかりに、ホタルイカがメニューにあれば必ず注文するイカタコ症候群は少なくない。
獲れたてをすぐ産地で茹でたホタルイカは柔らかく甘みがあり、醤油でも酢味噌でも相性バツグン。寿司や炊き込み御飯など米とも合うし、煮たり焼いたり揚げたりとなんでもござれだ。
ホタルイカを愛するのは和食だけではない。ホタルイカを使ったパスタはもう珍しいものではないし、フレンチや中華、なんとインド料理店にすらホタルイカを使ったメニューが見られる。
あるインド料理店ではカレーの選択肢にホタルイカがあると、そこから売れていく日もあるんだとか。ホタルイカ人気のほどがうかがえよう。
そんなホタルイカが全国的に食べられるようになったのは、意外と最近のこと。小型のイカ全般にいえることだが、非常に足が早いため、地元以外では流通しにくかった歴史がある。
手元の昭和57年発行のある料理本には「富山湾で獲れる非常に珍しい産物」と書かれているし、もっと昔、昭和35年発行のプロ向け和食本には食材としての記載すらない。技術の進歩に大いに感謝したいものだ。
ホタルイカはたった1年の命。海岸まで近づき産卵したあとは、人間に食べられるか、身投げして死んでしまう運命なのだ。
今年のホタルイカのシーズンは、もうあとわずか。最後に名残りのホタルイカを食べて、記憶に残しておこうではないか。
(食ライター じろまるいずみ)
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