アート&レビュー

舞台・演劇

新国立劇場「負傷者16人」 鬼気迫るセリフの応酬

2012/4/27

益岡徹(左)と井上芳雄=写真 谷古宇 正彦

 寛容さはテロリズムを防ぐことができるか。8年前にニューヨークで上演されたこの問題作は、胸をえぐるような問いを観客につきつける。

 舞台は移民を積極的に受け入れる自由の国オランダの首都。フーリガンに暴行されたパレスチナ人マフムードと、彼を救って雇い入れるユダヤ人パン職人ハンスの物語だ。

 店に勤めるノラとマフムードは恋に落ちるが、ドラマは暗転する。家や親を失ったマフムードの兄弟は国際テロ組織に加わっていた。一方のハンスはナチスのホロコーストの生き残りだ。ぎりぎりのセリフの応酬が鬼気迫る。

 新生活を夢見るノラ、親方らしいハンス、彼が救済を求める娼婦(しょうふ)ソーニャと名作の転生のような人たちが夜になると感情を爆発させる。粗削りの戯曲だが、極端な図式に人間の叫びを塗りこめる叙事詩のような演劇なのだろう。

左から益岡徹、井上芳雄、東風万智子=写真 谷古宇 正彦

 作者のエリアム・クライエムは父がイスラエル人、母がユダヤ系米国人。とはいえ戯曲は中立的で、衝撃的な結末の受け止め方も観客にゆだねられる。気晴らしを求める観客にはおすすめできないが、演劇的ショックで世界をみるまなざしは磨かれよう。

 ミュージカルで活躍する井上芳雄がナイーブで陽性のマフムードを演じ、魅力的だ。憎悪に傾く姿が痛々しい。ハンスの益岡徹は役柄よりも若々しいが、忍耐のいる難役に慈愛と静かな怒りを満たした。ノラの東風万智子のセリフにキレがあり、ソーニャのあめくみちこも存在感がある。

 先鋭的な海外戯曲を紹介するシリーズが芸術監督の宮田慶子の演出で始まった。困難な題材をやりこなしたのは立派だ。あとはもう少しパンチ力を。常田景子訳。休憩を入れて約2時間半。(編集委員 内田洋一)

5月20日まで東京・新国立劇場小劇場、5月26、27日、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール。

緊迫したやりとりが続く=写真 谷古宇 正彦
事態はただならぬ展開へ=写真 谷古宇 正彦

アート&レビュー