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日経ヘルス&メディカル

腎臓がおしっこを作る深い理由 働きもののカラダの仕組み 北村昌陽

 

2012/9/23

 今回の主役は「腎臓」。そう、おしっこを作る臓器です。それだけ聞くと単純な作業に思えるかもしれません。でも腎臓は、おしっこを作ることで、人体を維持するうえで最も根本的な、重要機能を支えているのです。それが「体液の恒常性の維持」。それって何? と思ったら、ぜひ読んでください。

 このシリーズで腎臓を取り上げるのは、今回が初めて。ほかの臓器に比べてこんなに遅くなってしまったことをまずお詫びします。腎臓さ

 今回の主役は「腎臓」。そう、おしっこを作る臓器です。それだけ聞くと単純な作業に思えるかもしれません。でも腎臓は、おしっこを作ることで、人体を維持するうえで最も根本的な、重要機能を支えているのです。それが「体液の恒常性の維持」。それって何? と思ったら、ぜひ読んでください。

 このシリーズで腎臓を取り上げるのは、今回が初めて。ほかの臓器に比べてこんなに遅くなってしまったことをまずお詫びします。腎臓さん、ごめん。

 とはいえ正直にいって、心臓や脳のような花形っぽい臓器に比べると、何となく地味な印象は否めない。だっておしっこを作るってことは、要するに老廃物を捨てるための働き……。

 「いやいや腎臓の役割は、いらないものを捨てるだけではないのですよ。体内の“最重要ルール”を守っているのです」

 こんなふうに力説しはじめたのは、順天堂大学医学部解剖学第一講座教授の坂井建雄さん。腎臓解剖学の専門家だ。でも、最重要ルールって何ですか?

 「生き物の体はすべて細胞からできていますね」。坂井さんはこんなふうに語り始めた。「細胞の種類はさまざまですが、どんな細胞も、生きるための共通要件があります。それは、周りの体液の塩分濃度が0.9%であること」。

 細胞は、体液(細胞外液)に浸って生きている。真水の中では塩分が足りなくて生きられないし、海水では濃すぎる。0.9%でなければダメなのだ。そこで体液の塩分濃度は、常に0.9%に保たれている。これを「恒常性の維持」(ホメオスタシス)という。人間の体を維持するための最重要ルールだ。

■大幅かつ迅速に体内の水分量を調節

 ここで下の図を見てほしい。体内の水分量は、入ってくる水と出ていく水のバランスで決まる。標準的な出入りのバランスは図の通りだが、汗や呼気として失われる量は、気温の変化でかなり変動する。飲む量だって日によって違うだろう。

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「ほかのルートからの出入りの変化をカバーして、0.9%を保つのが、腎臓の仕事です」

 例えばビールを飲んで、体内の水分量が急に増えたとする。そのままでは塩分濃度が下がってしまうので、腎臓は急速に尿の量を増やす。だから30分もしないうちにトイレに行きたくなる。こんな現象は、誰もが経験しているはずだ。

「腎臓は、大幅かつ迅速に体内の水分量を調整するという大役を担っているのですよ」

■いったんろ過した尿の99%を回収する意味は?

 ほほー。そういわれると、この小さな臓器がとても貴重なものに思えてきた。具体的にはどうやっているのだろう。

 「最も大事なのは、糸球体という毛細血管のループです」

 腎臓に流れ込んだ血液は、まず糸球体に入る。この毛細血管の壁には無数の穴があいていて、水分がどんどんもれる。かなり目の粗いフィルターだ。「1日にろ過される液量は200リットルにもなります」。

 200リットル! そんなにたくさんおしっこが出たら、体が干上がってしまうのでは?

 「大丈夫。下流の毛細血管から99%回収しますから、尿になる量は1~1.5リットル程度」

 ああ、そうなのか。でもなぜそんな無駄をするのですか?

「無駄が大きいから、“大幅かつ迅速”な調整ができるのです」

 200リットルの99%を回収するやり方だから、尿量を倍に増やしたいときでも、回収率を98%に微調整するだけでいい。もし、ろ過量がそもそも1~2リットルしかなければ、ビールを数杯飲むだけでもう調整不能になるだろう。「とても大切な機能だから、余力がたっぷりあるのですよ」。

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 回収率を制御しているのは、脳下垂体から出るバソプレッシンというホルモン。このホルモンが腎臓に作用すると尿が濃縮され、失う水分量が減る。

 「尿で体液の塩分濃度をコントロールするのは、ほ乳類特有のメカニズムです」と坂井さん。「そのためにほ乳類は、強力な心臓で糸球体に高い血圧をかける体の構造を作りました」。糸球体には、通常の毛細血管の3~5倍に当たる50ヘクトパスカルの血圧がかかるという。「だから糸球体はとても壊れやすい。糖尿病などで毛細血管が傷むと腎不全になりやすいのです」。

 なるほど。メタボ系の体では糸球体の負担も増えるのか。皆さんも気をつけてください。

北村昌陽(きたむら・まさひ)
生命科学ジャーナリスト。医療専門誌や健康情報誌の編集部に計17年在籍したのち独立。主に生命科学と医療・健康に関わる分野で取材・執筆活動を続けている。著書『カラダの声をきく健康学』(岩波書店)。

[日経ヘルス2011年9月号の記事を基に再構成]

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