育児休業「男女で3年」では 青野慶久・サイボウズ社長
2児の父親で育児休業を取得したことでも話題になったサイボウズの青野慶久社長に、女性が働くための環境作りや、女性と企業経営の関係を聞いた。
――東証1部上場企業の社長が育児休業を取ったことは大きな話題になりました。
「私は昭和の時代に生まれたベンチャー企業の経営者です。心の中には朝から晩まで働いて、職場で倒れても、それが本望という思いがあります。しかし、頭で考えて育児休業をとりました」
「サイボウズでは男性が育児休業することをためらわなくなりました。社長がとったのですから。私はよく『制度と風土』という言い方をするのですが、育児休業の制度があっても、それを取得する風土がなければ無駄な制度になります。風土は経営者が作るものです」
――男性が育児休業をとれば、女性が働き続けられるというものでしょうか。
「働き続けられますよ。育児休業という狭い意味ではなく、男性が育児に参加するのです。経験してみて分かりましたが、女性にしかできない育児はありません。母乳しか飲みたがらない子どもでも、そのうちミルクも飲めるようになります」
「育児は朝から晩までイベント続きで、年間365日、休みがありません。この重労働を1人の女性に任せていたら、女性は2人目や3人目の子どもを産みたいという気持ちにならないでしょう。日本では出生数が1970年代に減り始めたのに、なぜこれが変わらないか。企業経営者も政治家も、家庭を顧みず、子育てをしないで頑張って働いてきた人が今のリーダーたちだからです。なかなか変わりません」
――女性が働きやすくするには、保育所をもっと整備すべきだとの声が強いです。
「その問題意識を持つ人は多い。横浜市のように積極的に保育所を整備する自治体も出てきて、流れは悪くありません」
「もっと根本的な問題もあると思います。価値観と言えるものです。男性が育児休業をとる勇気が出ないのは、取得すると昇進の道から外れてしまうのではないかと考えるからです。その裏には男性は昇進しなければならないという価値観があります。管理職の数が変わらないとして、3割を女性にするならば、男性の管理職が3割減ることになります。男性の価値観を変えていかないと、解決しない問題も多くあります」
――女性にも育児休業で職場を離れると、会社に戻ってからのポストや仕事が心配だという声があります。
「これは経営者が、育児休業を取得して戻ってきて活躍している人を見せつけてあげればいい。当社には2人の子どもがいて短時間勤務をする副本部長がいます。分かりやすいじゃないですか。大企業では男性勝りの働き方をする女性を昇進させる例がありますが、そういう働き方をしなさいというメッセージになってしまいます」
――社会全体で育児休業をとりやすくするための突破口はありますか。
「育児休業の期間を3年間にしようという話がありますが、男性と女性で合わせて3年という仕組みにしてはどうでしょうか。男性が1年半、女性が1年半という形で順番は前後してもいい。北欧には育児休業の期間を男性にも割り当てる制度があります。男性を強制的に育児へ参加させる制度は機能すると思います」
――女性が働くことは、企業にどのような意味がありますか。
「女性の雇用を重視しない企業は、自動的に縮小していくと感じています。これからがイノベーティブ(革新的)な時代になるならば、企業は多様な価値観を認めなければなりません。男女の違いだけでなく、男性の中でもリーダーシップのある人がいれば、サポーター型の人もいる。多様な人材を集めて、議論して、面白いものを作ろうということにならないと、イノベーティブな発想は出てきません」
「多様な人を受け入れて経営をするのは、昔の経営よりはるかに難しい。今の日本では、多くの経営者ができていないことではないでしょうか。今の経営者の間での話題は仕事を辞めなくなった女性をもっと活用したいのに、できないということ。なぜ女性はもっと管理職になろうとしないのか、ということです。女性にもリーダーをやらせてみるという教育の問題があります」
――女性に働いてもらわないと、イノベーションが起こらないと。
「そうですね。もっと多様な話かもしれません。共働きだから収入は少なくても良いとなれば、給料に縛られずに働けるようになります。男性にも色々な選択肢があるはずです」
――働く女性の所得が増えれば、国内の個人消費にも良い影響があるのではないでしょうか。
「今はお金を持っていれば、それだけお金を使うという発想だけでもないかなと。この技術をやりたいとか、この人と一緒に働きたいとか、お客様に感謝されたいとか、仕事の内容にこだわる人もいます」
――働く女性が増えることでのビジネスチャンスはありますか。
「会社で5時間働き、残りの仕事は家でするといった働き方は、IT(情報技術)を使った情報共有が必要なので、ビジネスチャンスだと思います」
(聞き手は加藤修平)
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