桜の写真、iPhone+ボール紙でこんなに奇麗に
報道カメラマンのiPhone撮影塾
気象庁は16日、東京都内で桜(ソメイヨシノ)が開花したと発表した。統計を取り始めた1953年以降で最も早かった2002年と並ぶ早さで、約1週間で満開となる見込み。全国トップとなった福岡は13日に既に開花が発表されており、今後、各地の桜が続々と見ごろを迎える。都内の花見スポットも、今週末には大勢の人が訪れることだろう。
■「寄り」でスッキリ
さてさっそくだが、桜を奇麗に撮るコツとは何か――。それは背景処理に尽きる。余計なものを省く「シンプル写」で、今年の春はいままでにない印象的な桜の写真を残してみよう。
「奇麗だなぁ」。満開の桜を写真に収めようと意気込んでiPhoneで撮影してみたものの、後からiPhoneを見てみたら「こんなゴチャゴチャしてなかったはずなのに……」と首をひねったことはないだろうか。
見たいものだけを感覚的に選び取る人間の目と違って、カメラはレンズに入ってくるものすべてを写してしまう。実際、普通にiPhoneを桜の木に向けて撮影すると、枝や花、葉、空…などが単調に等しく配置されただけの平板な写真になりがちだ。
こうした事態を避けるには、通常の撮影位置よりもさらに桜に「寄って」みるといい。これだけで、周囲の余計な枝が写り込まず、桜の花そのものがぐっと見やすく写るはずだ。
■ボール紙で背景をカット
桜の花びらだけを撮ろうとしても、普通の撮り方ではどうしても背景にほかの枝や空が写り込み、散漫な写真になってしまう。それに加えてiPhoneカメラの構造上、花びらのような同種の色柄がずらりと並んだ画面の場合、ピントの焦点が合いにくくなり撮影するのも厄介だ。
そこで、こんな裏技を提案してみたい。背景がゴチャゴチャするのなら、思い切って背景を無くしてしまえばいいのだ。
まず下敷きぐらいの大きさのボール紙を用意。撮影の際、それを桜の花の背後にかざして背景を無地にして撮影するという手だ。準備も簡単な上、たったこれだけで撮影時のピントも合いやすくなり、スッキリした写真となること請け合いだ。
市販しているiPhone専用の接写レンズを使えば、ちょっと不思議な写真も撮影できる。
iPhoneに接写レンズを装着して桜の花にぐっと接近。その状態で撮ると、虫眼鏡でのぞいたように花びらがアップになる。
なお接写撮影で光量が不足した場合は、本シリーズ2回目の料理写真編でも利用した「もう1台のスマホのフラッシュに照らしてもらう」方法が役に立つ。
こうしたちょっとした工夫をすることで、iPhoneでプロ級の桜の写真を撮ることができてしまう。ただ報道カメラマンが花を撮影する場合、実はもう一つ考慮することがある。
■人も入れて雰囲気とストーリー性を
それは「人影」。花単体だけだと、ニュースの焦点がぼやけるので、報道写真ではあえて人影を入れて撮ることが多い。
3月16日、気象庁が発表した「東京で桜開花」の知らせに、開花を決める「標本木」と呼ばれる桜がある靖国神社(東京・千代田)に6段の脚立を持って急行。新聞・テレビなど報道各社のカメラマンの脚立がずらりと並ぶ中、最上段に立ち、花の上部から桜を見上げる通行人を含めて撮影した。
これに「ほころび始めた桜を見上げる人たち」というキャプションを付け、「ニュース写真」になった。このように桜に人を配置するだけで、その場の雰囲気とストーリー性が写真に加わる。
カメラマンは脚立に登って植木屋のごとく、しかしソメイヨシノに触れないように細心の注意を払って、レンズを花びらに近付ける。高い枝にしか咲いていないときは、カメラを一脚に取り付け遠隔操作で撮影することも。
もっとも、開花が発表された標本木を撮るときには報道陣と一般の参拝客を含めての大撮影会となる。互いに気を遣いながら、花に寄ったり離れたり。しかし実は、お互いに「撮っている姿」を撮りたかったりするのだが。
報道カメラマンにとって、桜の記憶は、駆け出しの新人の頃の思い出と重なる。
開花宣言とともに脚立を背負いながら現場に走り、満開になれば桜の下で宴会する花見客からの「まあ飲め」という酒の誘いを断りながら、締め切りに間に合わせようと撮影したものだ。例年になく早い今年の桜。明日ありと思う心の仇(あだ)桜――。散ってしまう前に、iPhoneで美しい写真を残しておこう。
(写真部 小林健・寺沢将幸)
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