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職場の知恵

「留職」で若手社員鍛練 新興国で社会問題と対峙

2013/7/29

 新興国で貧困など社会問題に向き合う現地の非政府組織(NGO)・企業に若手社員を送り込む、ユニークな人材育成法を採用する企業が広がっている。「留学」に模して「留職」と称する試みだ。そこでひと皮もふた皮もむけた社員が、社内のよどんだ空気をかき回し始めた。

■ゼロから信頼築く

 小さなポリタンクを再利用した容器に使用済み注射器がきちんと捨てられていた光景に、まるで「幸せの黄色いハンカチ」を見つけたような感慨を覚えた。テルモの高橋光さん(30)。今年初め、インドネシアで低所得者向け診療所を運営するNGOで働いた。感染症防止のための自分の提案を診療所が受け入れたことに「見ず知らずの日本人が考えたことなのに……。感動しました」と振り返る。

インドネシア・スメダンの診療所で現地の医療状況を調べるテルモの高橋光さん(右)(今年1月)

 高橋さんは同社の「海外留職アクションラーニング」プログラムで2カ月間、このNGOに派遣された。診療所運営の問題点を見つけ、改善策を示すのが与えられた課題だ。5つの診療所を回ると、注射器が無造作にゴミ箱内のビニール袋に捨てられていた。注射器も粗悪だった。高橋さんはルーペを使う注射器の簡単な品質チェックの手法も考えた。

 ただ、「こうすべきだ」と押しつけはしないよう知恵を絞った。診療所に多い女性スタッフに日本の菓子を持って行ったり、妻の写真を見せたりして、自分の人柄をわかってもらうことからスタート。日本人相手では、こんな手順を踏む必要はない。「異文化の中で、ゼロから信頼関係を作る経験をし、成長できた」と実感している。

 テルモがこの制度を始めたのは昨年。グローバル化が進む中、仕事が細分化され、若手社員はその枠内での仕事中心で幅広い力がつかない。また海外駐在員は35歳以上が中心で、若手に海外経験を積ませる機会も少ない。

 そこで「最初から最後まで自分で責任を負って仕事を進める経験ができ、海外でもまれる留職を取り入れた」と人材開発室の広瀬美緒さんは語る。世界で活躍できるリーダー養成を目指す。その結果、若手からは「テルモもまだいけるな」という声が聞かれ、仕事へのモチベーションを上げる効果も出ているという。

 ベネッセコーポレーションも今年1人、1カ月間ほどインドに派遣したのを皮切りに現在、若手2人が12月まで半年間の予定で、インドネシアのNGOで働く。同じくリーダーシップ研修という位置付けだ。10年ほど前から海外志向のある新入社員をとってきたが事業の展開が遅く、「若手に不満がたまり、優秀でとんがった人間が辞めたことも留職を始めた背景にある」とベネッセホールディングス経営企画部の三木貴穂さんは語る。

 テルモやベネッセと現地NGOとの調整を請け負うNPO法人クロスフィールズ(東京都品川区)の共同創業者、松島由佳さん(28)によると、米国では5年ほど前から、企業の社会的責任(CSR)の一環として留職が始まった。日本ではリコーが3年前、インドの農村に社員を定期的に派遣したのが先駆けだ。

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