「ルール徹底」 管理職が定時退社で成果を出すコツ
時間制限のある中で部署を切り盛りするのは、かなりハードルが高く感じられるかもしれません。大きな課題は、メンバーとのコミュニケーションをいかに効率よく、かつ効果的に行うかです。
私も、時短勤務制度を利用しながら、15人のグループのマネジャーを務めていたことがあります。プレーイングマネジャーとして、自身とチーム双方の業績目標を達成し続けました。
そのとき、意識していたのは「役割の切り分け」と「時間の切り分け」です。
まず「役割の切り分け」。私はグループを2つに分けて、それぞれにチームリーダーを置きました。数字の取りまとめ、受注見込みの確認、受注案件の進捗確認など、私でなくてもできることはすべて、チームリーダー2人に任せました。
丸ごと任せることで、メンバー全員が育つ
私以外に相談できるリーダーがいれば、若手メンバーは何か課題が生じたとき、私に上げるまでもないことはまずリーダーに相談します。これによって、マネジャーである私の負担が軽減されたのはもちろん、マネジャーの立場を疑似体験する場となり、リーダーが大きな成長をとげ、一石二鳥となりました。リーダーたちは、私にとってより心強いサポーターとなってくれたのです。
ただし、自分の下にリーダーを置こうにも、部下のレベルが横並びだと選出しにくいこともあるでしょう。その場合、1~2人を選んでリーダーに任命するのではなく、部下それぞれに役割を与えてしまうのが有効です。
「数字の取りまとめはA君」「受注見込みのチェックはBさん」というように。
何でも上司の指示に従うのではなく、各自がチーム内で重要な役割を担うことで、責任を持って自分で判断する意識が育つと思います。
「私でなくてもいいこと」は、他の人に対応・判断してもらう
部下から次々と持ち込まれる案件・相談事。その都度、優先順位を付けながら処理していくのは大変な作業です。「何でもかんでも私のところに持ってこないで!」と叫びたくなることもあるのではないでしょうか。私の場合は、事前にルールを設定することで、混乱を防ぐようにしていました。
メンバーが持ってくる相談事には、「それくらい、私に聞くまでもないじゃない」と思うものもあります。また、それとは逆に「もっと早く私に相談してくれていればよかったのに」という事態も発生し、事後処理に時間を取られることもあります。「だって、いつも忙しそうだし、早く帰るから声をかけるタイミングを失ってしまって……」なんて言われると何とも言い返せません。
そうしたことに余計な時間と労力をかけることのないようにするために、私は早い段階でルールを定め、メンバーと共有しておきました。まず、私でなければ判断できないことは何かをピックアップします。それを基準にすれば、役割分担がしやすくなります。
そして、自分の部署内で起こりがちな問題について、
「このケースはA君に相談する」「この問題はBさんに報告する」というように、案件の内容ごとに相談する人、判断してもらう人を決めておくのです。チームリーダーや隣の部署のマネジャーに、判断をお願いする案件もありました。
他部署のマネジャーも巻き込み、相互サポート体制を構築
時短勤務のマネジャーにとって不安なのは、自分が退社した後に起きる問題やトラブル。場合によっては会社に戻る必要があったり、電話で対応しなくてはならなかったりするなど、育児時間にも影響を及ぼすことになるからです。
しかし、私は、会社を出たら携帯の電源はオフ。では、どうやって不在時のトラブルを処理していたかを説明しましょう。
私が退社した後、あるいは営業に出ていて不在の際にトラブルが生じた場合、問題を保留してしまうことのないよう、隣の部署のマネジャーの判断を仰ぐように指示していました。
そして、部長と相談のうえ、次のようなルールを決めました。
保育園へのお迎えのため、私が会社を出るのは17時。その後に突発的なクレームが発生するなど、マネジャーとしての判断や対応が必要になった場合には、月曜なら2課、火曜なら3課、水曜なら4課、というように、各課のマネジャーに日替わりでフォローしてもらう体制を整えたのです。
もちろん、他のマネジャーを一方的に頼るだけではありません。私も彼らの課のメンバーに営業同行したり、相談に応じたりと、サポートを快く引き受けました。女性マネジャーの方が本音を打ち明けやすいというケースもありますので、役に立てる部分は協力を惜しみませんでした。
上司とメンバーが状況に応じて入れ替わるクロスマネジメントは、お互いに新たな発見にもつながり、組織の活性化のためにも有効だと感じています。
「この時間は○○する」を切り分けて設定
私は周囲の人を巻き込み、役割分担を適切に行うことで、限られた時間を有効に活用してきました。さらに、時間の使い方にも工夫を凝らしました。これが私の言う、「時間の切り分け」です。
「この時間帯にはこれをする」という時間の切り分けを、細かく設定するようにしたのです。
例えば、メンバーからの相談事で緊急の案件ではない場合、
「こういう相談については火曜日の16時から18時の間に持ってきて」
「これについての報告は月曜日の10時から11時の間に」
「クライアント企業へのアポイント同行は、11時、13時、15時に集中させて」……と、内容ごとに対応時間を決めていました。
こうすれば、あらかじめ決まった時間を空けておけばいいので、忙しいさなかに話しかけられてイライラするなんて事態は防げます。メンバーにとっても、相談・報告するタイミングを逃さずに済みます。
雑談タイムも確保する
そして、私が常に心がけていたのは、メンバーと雑談をする時間を確保するということです。メンバーの大まかな活動状況や業績などは会議などの報告で把握することができますが、日々何を考えてどんな行動や工夫をしているか、ちょっとした成果などは、意識していないとなかなか知ることができません。ちょっとした雑談から、そうした情報がつかめるため、雑談の時間は欠かせないものだと思うのです。
そこで、戦略を練るなど集中して考える課題については、朝の時間帯に済ませました。日中はクライアント企業の訪問などで外出が続きますが、夕方の時間帯は雑務を片付けるのみにとどめ、いつでも話しかけてね!という余裕のオーラを発するように心がけました。重要な仕事は朝のうちに終えているので、実際、気持ちにゆとりもあります。
部下は上司の様子を観察しながら話しかけるタイミングをうかがっているもの。「忙しそうだな」と話しかけられずにいると、問題を先送りし、深刻化させてしまうこともあります。時短勤務であっても、メンバーに対して自分をオープンにする時間を用意しておくことが大切だと思います。
リクルートエグゼクティブエージェント・エグゼクティブコンサルタント。1993年、現リクルートキャリアに入社。1年目から営業トップセールスウーマンとして社内外で有名な転職エージェントに。2010年4月、リクルートエグゼクティブエージェント参画。2012年7月にNHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演。著書に『No.1営業ウーマンの「朝3時起き」でトリプルハッピーに生きる本』『本気になれば人生が変わる! HONKI SWITCH ON』『メンターBOOKS 女性管理職のFAQ』『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』『本気の転職パーフェクトガイド―トップコンサルタントが教える』、最新刊『後悔しない社会人1年目の働き方』などがある。
(ライター 青木典子)
[日経DUAL2014年2月5日掲載]
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