エンタ界に旋風 年齢超越の「レジェンド」大活躍
日経エンタテインメント!
スキージャンプの葛西紀明、サッカーの三浦知良、プロ野球の山本昌、テニスのクルム伊達など40歳を超えても現役として活躍するスポーツ選手を指して「レジェンド」(生ける伝説)という言葉が使われるようになった。彼らの年齢を感じさせず、そして限界に挑戦し続ける姿は多くの人々を勇気づけている。
この「レジェンド」という言葉、2014年2月のソチ五輪での葛西選手の活躍もあり、2014年上半期を代表する流行語となった。
ハリウッドスターの豪華顔合わせは「レジェンド共演」、宝塚歌劇団100周年イベントに集まったOGは「宝塚レジェンド」、64歳にして第一線で活躍する矢沢永吉は「ロックレジェンド」と呼ばれるなど、エンタテインメント界でも様々な形で使われるようになっている。
2014年は海外ロックレジェンドが続々と来日する公演ラッシュとなっている。ボブ・ディラン72歳、ポール・マッカートニー71歳、ローリング・ストーンズのミック・ジャガー70歳、ジェフ・ベック69歳、エリック・クラプトン68歳など(いずれも来日公演時の年齢)、70代60代のアーティストが大挙して来日を果たした。2014年下半期もクイーン、ボストン、イエス、レッド・ツェッペリンのロバート・プラントなどの来日公演が予定されている。
70歳、50周年は「最後のひと仕事」の目安
ロックレジェンドたちの来日が集中しているのはなぜか。大手コンサートプロモーター関係者はこう説明する。
「ポールやストーンズがそうですが、70歳、デビュー50周年というのは"最後のひと仕事"の目安となっており、大規模なワールドツアーはこれが最後になるかもしれない。60年代、70年代からロックの黄金時代を作ってきた伝説のアーティストたちが、次々にそういうキャリア、年齢を迎えていることを示しています」
その一方で、レジェンドたちの音楽を聴くファンは、親子2世代に広がっている。表に挙げたアーティストたちの公演の多くは、チケットが完売するほどの人気だ。「これが最後の公演かもしれない」と思えば、コアなファンでなくても伝説のアーティストを目撃するため駆けつける。レジェンドたちの来日公演はビジネスとして大きな広がりがあるのだ。
東京ドームの巨大ステージを端から端まで、軽やかにステップを踏みながら駆け抜けるミック・ジャガーの圧倒的な姿を見れば、年齢なんて関係ないと思えてくる。その一方で、2013年11月の来日公演を成功させ、2014年5月に再来日を果たしたポール・マッカートニーは体調不良で公演中止となってしまった。
男性の平均寿命は先進国でも70代後半。いくら節制していても70歳前後になれば、いろいろ体に不調が出てきてもおかしくはない。ポール・マッカートニーの公演中止の一件は、レジェンドたちのライブビジネスには健康面でのリスクがあることを明らかにしたといえそうだ。
日本の音楽界でも50代後半から60代のベテランアーティストの活躍が目立つ。フォークやニューミュージックと呼ばれた時代から続く日本の音楽シーン、J-POPの成熟を感じさせる。
まずは70年代に新しいフォークミュージックのスタイルを築いた2人の巨人。吉田拓郎は2年ぶりのアルバム『AGAIN』をリリースし、夏には首都圏ライブを敢行する。体調不良で心配された時期もあったが、まだまだ元気な姿を披露してくれそうだ。井上陽水は40年前に発表した日本初のミリオンセラーアルバム『氷の世界』を全曲演奏するツアーを、2014年6月末まで3カ月にわたって実施。そのツアーを9月から再開し、11月末まで続行することを発表した。
2人と同年代の小田和正も、3年ぶりのオリジナルアルバム『小田日和』をリリース。そのままの勢いで、2014年10月末まで4カ月におよぶ全国ツアーを実施している。ロックレジェンドの矢沢永吉や、THE ALFEEも毎年のように全国ツアーを行っている。ライブに力を入れてきたアーティストたちの息の長い活動ぶりが目立つ。
一方、マイペースな活動を続けてきた竹内まりやも、デビュー35周年を迎えた。2014年7月にリリースした記念シングルは、その名も『静かな伝説(レジェンド)』。サザンオールスターズの桑田佳佑、原由子夫妻と、夫の山下達郎がコーラスで参加する豪華な顔合わせが話題となっている。9月3日には7年ぶりのオリジナルアルバム『TRAD』をリリースする。
2014年3月31日、『笑っていいとも!』は32年間の幕を下ろした。最終回のテレフォンショッキングのゲストにはビートたけしが登場。たけし流の感謝状をタモリに渡し、同世代のお笑い両巨頭が並ぶ光景が実現した。
夜の特番では、明石家さんまとタモリのトーク中に、ダウンタウン、ウッチャンナンチャンが乱入、さらに爆笑問題、とんねるず、ナインティナインも加わって、お笑い界の"レジェンド共演"が実現したと話題を呼んだ。
ダウンタウンと、とんねるず、爆笑問題が不仲と言われていたが、各グループと縁のあるタモリが期せずして縁を取り持ち、雪解けを演出した形になった。
これを機に番組での共演があるかどうかは不明だが、とんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、爆笑問題は50歳前後の同世代。層が厚いこのアラフィフ世代が、タモリ・たけし・さんまのBIG3に続いて、お笑い界を支えていくべきリーダーであることは間違いない。
2014年5月にフランスから3つめの文化勲章「オフィシエ」を贈られた映画監督の北野武。2010年に「コマンドール」勲章を受章したときには記者会見で「日本の文化勲章と人間国宝ももらいたい」とおどけていたが、やはり功成り名遂げた人たちにとって、最後に欲しくなるのは勲章のようだ。
表はエンタテインメント界を対象にした叙勲・褒章をまとめたもの。まずスタートは紫綬褒章だ。年齢制限は撤廃されているものの、50代から60代の受章が多い。紫綬褒章をもらった人がさらにキャリアを重ねてもらうケースが多いのが旭日小綬章。こちらは70代の受章者が多い。
その上に位置づけられているのが文化功労者。これは文化の向上発達に寄与した人に与えられる年金。年額350万円の終身年金が支給される。文化勲章はこの分野の人にとっては最高の栄誉。年に1回、5~8人の人が選ばれるが、学術分野や文学者、画家、古典芸能などの受章者が多く、俳優や映画監督などの受章者はまだ少ない。
これらの叙勲・褒章とは別に、内閣総理大臣による表彰として、「国民栄誉賞」がある。オリンピックの金メダリストや昨年の長嶋茂雄、松井秀喜などスポーツ選手は生前の受賞が多いのに対して、エンタテインメント界からの受賞者は藤山一郎と森光子だけが生前受賞で、ほかはすべて没後受賞というのは残念だ。
ちなみに人間国宝(重要無形文化財保持者)は古典芸能が対象となるため、北野武=ビートたけしが選ばれるのは難しそうだ。
(日経エンタテインメント! 高宮哲)
[日経エンタテインメント! 2014年8月号の記事を基に再構成]
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