50代男も熱唱 BIGBANG、動員数100倍の爆発力
日経エンタテインメント!
激動の時代でも自らのスタイルを貫き、海外アーティスト初の日本6大ドームツアーを実現したBIGBANG。2008年の3公演約8000人動員が、今や16公演約77万人に。約100倍にファンが増えた秘密を探る。
ヒップホップ音楽やダンスを軸に、独自のスタイルで人気の韓国アーティスト5人組BIGBANG(ビッグバン)。その人気は右肩上がりで、2013年11月から2014年1月にかけ、外国人アーティストとして初の日本6大ドームツアーを実現。16公演に約77万人を動員した。
2008年のツアーで3公演約8000人を集客した後、2009年に日本メジャーデビュー。それからわずか4年で約77万人動員と、ファンの数は約100倍に増大した。単純にドームツアーのチケット単価9500円に77万人を掛けたとしても、売り上げ約70億円のビッグビジネスだ。なぜ、これほどまで人気が上昇し続けているのか。
BIGBANGを生み出したのは、90年代韓国の3人組ヒップホップグループ「TAIJIBOYS」のメンバーとして国民的ブームを起こしたヤン・ヒョンソク。現在、5人の所属事務所YG エンタテインメントの代表プロデューサーを務めている。
TAIJIBOYSが登場した当時、ヒップホップやラップ音楽の市場は米国のアーティストの独壇場で、言葉の壁もあり、アジアの歌手には参入が難しかった。韓国も同様で、ポップスやバラード、演歌が主流だった時代に、独特な音楽性と言語感覚で韓国発のヒップホップ音楽を実現。韓国初のミリオンヒットを記録し、今でも韓国音楽界に革命を起こした伝説的なグループとして尊敬されている。
そんな実績を持つヤン代表プロデューサーが2006年に結成したのがBIGBANG。国民的カリスマが自ら育てたグループであり、その音楽やファッションには他と一線を画したオリジナリティーが遺伝している。ファンには「他者にはまねできない」という本流意識が誇りとしてあり、比類なき存在として認知されていることが、海外でも高い集客力を維持し続けている要因だ。
カラオケで男が歌う、幅広く「グレーゾーンのファン」つかむ
もうひとつ、ファンが離れない理由は、いわゆる「韓流ファン」の層は少数派で、子どもから20代の若い女性ファン、そしてその女性の恋人世代の若い男性まで、幅広い支持層を獲得していることにある。
YGエンタテインメントジャパン代表の渡邉喜美氏によると、熱烈な韓流ファンではなく、無関心でもない「グレーゾーンのファン層」をうまく獲得できていることが成功を支えているという。
メンバーの個性的なファッションセンスも手伝って、ファン層には音楽業界のみならず、ファッション業界の関係者など、自己表現に関心を持つ層が多い。「韓流スターやK-POP歌手のようにコンサートを見に行くというより、自分も参加する場として楽しんでいる様子」(同氏)で、美意識の高い女性の動向に男性も反応。「今、アラフィフ(R50)男性が、六本木のカラオケで歌うのが、若い女性に受けのよいBIGBANGの『FANTASTIC BABY』」(同氏)と、年齢、性別に関係なくファン層は全方位に広がっているのだ。
さらに、動員拡大に大きく影響しているのが、ファンに募る焦燥感だ。メンバーは韓国や日本以外のアジア、米国をはじめその他多くの国でも活動しているため、各国のマネジメント担当が、彼らのスケジュールを取り合っている現状。ライブは5人そろった姿と歌を楽しめる非常に貴重な機会で、チケット争奪戦を過熱させる結果につながっている。
2011年、BIGBANGが所属するYGは、エイベックスと新レーベル「YGEX(ワイジーエックス)」を設立。この後、BIGBANGの動員力は一段階上の飛躍を見せた。YG エンタテインメントジャパンの渡邉代表によると、この成功の背景には、各地のクラブDJに使ってほしいとCDを配ったり、ライブに著名なファッションモデルなど、セレブを招いて口コミで広めてもらったりと、エイベックス担当者の表には出ない努力があったと明かす。
