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走る鬼と松明、大和に春

長谷寺「だだおし」(奈良県桜井市) 古きを歩けば(46)

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NIKKEI STYLE

約4.5メートル、100キログラム超の大松明(たいまつ)と共に鬼が走る。うなり声をあげる鬼は参拝者につかみかからんばかり。赤い炎が揺れ、飛ぶ火の粉に人々がどよめく。長谷寺(奈良県桜井市)の「だだおし」は大和を代表する火祭りの一つだ。

心身清める修二会締めくくる

だだおしは罪や過ちを仏前で悔い改め、心身を清める修二会(しゅにえ)を締めくくる儀式だ。昔、悪鬼が里人を困らせていたのを修二会におびき寄せ、追い払ったのが起源との伝承もある。この日も赤、青、緑の面の3匹の鬼はひとしきり暴れた後、シデの枝に挟んだ霊験のある牛玉(ごおう)札を手にした僧侶に追われ、退散した。

同寺教務部の山岡隆雄主事は「寺伝では、開祖が病の際に夢うつつの中で見た閻魔(えんま)大王のお告げを受け、悪魔退散などの加持祈祷(かじきとう)を行ったとされ、起源は8世紀に遡る可能性がある」と語る。ただ名称の由来は諸説あり、判然としない。現存する鬼面で最も古いのは江戸期の赤鬼面で、「遅くともその頃には今のような形ができていたのでは」という。

追い払われるか、福をもたらすか

奈良県教育委員会文化財保存課の森本仙介主任技師は「大和の火祭りの中で、長谷寺のものは鬼が登場するのが特徴」と話す。修正会や修二会の火祭りで鬼が登場する例は奈良市の薬師寺や法隆寺、五條市の念仏寺(陀々堂)などがある。東大寺の「おたいまつ」では鬼は登場しない。

鬼の性格付けを巡っては、相反する考えがあるようだ。「薬師寺や法隆寺の修二会では鬼を追い払うが、念仏寺陀々堂の『鬼はしり』では鬼は追われるのでなく、災厄を除き福をもたらす善い鬼、春を告げる鬼とされる」と森本さんは説明する。「鬼の持つ松明や、足を踏みならすなどの行為には悪魔を祓(はら)い、場を清める意味がある」。長谷寺でも参拝者は松明の火の粉を自ら浴び、破片を拾い集め、厄よけの側面もうかがわせる。かつては鬼を追いかけて松明を奪い合ったともいい、「恐ろしいと同時に福をもたらす二面性がある」とみる。

山岡主事は「長谷寺では節分の際は『福は内』としか言わない。その後のだだおしで鬼を退散させる」と説明する。寺の文献などは未開封のものも多く、「だだおしの由来など謎の部分も多い。鬼の性格も両方あるのかもしれない」とも語る。

長谷寺のだだおしのもう一つの特徴は松明の火力の強さ。用いるのは樹齢200~300年の松の中心の赤身部分で、松ヤニの油分が豊富という。大松明は鬼と5人の男衆が担うが、火力の強さから燃えかすも火が消えにくく、通った後ろから水をかける役回りも必要だ。境内では松の確保が難しくなったため、2001年に文化庁と折衝。寺の東側に位置する与喜山の天然記念物の原生林について、立ち枯れた松の伐採許可を特例で得たという。

こうした材料確保や儀式の伝承に一役買っているのが長年、同寺境内の維持管理などに当たっている豊森組の豊森友一さん・新次さん親子だ。友一さんは「樹齢200~300年の松はこのあたりではもう与喜山くらいしかなく、何度も国にお願いに行った」と、理想の炎を求めた日を振り返る。

厄よけに燃え残り持ち帰る参拝者

新次さんは鬼の所作について「寺からも、参拝者に喜んでもらえるようにと言われ、動きを想像した」と明かす。鬼役には「『両手を広げて蛇行して』とか、『歌舞伎役者の見えのように首を傾けて』などと注文をつける」という。もっとも、実は鬼役は景気づけのためか酒を飲まされるのが慣例といい、足元のおぼつかなさは演技でない面もあるようだ。

時代と共に変わりゆく部分もある。一連の儀式はかつては闇の中で行われたが、鬼が駆け巡る本堂が04年に国宝に指定されると、火の後始末に一層配慮が必要になり、まだ明るい中を鬼が走るようになった。友一さんは「火を使うだだおしを、国宝になった後もよく続けさせてくれたものだ」と語る。半面「昔は、鬼は暗くなってから出た。大松明をみんなで奪い合って、けがをする人もいた。今の風情や迫力は3分の1くらい」とも漏らす。

それでも大勢の参拝者は身を乗り出すように鬼の登場を待ち、燃え残った木片を大事そうに持ち帰る。長谷寺近くに住み、家族6人で訪れた田野瀬愛子さんは子供の腕ほどもある松明片を抱え「今年は大きいのが拾えた。帰って仏壇に供えます。無病息災、商売繁盛、良いことがみんな来るように」と笑った。

悪鬼か善鬼か。追われる鬼か春告げる鬼か。そんなことを思案しながら浄火に見とれていると、指がかじかむような寒さを忘れ、春が近づく気がした。

(文=大阪社会部 中川竜、写真=沢井慎也、伊藤航)

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