フード

  • クリップ

おでかけナビ

大行列、突然休業… 北欧の「100円ショップ」タイガー騒動の裏側

 

2012/10/6

 この夏、大阪ミナミのアメリカ村にオープンした海外の人気雑貨店が、開業ひと月もたたずに突然休業した。

 「“北欧の100円ショップ”日本上陸」などと騒がれ、話題を呼んだデンマークの激安雑貨チェーン「タイガー」だ。7月21日のオープンから4日目で臨時休業し、再オープンしたものの、8月16日から再び休業。9月22日、1カ月余りの長期休業を経て再々オープンした。

■予想以上の客が殺到し、開店4日目に突然の休

  • 8月16日から長期の臨時休業を余儀なくされた「タイガー・コペンハーゲン アメリカ村店」
 この夏、大阪ミナミのアメリカ村にオープンした海外の人気雑貨店が、開業ひと月もたたずに突然休業した。

 「“北欧の100円ショップ”日本上陸」などと騒がれ、話題を呼んだデンマークの激安雑貨チェーン「タイガー」だ。7月21日のオープンから4日目で臨時休業し、再オープンしたものの、8月16日から再び休業。9月22日、1カ月余りの長期休業を経て再々オープンした。

■予想以上の客が殺到し、開店4日目に突然の休業

 7月21日、オープンの日。大阪市内は朝から快晴に恵まれ、一番乗りの客は早朝5時45分から開店を待ちわびた。11時の開店時には約400人が並び、その後も列は四ツ橋筋近くの阪神高速高架下まで続いた。混雑を避けて入場制限したため、入店するまでに約2時間、さらに精算に約1時間。この日の午後はにわか雨に見舞われたが、終日行列が絶えなかった。タイガーを運営するゼブラA/Sの日本法人、ゼブラジャパンのクラウス・ファルシグ社長によると「初日の来店客数は1000人以上。平均客単価は約2500円で、売上げは約250万円だった」。

 無事にオープンしたことを見届けたゼブラA/Sのレナート・ライボシツCEOは、翌日「Great success!」と告げ、嬉々としてデンマークに帰国したという。しかし、店舗ではCEOが予想だにしなかった問題が発生していた。

  • オープン初日から連日行列が絶えなかった
 翌日の土曜日も開店から大勢の客が殺到。タイガーでは特に宣伝広告やプロモーションを行わなかったため、メディアの報道やSNSなどで初めて知った客も多かった。店舗では4台のレジがフル稼働し、エコバッグなどの売れ筋商品は補充するそばから売れていった。「スタッフ総出で対応したがもともと人数が少なく、補充するのが間に合わなかった」と同社のビジネスコーディネーター、原 紗耶氏は振り返る。

 臨時休業を決断したのは3日目の閉店前。「次の入荷は3日後。それまで売り場が持たない」「いったん休業して一から立て直したほうがいい」。スタッフから上がる情報や意見を聞き、クラウス社長は2日間の臨時休業を決める。ところが、事態はたった2日間では解決できないところまで追い込まれていた。

 7月26日、2階の売り場を閉鎖し、1階のみの営業で再オープン。休業開けで大勢の客が押し寄せることを想定し、時間指定整理券を配布して1日の入店客数を1500人に限定した。しかし、それでも事態は改善されなかった。そしてついに8月15日、2度目の臨時休業を告知。再オープンから27日目の8月16日、再び休業を余儀なくされた。

 タイガー日本1号店に対する顧客の期待が膨らむ一方で、焦燥感に駆られていったタイガーの経営陣とスタッフたち。欧州ですでに約150店舗を展開する企業が、なぜ休業に追い込まれたのか。クラウス社長に直接話を聞いた。

■「3カ月先までのストックが24日で売り切れた」

――開店からまだひと月半しか経過していないが、今の心境は。

ゼブラジャパンのクラウス・ファルシグ社長(以下、社長) 「休業は不本意で残念だった。わざわざ来店していただいたお客様には、本来のタイガーの売り場環境を提供できず、また店に入るまで長時間待たせて、不便をかけてしまった。ただ、日本での初めてのビジネスだったこともあり、私たちの予想をはるかに超す数のお客が訪れたことに驚いたというのが、正直な感想だ」