ファンに対して正直なスタンスを貫く
BIGBANGは、ラップだけでなく、グループのプロデュースも担当するリーダーのG-DRAGON(ジードラゴン)を中心に、SOL(ソル)のパワフルな歌とダンス、T.O.P(トップ)の低音ボイスとラップ、D-LITE(ディライト)とV.I(ヴィアイ)の甘いボーカルで5人のアンサンブルが生まれる。
歌以外に、ライブでファンが楽しみにしているのは、この5人のトークの掛け合いだ。日本語がずば抜けて流ちょうな末っ子のV.Iが、兄貴たちをうまく回していく。例えば、V.Iは、クールなT.O.Pにもっと話をさせようと、きっかけを作るが、T.O.Pは応じず、V.Iがすべっているような流れに。それをG-DRAGONやSOL、D-LITEが突っ込み、なぐさめ、末っ子いじりが成立する。とてもうまくできたシナリオのように見えるが、このやりとりは、実はアドリブで進行しているそうだ。
V.Iは日本の新聞を毎日読むほどの勉強家で、尊敬する日本のスターは明石家さんま。ステージ上で、日本語の完璧な話術を披露したいと思っている。しかし他のメンバーは彼の思いには構わず、素のまま、さらりと流す。変に持ち上げたり、盛り上げたりはしない。逆に、ファンイベントやテレビ番組のゲームコーナーで勝敗をめぐって、ファンやカメラの前でも、真剣に、熱くなりすぎてしまったことがあったという。
「ひとつのことに没頭しすぎてしまうことも多々ありますが、ステージの表と裏で、ウソが無いということは、お客さんも分かってくれています。メンバーが盛り上がっているときは、本当に楽しいと思っている。だからファンの共感が得られると思うんです」(渡邉氏)
音楽の魅力もさることながら、ルックスの似通ったメンバーが、いつも全員でメディアに露出して、新譜を手に笑顔で宣伝する…そんな日本の音楽界の「常識」の真逆に立ったことが、結果的にファンに真実味を与え、共感を生んだ。これはある意味、偶発性を含んだ希有な事例で、他が簡単にまねできるものではない。しかし、だからこそ、BIGBANGは際立った存在としてファンを集め続けているのだろう。
YG エンタテインメントは2014年2月、千葉県木更津市の「三井アウトレットパーク 木更津」内に「YG Exhibition in Japan Supported by 三井不動産」をオープンした。この施設は、BIGBANGやPSY、2NE1のパフォーマンスの様子を立体的なホログラム映像として上映するシアターアトラクション。約30分の映像が1日10回上映される。
三井アウトレットパーク 木更津を運営する三井不動産の商業施設本部 本部長補佐の安達覚氏によると、BIGBANGの施設がアウトレットパークにふさわしいと判断した理由は、ライブに行った際、多くの女性ファンがきれいに着飾っていて、日ごろから洋服やバッグ、アクセサリーなどに興味を持っていると感じたため。BIGBANGの映像を見に来て、そのまま帰るのではなく、店舗で買い物も楽しんでもらえると期待したところ、「予想通り、よい循環が場内で見られている」(同社 アウトレット部 アセットマネジメントグループ統括の山田慎一郎氏)。
施設内には200人程度を1度に収容できる、スタンディング方式のライブハウスのようなホールがあり、そのステージ部分にホログラム映像のスクリーンを設置。まるでステージ上でパフォーマンスしているかのような、立体的な姿を楽しめる。また、メンバーらが過去に実際に着た舞台衣装や、ステージで実際に使ったセットなども展示。アーティスト写真を封入したオリジナル商品も販売。2014年4月20日までの予定だったが、人気のため同年5月31日まで延長。休日は入場待ちの列ができることもあるので注意したい。
(日経エンタテインメント! 白倉資大)
[日経エンタテインメント! 2014年5月号の記事を基に再構成]
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