物忘れ、ストレス、月経周期の乱れ…、更年期3つの悩み対処法
日経ヘルス プルミエ
■月経リズムの乱れ、どう対応する?
仕事をしていると月経リズムが乱れるだけでも気になるもの。閉経前には周期が乱れ、予想しない時期に突然の出血が起こることもあり、困った経験のある人も多いようです。
けい子レディースクリニック表参道(東京都渋谷区)院長の寺師恵子さんは、「閉経を迎えるまでのパターンは百人百様」と言います。典型的な流れは、まず周期が短くなった後、長くなるというパターン。エストロゲンは減っていくものの、体の中では「もっと出せ」という指令が出たりするため、月経のリズムは乱れます。そして、周期があくと子宮の内膜が厚くなり、大量の出血につながることも。
「医学的には1年間月経がなければ閉経と見なしますが、あくまでも一つの目安。ある日突然ピタッと、月経が止まる人はほとんどいません。不安定になるのが当たり前と割り切って。ただし子宮筋腫など、ほかのトラブルで出血量が増えることもあるので、気になる場合は、婦人科に相談してホルモン値などの測定を」(寺師さん)。自分で更年期の状態を調べるなら、基礎体温が便利です。
「グラフがギザギザだったり、高温期がない場合は、月経があっても無排卵ということになり、卵巣の機能が低下して閉経が近づいていることが分かります」(寺師さん)。
閉経の前後5年が更年期。閉経前は、通勤バッグには常に生理用ナプキンを1、2個入れておくなどの備えをしておくと安心です。「公衆トイレもたくさんあるし、コンビニには何でもそろっています。いざとなったら婦人科に駆け込んでも大丈夫」(寺師さん)。服を汚すなどが心配なら、下着の替えを持っておく、大判のスカーフなどを用意しておく手もあります。ホットフラッシュやのぼせなどが起こる人は、脱ぎ着しやすい服装が便利です。
■物忘れが増えるのは何故?どう防ぐ?
大事な仕事の締め切りを忘れたり、ちょっとした作業が面倒になったり…。更年期を迎えて多くの働く女性が悩むのが、業務に直結する能力の低下です。「ついこの間まではこなせた仕事ができなくなることで、自信をなくす女性も少なくないようです」と話すのは、脳の働きに詳しい田中クリニック横浜公園(横浜市中央区)院長の田中冨久子さん。
「エストロゲンは脳内で、アセチルコリンという神経伝達物質の分泌を刺激して、記憶をつかさどる海馬をはじめ、脳の働き全体を活性化させると考えられます。このため、排卵前の卵胞期のように、エストロゲンが多いときは記憶力が増し、言葉も流ちょうになります。また、ドーパミンやセロトニンの分泌も刺激して意欲を増したり、心を安定させます」
田中さんがすすめるのは、ホルモン補充療法(HRT)。実際に更年期で仕事の効率が下がったと悩んだ女性がHRTを受けて回復したという声は多く、田中さんのクリニックでも「仕事で成果が出せた」と喜ばれることも多いそう。ただ日本ではHRTを受けることに慎重な人が多いのも事実。田中さんは「運動をしたり、ストレスを軽減することで、神経伝達物質の分泌を促すことも脳にはいい習慣」と話します。
最近の研究では、黙々と筋トレをするよりも、心地よい環境の中で、できれば仲間と楽しく運動するほうが脳を活性化させるという結果も。
一方、働く更年期女性たちが、うっかりミス対策として取り入れているのが、スケジュール管理。携帯電話の機能を使うなど、ミスを未然に防ごうとしています。
■イメージ化して覚えると忘れにくい
大阪大学で記憶と脳について研究する苧阪満里子教授は、「加齢により、男女とも、記憶力はある程度低下しますが、覚えるのが上手な人はいます」と話し、「覚えたいことは、イメージ化して覚えると忘れにくいのです」とアドバイスします。
「人にほめられてうれしかったことや、叱られて悔しかったことはよく覚えているものです。こうした記憶は、情動に関係する脳の部位を使って、イメージ化して記憶しているのです。さらに『これは忘れたくない!』と意識すると、重要ポイントに焦点をあてる脳の部位も働きます」(苧阪さん)。
朝、その日のスケジュールに従い、自分が実際に行動する様子をイメージしながらシミュレーションするのもいいようです。
「イメージする力を鍛えるには、興味をもてる本を選んで読んだり、ラジオを聞いたりするといいでしょう。落語を聞きながら笑うのもおすすめです。くれぐれもイメージするのが楽しいものを選んでください。そして感動したり笑ったり、情動を刺激するような生活を心がけてください」(苧阪さん)。
■ストレス対策には充分な休息を
40代50代の働く女性調査で、更年期対策として最も多かった答えは「休息をとる」、次いで「運動をする」、「友人・周囲に話す」でした。
東京医科歯科大学女性研究者支援室特任助教の有馬牧子さんは、「晩婚化が進んだこともあり、更年期に子育てと介護を同時に背負い込む女性も増えています。過労やストレスが更年期症状を悪化させることも。不眠などの症状が出る人も多いので、意識的に休息をとることは大事です」と指摘します。
このほかにも不安感やイライラが募ったり、起き上がれないほど疲れるなど不調が続くときは、婦人科を受診しましょう。
有馬さんは「症状に不安のある人は、婦人科の"パートナードクター"を探しておくといいでしょう」とアドバイスします。自分の体調の変化を安心して相談でき、重症化の予防になるなど、生涯の健康管理にもつながります。また医療にかかる時間や費用の節減にも役立ちます。
パートナードクター選びには、十分な説明があるか、話しやすいかなどの「相性」が大事。自分の心の状態が病院に行くほどではないという場合でも、ストレス解消法を見つけておきましょう。同年代の友人とそれぞれの症状について語ったり、アロマなど、気分転換になる習慣を大切。
この人たちに聞きました
けい子レディースクリニック表参道院長。東海大学医学部医学科卒。国立病院医療センター(現・国立国際医療研究センター)などを経て現職。婦人科医。
田中冨久子さん
田中クリニック横浜公園院長。横浜市立大学大学院医学研究科修了。横浜市立大学名誉教授。脳の性差研究の第一人者。著書に『女の老い・男の老い』(NHK出版)。
苧阪満里子さん
大阪大学人間科学研究科 教授。京都大学教育学研究科修了。大阪外国語大学教授などを経て2007年より現職。著書に『脳のメモ帳ワーキングメモリ』(新曜社)。
有馬牧子さん
東京医科歯科大学女性研究者支援室特任助教。ボストン大学大学院医学部卒業 国家認定キャリアコンサルタント 医学博士。
(日経ヘルス プルミエ 村上富美、ライター 宇山恵子)
[日経ヘルス プルミエ2012年冬号の記事を基に再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。