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星新一賞グランプリ2作品 機械進歩した未来描く 電子書籍として出版

2014/3/26

 第1回の日経「星新一賞」の一般部門グランプリに遠藤慎一氏(52)の「『恐怖の谷』から『恍惚(こうこつ)の峰』へ~その政策的応用」、ジュニア部門グランプリに松田知歩さん(15)の「おばあちゃん」が選ばれた。準グランプリ、優秀賞の作品とともに電子書籍として出版された。

一般部門グランプリを受賞した遠藤慎一氏(右)とジュニア部門グランプリの松田知歩さん

 1000作品を超えるショートショート(短編小説)を生み出した星新一氏はSF作家と呼ばれることが多いが、科学技術文明に対するシニカルな批評眼はジャンルを超えて読者を獲得した。

 科学技術が急テンポで発達し社会にきしみをもたらす一方で、地球規模の様々な課題を解決するうえで人類は科学技術に頼るしかない。

 そこには、ある種のジレンマがある。21世紀に入り、一段と緊張感を増す社会と科学技術の関係を星氏はとうに見抜いていた。

 星新一賞は理系的発想力を生かした短編小説を広く募り顕彰するものだが、それは科学技術社会への文理を超えた批評眼を重視するものともいえる。

 2つのグランプリ作品はともに機械の進歩がもたらす未来の社会の姿を描いている。

 一般部門の「『恐怖の谷』から『恍惚の峰』へ~その政策的応用」は、非常に高度に発達した人工知能が人間を管理下においた社会が舞台だ。

 「恐怖の谷」は人間が自らの姿に似たロボットに対する強い違和感に関し、ロボット工学の研究者が提唱している概念だが、この作品では「恍惚の峰」という新たな心理現象を仮想し、人類の起源にまで遡るナゾを提出している。科学論文の形式をとることで作品世界のリアリティーを高めている。

「『恐怖の谷』から『恍惚の峰』へ」のあらすじ
 ヒューマノイドの外見に対する「不気味の谷」と呼ばれる現象が、その中身である知能に対しても同様に起きうるか――。この疑問について、高度に進化した人工知能が実験を行って発表する、という学術論文形式で描かれた物語。実験によって、人工知能たちは「不気味の谷」に類似した「恐怖の谷」という現象が起きうることを実証し、さらには人間が到達しうる範囲を少し超えた知能に対して、人間は熱狂的な好意と盲従的な態度を示すことを実証する。そしてこの現象を「恍惚の峰」と名づけ、その応用について論じている。

 ジュニア部門の「おばあちゃん」は、延命技術と、その裏腹にある「死を選択する権利」という極めて現代的なテーマを祖母と孫の会話から浮かび上がらせた美しい作品だ。

 科学技術はさまざまな可能性を人間に提示するが、未来を選択するのは最終的にひとりひとりの人間だ。遺伝子診断や原子力などに関する重い選択を科学技術の時代に生きるわれわれは引き受けねばならない。そうした社会と科学技術のありようを描いているともいえる。

「おばあちゃん」のあらすじ
 医療の発達によって、死後、第二の心臓を手に入れて生き返ったおばあちゃん。おばあちゃんは心臓に取りつけられたスイッチを押さなければ10年は生きていられるが、スイッチを押すと心臓はいつでも止まってしまう。生き返ったおばあちゃんとの日々が変わらず過ぎていくなかで、あるとき突然、おばあちゃんは家族に向かってひとつの決意を告白する。

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