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御椀 昆布、鰹節、水で季節の魚介や野菜を味わう

京都「木乃婦」3代目若主人 高橋拓児

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NIKKEI STYLE

御椀は日本料理で2番目か3番目に出てくる料理です。料理屋によっては、造りと順番が反対になっていることもあります。それは料理人の自由で、大事なことではありません。ただし、「椀刺」という言葉があるように、日本料理の華は、御椀と造りなのです。両者とも味わいが非常に繊細なため、献立の最初の方、つまり味覚が鋭敏なうちに味わおうということです。

2年の歳月がかかる昆布の調理

造りは前回ご説明しましたが、一方の御椀の核心は何なのでしょう。

これについても、「御椀」を構成する具体的な要素をひとつずつ紐解いていけば、おのずと現れてきます。

まず、「御椀」とは何かを具体的に説明すると、基本的には水と昆布と鰹節で引いただしと、季節の魚介類や野菜などを調理したものが漆の御椀の中に入れられ、春は木の芽、夏は青柚子、秋冬は黄柚子や生姜などの季節の香りが具材の上に盛りつけられて、最後に蓋をしてお客様に提供される料理です。

それでは、ひとつずつ見ていきましょう。

「水と昆布と鰹節で引いただし」。わずか13文字の文章ですが非常に意味深いです。構成要素を考えてみましょう。材料は、昆布、削った鰹節、そして水ですね。

まず、昆布です。この昆布が日本料理の時間の捉え方の基準になっています。

昆布は北海道沿岸部を中心に三陸海岸等にも分布しています。種類としては、真昆布・羅臼昆布・利尻昆布・日高昆布などがありそれぞれ特徴を持っています。

個人的な見解では、利尻昆布は香りがよく、非常に淡い味と気品を持っていると思います。料理屋の御椀の繊細な味わいのだしに向いています。そして、真昆布は非常にバランスがよく、色も淡く、風味が豊かです。御椀のだしをはじめ、煮炊きもののだしにも向いています。羅臼昆布は味わいが深く、色は薄いレモンイエローで、香りは前者に比べると幾分弱い感じです。おでんや麺類のだしに向いています。日高昆布は、早く煮えて柔らかくなるので佃煮や昆布巻き等に向いています。

それぞれ天然物と養殖物があり、当然天然物の方が味と香りに奥行きがあります。このような特徴から料理屋では、天然の利尻昆布を御椀のだしに使用します。

今回は御椀の話ですので、利尻昆布に焦点を絞ってご紹介します。利尻昆布は、北海道の最北、宗谷岬を中心に収穫される昆布です。その岬の先に、手前から利尻島、礼文島という2つの島があります。宗谷岬を中心に収穫されるものを地方と呼び、利尻島・礼文島で収穫されるものを島物と呼びます。後者の方が上品なだしを引けるところから上浜と呼ばれ、前者は並浜というように同じ利尻昆布でも分けられてきました。

ここからさらに複雑になりますが、ついてきてください。礼文島の香深浜・船泊浜、利尻島の沓形浜・仙法志浜を有名浜と呼び、その中でも秀逸な浜である香深浜を別格浜と呼びます。昔から最上級利尻昆布の産地とされています。「この昆布は香深です」とか「沓形の天然です」と料理屋の御主人が言われたら、そういうことです。同じ地域でも、島の周囲を通る千島海流や河川の流れ、水温、日照条件等の微妙な違いによって、このように昆布の風味に差異が生じるのです。

昆布は水中での生育に2年を要し、収穫し乾燥・成形した後、さらに料理に使える状態にするまで丸2年かかります。「蔵囲い」と言い、冷暗所で湿度を60~70%に保ち、2年間熟成させるのです。この熟成によって、もともと昆布に含まれていた海藻独特の青臭さが減少し、甘くそしてすこし香ばしい香りへと変化していきます。その過程で化学変化を起こすのです。

基本的には日本料理に昆布は必須ですから、「この昆布で日本料理を作ってください」と言われれば、「2年後の今日、お待ちしております」という話になります。

昆布漁は、最盛期が7~8月で、早くて5月、遅くて9月の中頃までですから、10月に食べたいと言われれば、3年近く待つことになります。ある意味、昆布は2年の歳月をかけて料理されているのです。

日本の水を使った、本当に美味しいだしの引き方

続いて、御椀に不可欠な第3の要素、水についてお話しします。

日本の水は硬度が50~80と低く軟水と呼ばれますが、この水の性質自体が日本料理の基礎を構築してきました。硬度とは水1リットル中のカルシウム濃度とマグネシウム濃度にそれぞれの係数をかけた総量のことで、とても簡単に言えばその水の中に含まれるカルシウムとマグネシウム量の多さです。正式には硬度=○○mg/lと表記されます。

