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寄り添うことも介護 認知症の母に学んだこと 詩人 藤川幸之助氏

2012/11/9

 母親の介護をテーマに詩を書き続けている詩人がいる。藤川幸之助氏(50)。介護をまだ経験していない人たちは、介護の美しい部分だけをすくい取ったり、つらい部分から目をそむけたりしがちだが、藤川氏はつらいことも、楽しかったことも、すべてを詩にして伝えてくれる。藤川氏の母親は、長い闘病生活の末、先ごろ亡くなった。藤川氏の様々な詩から、「介護とは、生きるとは、何か」が伝わってくる。

■「じっと見つめる」ことでコミュニケーション

――まず、藤川さんのお母様に対する思いのこもった一編の詩をご紹介します。

 ふじかわ・こうのすけ 詩人・児童文学作家。1962年生まれ。長崎大学教育学部修士課程修了。日本児童文学者協会会員。認知症の母に寄り添いながら、いのちの尊さや障害に対する理解、思いやる心の大切さを伝える講演や執筆を続け、認知症についての理解を広める活動を行っている。著書に「マザー」(ポプラ社、2008年改題「手をつないで見上げた空は」)、「満月の夜、母を施設に置いて」「まなざしかいご」(以上中央法規出版)などがある。

 「そよ風のような幸せ」

 母が死に向かって
 一歩一歩
 歩いている
 私は見えない幸せを探して
 一歩一歩
 歩いている

 時には私の道を
 母の道に重ねて歩く
 いつか必ずと言える
 幸せが見つからない
 死に向かっている母の中に
 どんな幸せを
 見つけていけばいいのか
 母の死を見つめている私の中に
 母とのどんな幸せを
 願えばいいのか
 食べ物を飲み込めなくなった母
 やせ衰えてしまっている母
 胃瘻を通すことになった母
 こんな毎日に
 どんな幸せが待っているというのか
 死が待っているだけじゃないか

 口を閉ざし、何も食べない母と
 それを見て困惑している私に
 寝たきりの隣のお婆ちゃんが
 「心配ですね お母さんもがんばってね」
 と励ましてくれた
 母が私を見て笑った
 そよ風のような微かな幸せを感じた

 目指す幸せなどいらない
 母が死にたどり着くまで
 母と一緒に
 生きていることに
 幸せを感じていけば
 これが幸せなのだ
 そよ風のような幸せを
 感じていけばいい
 それでいいのだ

――藤川さんのお母様は闘病の末に9月30日に亡くなられました。

藤川 アルツハイマー型認知症という病気でしたので、この前、MRI(磁気共鳴画像装置)で見ましたけれど、大脳にぽっかり空洞ができていました。だから、ぺらぺらの脳の状態で母は生きていたんですね。亡くなる10日前後は息ができなくなっていました。苦しそうでした。横にいて、そこまでして何で母は生きるんだろう、と思いました。食べることもない。楽しみもない。でも、死に向かっている母が、必死に生きる姿を見つめることが、「命をつなぐ」ことだったんだなといまは思います。

――お母様はいつごろから認知症の症状が出たのですか。

藤川 24年前です。60歳の時に発症して、84歳で亡くなりました。

 長い間、言葉がなかったので、母は本当はどんな思いで暮らしているのか、一度も分かりませんでした。分かろう、分かろうと努力はしてきましたが。

――感じるしかないのですかね。

藤川 母は何も分からないし、何もできなかったのですが、感じることはできました。桜の下につれていくと「わああ」って言うんですから。春というのは感じるものなんですね。

 言葉ではないものでコミュニケーションをとるためにはどうしなければならないかというと、「見つめる」しかないんですね。母をじっと見つめることでしか分からない。逆に言えば、私たちはあまりにも言葉に頼りすぎて見つめることを忘れています。

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