――オープン以降、どれくらいの客が来たのか。売り上げは。

社長 「計画では1日の買い上げ客数約500人、平均客単価は約500円と見込んでいた。しかし、実際は2倍の1000人以上が来店し、客単価も1000円。オープン3日間は平均2500円に達した。再オープンのときに2階をクローズしたが、それでも1000人近くが訪れ、客単価は変わらなかった。売り上げは予想の3倍以上。3カ月間半の予算をたった3週間余りで達成してしまった。こんなケースはどんな小売店にも予想できないと思う」

――日本では海外の人気店が初上陸するときにはたいてい行列ができる。1号店はいろんな意味で実験店といっていたが、見込みが低すぎたのでは。

社長 「当初はひっそりとオープンする予定だった。タイガーでは宣伝広告を打たないので、欧州ではオープン日も行列はできないし、わざわざ行くというよりもふらっと立ち寄る客が多い」

――計画が大きく狂ったために、供給が追い付かなかった。

  • 「ショップを本来のあるべき姿に立て直すことに専念した」と話すゼブラジャパンのクラウス・ファルシグ社長
社長 「日本への物流拠点を上海に置いて3カ月先までのストックを用意していたが、それが3週間でなくなってしまった。メーカーから直接買い付けているので、メーカーになければ一から作ってもらわないといけない。ほぼ毎日、通関を通ったものから少しずつ入荷していたが、追い付かなかった」

――1階だけで営業を継続することは考えなかったのか。

社長 「私たちには、ふたつの選択肢しかなかった。ひとつは、1日でも早く再オープンし、ワンフロアだけでもいいからとにかく営業を続けること。もうひとつはタイガー本来のショップ環境に立て直すためにいったんクローズすること。苦渋の決断だったが、後者を選ぶのがタイガーの本分だと思った。休業したことで顧客をがっかりさせ、マイナスイメージにつながったかもしれない。しかし、本来の楽しい買い物体験をしてもらえば、きっとそこから評判が広まっていくと信じている」

■なぜ「タイガー」に客が殺到したのか?

  • 9月22日は900~1000アイテムをそろえて再オープンした
 来店客の7割近くは女性だ。20~40代が中心だが、年代も幅広い。店内には、彼女たちの心をくすぐる「かわいく、カラフルでポップな商品」がズラリと並ぶ。しかもデザインはインテリア家具でも人気の高い北欧テイスト。高価な北欧家具をそろえられなくても、小物や雑貨で部屋を演出することはできる。たった100円か200円なのに、“普段の暮らしを豊かに変えられる実用品”が多いのがタイガーの一番の魅力だ。大阪市内から駆け付けた30代女性の2人連れは「かわいくてポップなので、見ているだけでも楽しい」「北欧ブランドは高い印象があるが、安いのがいい」とにこやかに話す。

 さらに取り扱うアイテム数が豊富なのも人気の秘密。キッチン・リビング用品、ステーショナリーから、ファッション雑貨、パーティグッズまで、オープン当初は約1000アイテムを展開。売り場には見て選べる楽しさがあり、そのワクワク感と安さがついで買いを誘っている。

  • カラフルでポップなデザインの雑貨を100~200円で買えるのがタイガーの魅力
 今回これだけ客が殺到したのは、フェイスブックなどソーシャルメディアの力によるところも大きい。「広告を打たないこと」がかえって興味をかき立て、フェイスブックやツイッターなどを通したリアルなレポートが口コミの輪を広げていった。

 大阪人気質もオープンを盛り上げた一因だろう。

 大阪人は昔から、多種多様な文化を受け入れ、そこから町人文化を生み出した歴史がある。大阪に海外ブランドの日本1号店がオープンすると聞けば、とりあえず覗いてみたくなるのが大阪人気質。また、海外ブランドの大半が東京に1号店を出すなか、タイガーが大阪を選んだことにも、どこか親近感を感じたのではないだろうか。一般的に派手好きといわれる大阪の消費者がタイガーのカラフルでポップな色柄に引かれるのも不思議ではない。

 それに大阪人は安くていいものを買うと、他人に見せびらかしたくなる傾向がある。タイガーで購入した商品を自慢した女性客は少なくないはず。それが口コミで広がったとしたら、まさに大阪人パワーが人気に拍車をかけたといえるだろう。

