女性だけの問題でない 多様性認める働き方の実現
早稲田大学大学院教授・川本裕子氏
Wの未来 会社が変わる
終身雇用が大前提だった日本の企業社会で、軽やかにキャリアアップやキャリアチェンジを図る女性が目立つ。銀行員から留学を経て経営コンサルタントとなり、再び銀行で取締役に就く川本裕子・早稲田大学大学院教授に働く女性と企業の関係を聞いた。
――三菱UFJフィナンシャル・グループの前身である東京銀行に新卒で入行しましたが、今回取締役に就任した経緯は。
「先進国の中で、大きな銀行に女性の取締役がいないのは日本だけという指摘があります。自分が所属していた組織が保守的だと言われ続けて残念に思っていました。今回依頼をいただき光栄に感じましたし、改革に協力したいと思いました」
――英国留学後、米経営コンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」に転職しましたが、外資系企業を選んだ決め手は。
「業務内容が面白そうというのは当然ありますが、やはり日本の職場、日本の環境、英国での経験を通じて、自分の力が生かされると感じたからです。外国の企業は多様性への許容度が全く違います。マッキンゼーのようなグローバル企業では、性別だけでなく民族、宗教などいろいろな多様性を前提に組織が運営されています」
――実際、マッキンゼーで働く中でも日本企業との違いは感じましたか。
「日本の女性たちが経験したという女性の扱いについての大変さを味わうことはなかったように思います。もちろんクライアントの中には『女性のチームはダメだ』という方もいましたが、『一番専門性が高い人物ですから』とクライアントを説得するような会社でした。もちろん誰でも同じ基盤で評価される厳しさはありますが、その苦労の方が気持ちは良いですよね」
「それが2002年に道路公団の民営化委員になった時に『女性委員』と言われて、すごくビックリしました。『金融の専門』とは言われても『女性コンサルタント』とは言われたことがなかったからです。中身の議論を女性がするというのが珍しいともよく言われ、これもびっくりしました」
――なぜ外資系企業には世に言う『女性の働きづらさ』がないのでしょうか。
「人を生かすことを徹底的に考えているからではないでしょうか。女性には(出産や育児などの)ライフイベントがあり、そこへの配慮は必要ですが、そもそも子供がいなければ仕事をする上で男女の違いは少ない、との前提があります」
「グローバル企業だと職場を離れる期間はいろんな形で出てきます。たとえば国によっては、兵役に行くこともありえます。男性でも、ある一定期間職場を離れていることがありうるわけで、そのうえで業務や人事評価が組み立てられているので、『女性は』という発想が少ないのだと思います」
「マッキンゼーでは勤務時間に制限があっても、自分がどのようにすれば価値を提供できるかを提案して認められれば試行錯誤できる。上司も部下が力を発揮するにはどうしたらいいかを考えます。もちろんそれが上司自身の評価にもなるので、上司が真剣に部下をサポートしてくれる仕組みになっています」
――女性の活躍で日本の企業文化自体が変わっていく可能性があると思いますか。
「まず人間の視点があり、その視点を支えるために男性や女性、年齢、出身、どのような勉強をしてきたかというそれぞれのバックグラウンドがあります。企業のビジネスや将来を考えるには色々な人がいた方がバランスよく物事を判断していける。同質的で単一な文化圏は不祥事などの温床にもなりえます。女性の問題、と限定せず、男性も含めて組織や社会全体がこの問題に向き合えば文化は変わっていくと思います」
――終身雇用という働き方は変わるでしょうか。
「もう少し労働市場の流動性がないと経済の活力を保てないと思います。新しいビジネスや新しい産業に人が簡単に移っていける仕組みにならないと、日本経済自体が常に新しくなっていかないでしょう」
「学生を見ていても皆ステップアップしたいとは思っている。雇用の安心感は大事なので終身雇用が基本となるのは変わらないかもしれませんが、企業がまず社内で色々な新産業に出て行き、配置転換できるようにしないといけないでしょう。正社員だけを過度に保護するのは見直し、同じ仕事をすれば同じ賃金を得られるようにするべきです」
――これから日本企業が人材の多様性を認めていくには何が必要ですか。
「業務内容(ジョブディスクリプション)をはっきりさせ、評価システムを納得できるものとすべきです。まず途中で中断しても不利にならず、勤務時間の長さだけでない業務の評価システムを作ることでしょうか。兵役にしろ産休にしろ、1~2年いなくても別に遅れたというわけではありません。産休の2年は色々な社会経験をするのだから、留学や出向2年分の勉強ができるといっても過言ではないと思います。あらゆる経験が企業で働く上で役に立つという視点に立つべきでしょう」
(聞き手は平野麻理子)
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