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全長1キロ、「道頓堀プール」は実現するか

 

2012/8/11

 大阪市の中心部を流れる道頓堀川に、全長1kmのプールをつくろう――。大阪府市特別顧問で元経済企画庁長官の堺屋太一氏の発案を受けて、こんな計画が動き出した。地元商店会や南海電鉄で構成する「道頓堀プール準備室」が7月31日、基本計画を発表したのである。

 2015年夏の開業を目指して、民間主導で遠泳競技や市民が遊泳できる世界的名所をつくる。「大阪のど真ん中に見たこともない巨大なプールをつくり、観光客を

 大阪市の中心部を流れる道頓堀川に、全長1kmのプールをつくろう――。大阪府市特別顧問で元経済企画庁長官の堺屋太一氏の発案を受けて、こんな計画が動き出した。地元商店会や南海電鉄で構成する「道頓堀プール準備室」が7月31日、基本計画を発表したのである。

  • 道頓堀川につくったプールで開催する競泳大会のイメージ
 2015年夏の開業を目指して、民間主導で遠泳競技や市民が遊泳できる世界的名所をつくる。「大阪のど真ん中に見たこともない巨大なプールをつくり、観光客を呼び込みたい」。堺屋氏は記者会見でこう意気込みを語った。

 基本計画によると、プールは発泡スチロールの浮き材を付けた「布函式(ふかん)」の水槽とする。布函とは、布でできた箱のこと。12~15mある道頓堀川の川幅いっぱいに布函を広げ、内部を水道水で満たす。

 布函を川に浮かべて、1.1~1.4mの深さがあるプールをつくる。布函の底面には硬質樹脂ボードなどを敷き、遊泳者が気持ちよく泳いだり歩いたりできるようにする。

 まずは、道頓堀川に架かる東側上流の日本橋から西側下流の深里(ふかり)橋まで、約800mの区間に布函を並べる。将来は西側に延長して、プールの全長を1kmとする計画だ。

 1つの布函の長さは30m程度。隣り合う布函同士はチャックで接合して一体化し、プールサイドとなる両岸の遊歩道や橋桁などに係留する。

  • 道頓堀プールの平面図。東側から西側に向けて流れる道頓堀川に「布函式」の水槽を浮かべる

 道頓堀川の水は、布函の下側を流れる。大雨などで増水する危険があるときは、布函の最上流部と最下流部の隔壁を取り外して、プール内にも川の水が流れるようにする。

 プールの営業期間は、毎年6月下旬から9月上旬までを予定する。営業期間前に設置して営業期間が終わると撤去できるように、布函はできるだけ簡単な構造とする。

■利用料金は1時間1000円

 道頓堀プール準備室によると、ある膜材メーカーからは「技術的に実現可能」とお墨付きを得ているという。しかし、係留する遊歩道の補強やプールの水質の維持、河川への影響など、実現に向けて検討しなければならない課題は少なくない。

  • 現在の道頓堀川。「とんぼりリバーウォーク」と名付けられた遊歩道が両岸に整備され、川沿いの建物から遊歩道へ直接出られる(写真:日経アーキテクチュア)
 「プールとなる布函構造の調査や設計はこれから。まずは計画を打ち出すことで、技術的な検討を始めると同時に、運営計画や資金計画も詰めていきたい」と、同準備室の福田靖夫氏は話す。12年度に布函構造の研究や実験をした後、13年度にはプールの基本設計に取り掛かりたい考えだ。

 堺屋氏らは12年度からプールが開業する15年度までに、30億円程度が必要になると試算している。

 そこで、まず12年度中に道頓堀川周辺の企業や住民などから出資を募って「道頓堀プール株式会社」を設立。次に、新会社が河川や遊歩道の使用権について、道頓堀川を管理している大阪市から取得することを想定している。

 新会社は金融機関から借り入れた資金などでプールを開設。プールや周辺の遊歩道の一部を有料にして、収益を返済に充てる。

  • 道頓堀川の断面図。図中の「OP」は大阪湾最低潮位(資料:大阪市)
 プールの利用料金は最初の1時間が1000円、以降は1時間ごとに500円程度を想定し、年間100万人の入場を目指す。このほか、世界唯一となる「超長水路世界選手権レース」などの競泳大会を開催して、会場の賃貸料や広告掲載料なども得る。年間収入は16億円以上を目標とする。

