漫画界にジョーはいなくなった ちばてつやさんの仕事観
昔は「漫画家=貧乏」、今の若者には「かっこいい」存在
――文星芸術大学(宇都宮市)の教授として学生に漫画を教えられています。
ちばてつや 1939年東京生まれ。50年、友人と漫画同人誌をつくり、56年プロデビュー。68年「あしたのジョー」連載を開始し大ヒット作となる。「おれは鉄兵」「のたり松太郎」「あした天気になあれ」など人間味あふれる作品を送り出し、幅広い層のファンをつかむ。
「大学の漫画専攻の学生は大学院生をいれて110人くらい。漫画家になるしかないと頑張っている子、ストーリーは作れないのでイラストレーターをめざそうという子、いろいろです。すでに雑誌で連載を持っている学生もいますし、プロになれないとあきらめて就職を考える子もいる。この世界は厳しいと皆わかってくるんです。学生にはやる気を出して描きたい世界を見つけてほしい。ですから課題として出版社への漫画の持ち込みをやらせるなど、あれこれ試しています」
――漫画家になることへの憧れは強いのですか。
「最近の若い人たちにとって漫画家という職業は『かっこいい』もの。雑誌でスポーツカーを何台も持っているような漫画家の優雅な生活が紹介されているからなのでしょうか。どのくらいもうかりますか、海外旅行にどのくらい行けますか、なんて聞かれます。昔は漫画家=貧乏。なりたい、なんていうと親が大変心配しました。作者が描いた自画像の衣服やベレー帽はつぎあてしたものばかりでしたよ」
最近の漫画家は週休2日、仕事をきちんと管理
――漫画界の働き方も様変わりしています。
「考えようによっては漫画家は毎日が日曜日ですが、売れればずーっと時間に追われる。僕の時代は発表する雑誌自体が少なくて、つまらないものを描いたらあっという間にクビ。他の人に仕事を奪われてしまうから寿命は短かった。だから仕事はすべて引き受けました。体力の続く限り僕自身も眠らず起きっぱなしでしたし、10人ほどいたアシスタントもそうしていました」
「ところがいま現役で活躍している30代~40代の人気漫画家たちは自分ならばこのくらいのペースで仕事ができる、これ以上だとだめ、ときちんと把握しており、無理な仕事は引き受けません。週刊誌が無理なら隔週でといいますし、土日は自分もアシスタントもきっちり休めるように管理している。ある時期は取材の時間にあてたり、海外旅行にいったりして人生を楽しむ。僕たちのころとは大違いです」