  • 行列は阪神高速の高架下まで続いた
 レナートCEOはオープン時に大阪に出店した理由についてこう語っていた。

 「東京は市場が大きすぎるうえ、店をオープンしても情報が埋もれてしまう。一方、大阪は1つのマーケットとして展開でき、話題も集中しやすい」

 臨時休業までは想定していなかったとしても、ある程度話題を集めることは見越していたのだろう。日本に初出店する海外ブランドにとって「大阪に1号店」はテストマーケティングだけでなく、認知度を高める手法としても有効なのかもしれない。

■「サプライチェーンの仕組みを再構築し、態勢を立て直す

――これまでは欧州だけで展開していたが、今後、アジア、米国とグローバルに拡大していくためには、運営体制を見直す必要があるのでは。

ゼブラジャパンのクラウス・ファルシグ社長(以下、社長) 「早急にサプライチェーンの仕組みを一から立て直している。ショップを本来あるべき姿に戻し、継続的に入荷、補充する物流システムを再構築している。もともと売り切れご免の商品は多いが、品薄状態が続かないよう、常時2フロア分の商品が入荷されるシステムを作っている。今はとにかくたくさんの商品を買い付け、メーカーにはどんどん製造してもらっている。ただ、休業前の売れ行きがいつまで続くかは予想がつかない」

 「そのために、倉庫を上海から大阪に移して頻繁に商品供給できるようにした。朝に発注したものが午後には店頭に到着するくらいのスピードで時間のロスをなくしていく。当初の計画にはなかった新たな試みだ。現状はデンマークにある2カ所の倉庫から空輸便と船便で届けている。中国のサプライヤーからの直接納品も再開したので、今後2~3カ月で軌道に乗せたい」

――パニック状態のなかでも店舗スタッフはにこやかに冷静に対応していて好感が持てた。ただ、人数が少なく、人員体制にも問題があった?

社長 「早急に正社員を2倍に増員し、当初は予定していなかったパート・アルバイト従業員を増やしている。4台だったレジも6台に増設した」

――オープン時は1000アイテムだったが、3カ月で2000アイテムまで増やしたいと言っていた。2フロアで再開した時点での品ぞろえはどうなる?

社長 「今大量に買い付けているので900アイテムは確保したいが、現状は1000アイテムを維持するのが難しい。ただ、来月には新商品が大量に入ってくる予定だ」

――年内の出店予定に変更はないか。

社長 「大阪市内にあと2店舗出店する計画は、年内に実現するのは難しい。物流システムを改善して、1号店を立て直すことが最優先課題。まだ物件も決まっていない。欧州から什器を導入して内装するにしても最低3カ月はかかる」

――最後に、今回の経験を通して学んだことは。

社長 「欧州の店舗と違い、日本には遠方からでもわざわざ足を運んでくれる客がいる。日本人は新しいものが好きで、ショップに大変興味があることもわかった」

◆◇◆◇◆

 北欧発の小売チェーンといえばインテリアの「イケア」や衣料の「H&M」が有名だが、両社とも欧州にとどまらず、米国、アジアなどにも進出。長い年月をかけて海外出店のノウハウを蓄積し、世界企業にのし上がった。一方、タイガーは現在の業態で1号店を開業してからわずか17年。海外では現地企業とのパートナービジネスを展開し、年商約90億円まで拡大した。

  • 物流システムを見直し、スピーディに商品供給できる態勢にした
 そのタイガーが、欧州以外の出店先として真っ先に日本を選んだ。「ポテンシャルの高いアジアのなかでも日本は世界2番目の小売り消費市場」というのが出店の理由だ。しかも、東京ではなく、大阪をテストマーケティングの地に選び、いきなり新しモノ好きの関西人の洗礼を浴びることとなった。

 ただ今回の臨時休業は見込みの甘さが原因の1つ。例えコストパフォーマンスの高いおしゃれな雑貨であっても、売り場環境を保てないとなると強みを発揮できない。

 はたしてタイガーは新体制で本来の姿を取り戻し、消費者の信頼を勝ち取ることができるのか。日本でのビジネスが早くも正念場を迎えている。

(ライター 橋長初代)

[日経トレンディネット2012年9月22日掲載]

関連情報

フード