日米を動かす女たち 増やせ政・官の女性幹部
「日本社会での女性の活用は経済、安全保障の問題」。オバマ米政権ではこんな見方が広がる。女性活用がなぜ、外交・安保なのか。安倍内閣の女性政策は、米国との同盟関係にも影響を与え始めた。
「ホワイトハウスは3人の女性が取り仕切っている。綿密な対策が必要だ」。日本政府の高官はオバマ米大統領の意思決定に強い影響を与える人物として、ミシェル・オバマ大統領夫人、バレリー・ジャレット上級顧問、スーザン・ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)の名前をあげる。
いずれも2008年、オバマ氏がヒラリー・クリントン前国務長官との激戦になった民主党大統領選予備選に出馬した時からの身内でもある。ここに、駐日米大使のキャロライン・ケネディ氏が加わる。
ミシェル夫人は「ケニア人の父、白人の母を持つオバマ氏は、奴隷制があった時の米国の黒人の系譜に連ならない」と黒人社会で指摘された選挙戦序盤、先頭に立って支持を訴えた。ジャレット氏はそのミシェル夫人を1991年、シカゴ市長のスタッフとして採用し、婚約者だったオバマ氏と知り合って以来の仲だ。ライス補佐官は外交・安全保障政策をホワイトハウスで統括している。「大統領が今年4月にアジアを訪問する」と公式に発表したのも、ライス補佐官だ。
ホワイトハウスの3人とケネディ大使は女性の活用、人権、貧困対策に熱心なことも共通する。オバマ政権での日米同盟の今後は人脈的にも、政策面でも女性たちが握っているといって過言ではない。
オバマ政権は女性の活用に早くから取り組んできた米民主党リベラル派の流れをくむ。だが、米国が日本社会での女性の活用に向ける目は、多面的だ。昨年12月、来日したバイデン副大統領は、女性の活躍をテーマにした懇談会への出席を首相との会談前に設定した。副大統領の同行筋はこの狙いを「人口減少に直面する日本は、女性を経済社会に統合していくことが不可欠だからだ」と説明した。
人口減、少子高齢化への対応策として女性の活用を説くのは、オバマ民主党だけではない。共和党のニクソン元大統領も1992年に、著書で「日本経済の弱点」は人口問題だと記し、解決策は「米国の例に倣って、日本人女性の能力と才能が開放されれば、日本経済はこれまで以上に飛躍する」と断言している。
米国にとって日本の女性活用は男女共同参画、経済成長戦略の枠にとどまらない。アジアで最大の同盟国の強さは中国の存在をにらめば、自らの利害に直結する。
国際社会での日本の地位を維持し、高めるためにも、女性が活躍できる環境整備を急がなければならない。安倍首相も十二分にその事情は分かっている。
1月4日、政権運営を地元・山口県で始動させた首相は「女性が輝く社会、国にする」と力を込めた。昨年9月にはニューヨークの国連総会演説の半分を「女性が輝く社会」に費やした。女性活用策を打ち出せば「安倍政権は復古主義的ではないか」と米政府の一部にある懸念を払拭する効果も見込める。文案は、外務省の斎木昭隆事務次官と周到に準備して練り上げた。
演説の効果はてきめん、16年大統領選の有力候補と目されるクリントン氏からも、称賛の手紙が届いた。安倍政権の女性活用は「復古主義的」と米政府の一部にある懸念を払拭する効果もある。
問題は実行だ。首相周辺は「そこは割り切っている。まずは要職にある女性の数を増やすしかない」と明かす。自民党総裁に就任すると、すぐ党三役の2人を女性にした。閣僚、副大臣、政務官にも女性を積極的に登用した。女性初の首相秘書官も実現させた。2月に迫った東京都知事選の候補選びでも、意中の候補は女性官僚だったとされる。
政権担当者が女性の登用を考えるとき、常に問題となるのが議員や官僚における女性の母集団だ。首相が官房副長官として仕えた小泉純一郎元首相が、持論としていた「5人の女性閣僚」を実現するのも、国会議員だけでは難しかった。
今回、女性秘書官の選考作業で、対象になる官僚ほぼ全員をかき集めて100人、最終リストにあがったのは20人だった。「十数年前より多くなった」とみるか、「100人しかいない」とみるか。昨年1月段階で国家公務員の女性管理職は3%未満。あまりに過小なのは明らかだ。
米国で政と官に女性の存在感があるのは、民間と公的機関を自由に行き来できる「回転ドア」の職業システムが定着しているからでもある。日本では女性だけでなく、男性にとっても国会議員や、政治任用(ポリティカル・アポインティー)の政府幹部になるのは、その後の生活設計までを考えれば簡単ではない。
結局、女性活用の問題は、ケネディ大使が日本での初講演で明らかにしたように「男性の問題でもあり、家族の問題であり、経済や国家安全保障の問題であり、道徳上の問題」。日米同盟にもかかわる政官での女性登用を、日本は進める以外に道はない。
(丸谷浩史)
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