 税金は使わず、民間資金だけで運営する。2015年の「大阪都」の実現に向けて、魅力的な都市づくりを急ぐ大阪市の橋下徹市長は「面白くて、バカバカしいくらいのほうがいい」と前向きに検討する考え。必要であれば、規制緩和などで後押しする方針だ。

  • 道頓堀川の同じ地点の比較。上が遊歩道の整備前、下が整備後(写真:大阪市)
■「水の都」再生で風景が一変

 道頓堀川は東西に流れる延長2.7km、流域面積4平方キロメートルの一級河川。大阪を代表する川だったものの、護岸のかさ上げや水質の汚濁によって長年、市民には縁遠い存在となっていた。

 「水の都」の再生に向けて大阪市は2000年、道頓堀川の上下流部に水門を整備。高潮の対策と水位の調節を可能にした。そのうえで04年、両岸にそれぞれ幅8mほどの遊歩道を設けて、人々が川面に近づけるようにした。

 さらに、大阪湾の潮の干満に合わせて、上下流部の水門を開け閉めするタイミングを工夫。水質改善に取り組んだ。

 満潮時の前後は、道頓堀川の汚れた水を下流に放出すると同時に、上流からきれいな水を導入。一方、引き潮時は上流側の水門を閉じて、汚れた他の川の水が入り込まないようにした。

 その結果、水の汚れを示す生物化学的酸素要求量(BOD)が近年、1リットル当たり3mg以下に安定。環境基準値を満たす水準を保つようになってきた。

  • 満潮時前後の水門。上下流の水門をともに開いて、BODが1リットル当たり1.3mgの大川のきれいな水を導く。満潮時前後は川の水位が上がっているので、同12mgの寝屋川の汚れた水は流入しにくい。BODは2003年度の値(資料:大阪市)
  • 引き潮時の水門。上流側の水門を閉じて、寝屋川からの汚れた水の流入を防ぐ(資料:大阪市)

  • 大阪市内を流れる主な河川のBODの推移。BODとは水中の微生物が汚濁物質を分解するときに必要とする酸素の量で、値が大きいほど水が汚れていることを示す。道頓堀川は1970年ごろと比べて10分の1程度に下がっている(資料:大阪市)

■大阪に足りなかった「驚愕性」

 プールの開業を目指す15年は、道頓堀川の開削400周年にも当たる。「400周年を期にまちをプロデュースしてほしい」という地元商店会の依頼に、堺屋氏が25年以上温めていた企画で応えた。

  • 堺屋太一氏が示した大阪10大名物づくり
 2012年1月に開かれた都市戦略を話し合う大阪府市統合本部の会議で、堺屋氏は大阪の「10大名物」と題した私案を発表。「住みたい大阪」だけでなく、「行きたい大阪」を実現するためには世界的な名物が欠かせないとして、道頓堀プールの実現をその1番目に掲げた。

 私案のなかで堺屋氏は、これまでの大阪の都市づくりは総花的で経済性も軽視していたため、成功したとは言い難いと指摘。「常識的通例に堕し、国際的大都市にふさわしい驚愕(きょうがく)性が乏しかった」と断じた。

 その結果、定期観光バスが走らず、「日本の顔」として海外のカレンダーに載るような名所もなくなったと分析した。

 10大名物は、大阪にふさわしいものとして堺屋氏が具体的に示したもの。道頓堀プールのほかに「大阪都発都記念大博覧会」の開催や、14年に完成する高さ300mの日本一の超高層ビル「あべのハルカス」に「驚愕展望台」の設置、JR大阪駅の大屋根の下に「空中カフェ」の開設などを盛り込んだ。

 「いずれも実現可能で経済性もあり、儲かるプロジェクトとして進めるべきだ」と提案している。

(日経アーキテクチュア 瀬川滋)

[ケンプラッツ 2012年8月6日掲載の記事を基に再構成]

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