新たな価値生み出す 女性が開発「ヒット商品10選」
Wの未来 会社が変わる
女性が開発したヒット商品をみると、従来からある商品に、新しい価値を加えたものが少なくない。たとえば日本コカ・コーラのミネラルウオーター「い・ろ・は・す」。採水地でしか差別化が難しかった水に、環境や捨てやすさの視点を持ち込んだ。エースの「プロテカ ラグーナライト」は強度が重視されるスーツケースで、軽さやデザイン性を打ち出し、従来2万個売れればヒットといわれるスーツケースで3万5千個を販売した。
■求められる「プラスαの価値」
早稲田大学商学学術院の恩蔵直人教授は「多くの商品で機能面が充実し、差別化が難しくなるコモディティー(汎用品)化が進んでいる」と指摘する。同じ製品群の中で存在感を出すには、プラスαの価値を打ち出すことが不可欠だ。「付加価値は(環境やデザインなど)情緒的なものが多く、女性の感性を生かしやすい面でもある」(恩蔵教授)。
女性ならではの人生経験が生きることもある。い・ろ・は・すの小林麻美氏や、新型「ノート」(日産自動車)の水口美絵氏など複数の商品の開発担当者が専業主婦生活を経験している。
電車のどの車両に乗れば、ホームにあるエレベーターや目指す出口に近いかが一目で分かるポスター「のりかえ便利マップ」(ナビット)。専業主婦だった福井泰代氏が、真夏にベビーカーを押してエレベーターを探すうちに子どもが暑さにあたった経験から発案した。乗り換えを最短ですませたいビジネスマンにも受け、今では首都圏の地下鉄など14路線、300駅以上に導入されている。
新型「ノート」も、後部ドアが大きく開きチャイルドシートへ子どもを乗せるなどの動作がスムーズに行える点や、運転が苦手な人も簡単に駐車できる点が女性の支持を集めている。
中央大学ビジネススクールの田中洋教授は「女性の方が日常の不便や不満をより実感をもってすくいとり、商品開発に生かしやすい」と話す。
無香料のヘアケア商品の走り「ルシードL」(マンダム)は、同社の男性用整髪剤を「無香料だから」と買う女性が多い点に目を付けた酢谷香織氏が開発を主導した。マルコメの「プラス糀」シリーズの糀(こうじ)ジャムは、糀の甘さを活用。砂糖を利用していない点が子どもの健康に気を配る母親らに人気だ。
「女性は質に関して『二兎(と)を追う』開発ができ、いい意味で欲張り」。組織論に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの安達幸裕氏はこう分析する。男性が1つの機能を徹底的に高めようとするのに対し、女性は複数の価値を両立させるという。
パナソニックの「ナイトスチーマーナノケア」は、睡眠と美容の両方を実現させ、忙しい女性の心をつかんだ。「ルルドマッサージクッション」(アテックス)もマッサージの機能性と部屋のインテリアを邪魔しないデザイン性を両立させ450万個の大ヒットとなった。
■生産・営業部門との折衝、女性に強み
商品の新しい価値が広く受け入れられ、新市場開発の火付け役となった商品やサービスも目に付く。
「エキュート」(JR東日本ステーションリテイリング)は、駅構内の利便性と百貨店並みの高感度の店ぞろえを両立させ、「駅ナカ」のはしりとなった。05年3月開業のエキュート大宮は今では年間店舗売上高が100億円(13年度)に上る。駅ナカ商業施設は全国の私鉄・地下鉄にも広がり、今や「駅でショッピング」は一般的な光景となった。
アサヒビールの「アサヒ黒生」は、一部の愛好家だけの飲み物だった黒ビールに着目。毎日飲めるすっきりとした味に仕上げ、一般化した。30~40代の男性がヘビーユーザーとして定着、発売翌年の1996年には、ビール市場でシェア1%を獲得した。
新商品の開発は、アイデアを出して形にするだけが仕事ではない。量産できるのか、本当に売れるのか――。生産や営業部門との折衝が欠かせない。そんな中、「メンツをかけてぶつかりがちな男性に比べ、調整やすりあわせの能力にたけた女性は多い」(恩蔵教授)。時にタフに、時にしなやかに。そんな女性たちが、新たな価値を持った商品を世に送り出しているようだ。
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