まず山々に降った雨は、川の水や地下水になって、平野や海に流れていきます。日本の土壌は花崗岩主体の土壌ですので、土の中に含まれているカルシウムやマグネシウム等のミネラルが流れてくる水に溶けにくく、さらに山から海の距離も非常に短いため、ミネラルが水に溶けこむ時間も短くなります。したがって、日本の水は世界の水に比べ硬度が低いのです。

日本国土の70%を占める森林が水分を吸収し、濾過し、美味しい水を生み出しています。この日本の水がないと美味しい日本料理は成立しません。科学的に言えば、硬度が50くらいの無味無臭・無菌・無色透明でpH6~8くらいの水があって、初めて日本料理は成立します。汚れている食材をきれいな水で洗うだけで、ほとんどのものは食べられるようになります。気づきにくいことですが、これは本当にありがたいことなのです。そしてその水が、日本料理の「だし」を創ったのです。

それでは、だしを引いてみましょう。まず、鍋に水を9リットル、次に昆布を長いまま7本(250グラム)入れ、火にかけます。昆布の表面を拭いたり洗ったりすると、マンニットと呼ばれるうま味成分が逃げてしまうので、そのまま鍋に入れるのです。

それからゆっくり温度を上げ、60℃くらいの温度で40分ほど加熱し続けます。その間に昆布がふくれてきて、鍋一杯に驚くほど広がります。それとともに色も無色透明からきれいな薄黄色に変化していきます。

色とともに昆布のうま味が抽出され、磯臭くなく、青臭くなく、ほのかな海の香りがするコクのある昆布だしができあがります。飲んでみて、これは美味しい! と感じたら、鍋の中から昆布を引き上げます。

続いて強火にして95℃くらいの沸騰直前の温度まで上げ、火を止めて削り立ての鰹節を入れます。この時沸騰させないのは、鰹節のよい香りができる限り逃げないようにするためです。鰹節は表面がツヤツヤで向こうが透けて見えるほど薄く削ってあるので、瞬時に鰹節の成分が水の中に溶け出します。10秒ほど静置すると、薄ピンク色をした鰹節は白に近い色になります。

そうなったら、水で洗って絞った布をざるに広げ、静かに漉します。最後に絞ったりはしません。あくまで自然に漉すことで、雑味が出るのを防ぎます。できあがりはまったくくすみのない見事な黄金色です。本当にため息が出るほど、きれいです。

その御椀のだしの味は、薄口醤油と塩で決めます。味をつけるのも塩が先、醤油が後、またはその反対などと、料理人によって違いますが、どちらが先でも時間的にはわずかな差で、味の変化に差異はありません。つまり、どちらを先に入れる方が個人的に味を決めやすいかという理由で後先を決めているのです。

舌は2度3度味をみていくうちに、より鈍感になっていきます。ですので、味をみるのは1回限りにしたいのです。料理人が御椀のだしの味をみるのは、最初に塩か醤油を入れた時の1回だけです。2つ目の調味料を入れた後の味をみたとしても判断材料にはならず、ああ美味しいなと得心するだけです。2回目の自分の味覚を自分自身、信用してはいないのです。つまり、塩か醤油かどちらかの自分が得意な調味料を後にもってくるのです。私は先に醤油を入れて、その季節にふさわしい味と香りのバランスをとり、御椀の中に入る具材との調和を考えながら、塩で味の輪郭をはっきりさせるように調味します。

御椀の具材は、「季節の魚介類や野菜を調理したもの」です。これは魚介類を焼いたり、蒸したり、湯がいたりしたもの、また野菜も湯がいた後、だしで炊いたものなどです。それぞれの調理法については別の章でお話しさせていただきます。

これらを温めて、70℃くらいのお湯で温めた御椀の中に盛りこみます。熱湯では漆が変色し、傷むからです。盛りつけの基本は、奥は主たる材料で高く盛りつけ、手前は副材料で低く盛りつけることです。その副材料より若干低めにだしを張ります。「張る」という言葉もきれいです。ある種の緊張感と清涼感をこの言葉の中に感じませんか?

あとは、柚子や木の芽などの季節の香りで全体を引き締め、温めた蓋をします。

[「10品でわかる日本料理」(日本経済新聞出版社)から抜粋]

高橋拓児(たかはし・たくじ)

1968年京都生まれ。大学卒業後5年間「東京吉兆」での修業の後、実家である京都の老舗料理店「木乃婦(きのぶ)」の3代目若主人に。シニアソムリエ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了。

木乃婦HP=http://www.kinobu.co.jp/

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