変わるオフィス 女性目線の化粧室、ソフトクリームも
「居心地」の良さが「やる気」に
女性目線の設備を整えたオフィスが続々登場している。机の配置やデザイン性の追求から一歩進み、「歯磨き」「消臭」というこれまで盲点だったニーズをとらえているのが特徴。働く意欲を引き出すヒントは意外なところに隠れていた。
2012年、そごう横浜店(横浜市)が大改装した女性従業員向けパウダールーム。白と焦げ茶で統一した空間には観葉植物が飾られ、壁一面を鏡が取り巻く。
シンクの深さは約55センチメートルと深めで歯磨きがしやすい。「口をゆすいでも服に水がはねない」と「イプサ」ブランドの化粧品を販売する人見貴子さん。30人が並んでも余裕の広さだ。明るい雰囲気のパウダールームは「気分が高まり午後もがんばろうと気合が入る場所」。
百貨店の最重要スペースといえば売り場で、従業員用設備は二の次になることが多かった。「改装のベースにあったのは『ES(従業員満足)がなければCS(顧客満足)はない』という考え方」と総務部の手塚徹人事担当部長は話す。
取引先を含めると同店では6千~7千人が働き、そのうち約8割が女性だ。かゆいところに手が届く環境を整備すれば、「女性が働き続けたいと思い、結果として経験豊富な販売員が店に増える」(同)。
女性社員比率が上がる中、オフィスはどうあるべきなのか。カギとなるのは女性ならではの視点だ。「個人のロッカーを用意するだけではだめ。男女別に分かれていなければ、ロッカー前で上着を着替えたり靴を履き替えたりしにくいから」(大手PR会社の女性)
男性が多い企業でも模索が続く。東京都港区にあるパナソニック東京汐留ビルではビル建設前にアンケートを実施し、女性社員の要望が多かった歯磨き用シンクと全身を映す鏡を設置した。ヘアアイロン用の複数のコンセントもあり「身支度しないまま出社しても化粧や髪の手入れができる」。社員からはそんな声が上がる。
オフィス改革の定番といえば机のレイアウト変更やデザイン性で、コミュニケーションのしやすさや生産性の向上が狙いだった。最近では、休憩室といったバックヤード部分に目が向く。会社の「居心地」が社員のやる気に直結すると気づいたからといわれている。
「新設のオフィスビルを中心に、女性が喜ぶスペースを設ける例が増えている」と内装設計大手、丹青社の湯沢幸子プランニングディレクターはみる。通路脇におしゃべりコーナーをつくるという、ユニークな事例も出てきた。「気分転換したい、前向きに仕事がしたい、という女性のニーズに応えるためだろう」
盲点は意外なところにある。伊勢丹新宿本店(東京・新宿)は昨年10月、衣類の消臭装置を従業員用喫煙ルームに設置した。装置の前に数秒立つとヒノキのような香りが吹きつけられる。「制服の上にフード付きのパーカーを着て、髪や服に臭いがつかないよう気にしながらたばこを吸っている女性が多かった」(島田治総務担当マネージャー)ためだ。
女性好みの職場を追求するのが婦人アパレルのフォクシー(東京・中央)。新ブランド「ADEAM」のオフィスの休憩室にはソフトクリームサーバーがある。整体師が常駐し、夕方に軽食がつまめ、トイレも広々。「女性にモノやサービスを提供する仕事だからこそ、何が女性にとってうれしいのか、社員が常に考えられるようなオフィスにしたかった」と前田華子クリエイティブディレクターは明かす。
職場は「あるべき生活スタイルを学ぶ場でもある」。スキンケア商品通販、あきゅらいず美養品(東京都三鷹市)の南沢典子社長はこう話す。畳敷きの休憩スペースにハーブティーなどのお茶とドライフルーツを常備。ハンモックに揺られながら足裏のツボを刺激するリフレクソロジーを受けられ、社員食堂では旬の食材をバランスよくとれる食事が提供される。
「社員が会社でも偏った食生活をしているのが気になっていた。化粧品だけに頼らないスキンケアを実践してほしかった」(同)。食生活を見直し、健康への意識を高めた社員が増えた。女性の心に響くオフィス改革が、会社固有の風土を育んでいる。(黒井将人、井土聡子)
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