乳がん検診、若い女性が受けた場合に不利益も
乳がんの最適治療(1)
乳がん検診のマンモグラフィは「40歳から推奨」というのが日本のガイドライン。では30代、20代の検診はどうすればいいのでしょうか?
「結論からいうと現在、若い世代が受けて得をする、つまり利益が不利益を確実に上回る乳がん検診は存在しません」と、国立がん研究センターがん予防・検診研究センター検診研究部部長の斎藤博さん。
40代以降でも完璧ではない「乳がん検診」
そもそも「検診」は「健康な人」を対象に行うもの。症状がある人が受ける「検査」とは区別して考えます。検診には自治体や職場などが実施する「対策型」と人間ドックなど個人が自費で行う「任意型」がありますがいずれも、かけた費用や受診者の物理的、精神的負担なども勘案し、利益が不利益を上回る場合に実施されるべきです。
「がん検診は、早期発見で死亡率が下がるという科学的根拠がある検診のみ有効と考えます。乳がんの場合、マンモ検診は40歳以降は有効ですが、40歳未満の有効性は証明されていません」
そればかりか、がん検診は一旦受けると、必ず不利益が生じるといいます。
不利益とは、例えば「偽陽性」の問題。がん検診を受けると必ず、ある割合で陽性(がんの疑いあり)が出ますが、本当にがんの人は、乳がん罹患率(りかんりつ、疾病の発生率)の高い40代でもわずか0.2~0.3%(下グラフ参照)。残りは「偽陽性」です。「偽陽性の場合、がんかどうかを確認するために精密検査を受け、結果を待つ間、不必要に精神的な苦痛を受けることになります。さらに、本当にがんがあったとしても、その中には進行しないがんが一定の割合で含まれます。でもがんが見つかった以上、治療しますし、その人はがん患者となってしまう」(斎藤さん)。そうなると、一生、再発の不安を持ち続けることにもなりかねません。
「これを『過剰診断』といいます。検診をしなければ生じなかった『偽陽性』や『過剰診断』は個人にとって大きな不利益です」(斎藤さん)
1. 若い人では検診の有効性はない、または期待できない
2. 若い人は乳腺密度が濃くマンモグラフィー検診では「偽陽性」の発生が増えがち
3. 確定診断までの不安は、相当な精神的ストレス
4. 偽陽性だった場合、不必要な検査や治療を受けることになる
5. 進行しないがんが発見される可能性もある
40代以降は、こうした不利益を考慮しても、がんを見つけるメリットのほうが上回るため、検診が推奨されますが、「発症者の少ない30代や、まれな20代が検診を受けると、利益はない、またははっきりしないのに不利益だけは受けてしまう」と斎藤さん。
また、乳腺密度が高い若い人の乳房は、マンモ検診では乳腺も病変も白く映ってしまうため、病変をみつけにくいことがあります。そのため、超音波検診のほうが病変をみつけやすいとの意見もありますが、「超音波検診も死亡率を下げるかどうかは根拠がまだない。一方、偽陽性、つまり『検診の不利益』は確実にある」と斎藤さんは話します。
家族性乳がんの可能性がある人、自覚症状のある人は、若くても別対応で検診の検討を
ただし若い世代でも、下のチェックに1つでも該当する人は、家族性・遺伝性乳がんの可能性がある人なので、別の対応を検討することをおすすめします。具体的には、一度乳腺の専門家に相談し、必要なら早くから定期検診を受けるなどです。また、「乳房に異変を感じたら、すぐに乳腺専門医の受診を。これが今できる最大の自己防衛法です」(斎藤さん)。
□ 40歳未満で乳がんを発症した血縁者がいる
□ 年齢を問わず、卵巣がんになった血縁者がいる
□ 年齢を問わず、血縁者に原発乳がんを2個以上発症した人がいる
□ 血縁者に男性乳がんになった人がいる
□ 乳がんになった血縁者が自分を含め3人以上いる
□ BRCAという遺伝性乳がんの遺伝子変異が確認された血縁者がいる
□ 抗がん薬、分子標的薬、ホルモン療法薬のいずれもの治療が難しい(トリプルネガティブ)といわれた乳がんの血縁者がいる
国立がん研究センターがん予防・検診研究センター検診研究部部長。がん検診の有効性評価および精度管理の研究を続ける、がん検診の第一人者。著書に『がん検診は誤解だらけ 何を選んでどう受ける』(NHK出版生活人新書)がある。
(日経ヘルス編集部)
[日経BPムック「『乳がん』といわれたら――乳がんの最適治療2013~2014 完全版」の記事を基に再構成]
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