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カリスマの直言

渋沢栄一の思いが示す地域金融再編の必要性(渋沢健) コモンズ投信会長

2014/6/1

「私は地域金融機関の大再編の前兆を感じている」

 「君、銀行で偉くなるにはどうしたらいいか知っているかい」。米国育ちの私が大学卒業後に日本に帰国した当時、英会話のアルバイト先で教え子の父親が休憩時間の会話に加わって語り始めた。某銀行勤務の豊富な実体験に対して、こちらはわずかな社会経験で考えた。

 貸出額をたくさん増やすこと。預金をたくさん集めること。取引先から信頼を得ること。答える度に首を横に振られ、私は降参した。彼は見届けたようにニコリと微笑み教えてくれた。「間違わないことだよ。色んなことに取り組んで失敗するより、失敗しない連中が銀行では偉くなるんだ」

 想定外の答えに口がポカンと開いたままだった私。30年の年月を経ても、この一コマを鮮明に覚えている。自分の父も銀行員だった。若手として配属された支店で営業日の終了後に店全体の勘定の照合が1円足りなくて、全員が残業して数え直したというエピソードを聞かされたときに、自分は銀行員としては決して勤まらないだろうと確信した。しかし、日本が高度成長を遂げた理由の一つに、このように間違いをしない、確実性の徹底にあるのかもしれないと思った。日本が「ナンバーワン」と言われた元気な時代だったためか、不思議には感じたが理解できた。

 その数年後、私は外銀に勤務していた。そしてバブルが崩壊した。「間違わない」ことで偉くなっていた役員や管理職が働く銀行が不良債権という巨大な間違いを抱えていることが次々と判明し、日本に金融危機が訪れた。「米国と違って日本ではあり得ない」と教えられていた銀行がつぶれたのだ。13行の都市銀行と3行の長期信用銀行が、その後の再編により4つの銀行グループへと集約されていった。

米NPOファンドレイジングのカリスマ、リン・トゥイストさんとトークセッションの後。日本ファンドレイジング協会の代表理事の鵜尾雅隆さんの企画

 日本初の銀行は明治6(1873)年に設立された第一国立銀行だ。「国立」が名称に入っている理由は、国の法律で定められたという意味であり、国有ではない。100%民間出資の銀行であり、日本初の一般上場株式会社でもある第一国立銀行を設立し、日本の銀行システムの仕掛け人であった渋沢栄一がいまいたら、この平成の銀行再編成を嘆いたであろうか。否、と考える。渋沢栄一記念財団のサイトに掲載されている「渋沢栄一関連会社社名変遷図(http://www.shibusawa.or.jp/eiichi/companyname/index.html)」に目を通せば銀行の社史は、合併の繰り返しによる再編であることが一目瞭然だ。

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