ライフコラム

生きものがたり

太平洋横断するクロマグロ、脳内に高性能な時計

2013/4/20

 日本は四季に恵まれ、様々な生きものが生息する。人間社会の周りでいのちを育む野鳥、昆虫、魚、動物にスポットを当て、人々の暮らしとの関わりや、時代・環境の変化に伴う生息状況の移り変わり、ユニークな生態――などを紹介する。

 クロマグロは日本の南西諸島から台湾、フィリピンまでの東方海域で産卵する。5~6月が産卵のピークで、幼魚は黒潮に運ばれて日本周辺で育つ。生まれた年の冬か翌年には、日本沿岸を離れて太平洋を横断し、はるか8000km向こうのカリフォルニア沿岸にまで回遊する。そこで、イワシなどの豊富なエサを食べて3年ほどで約50kgに成長するが、アメリカ側では産卵せず、また太平洋を横断して日本沿岸に戻って産卵する。日本はクロマグロの故郷と言えるだろう。

大型水槽を泳ぐクロマグロ=葛西臨海水族園提供

水槽での飼育は非常に困難

 今、日本で扱われるクロマグロの半分以上が養殖マグロだという。体長30cm程度の幼魚を集めて養殖し3年後に出荷する。養殖が本格的に始まったのは1980年代半ばだが、養殖の研究は70年に始まった。ちょうど私が東海大学海洋科学博物館に勤めた年で、遠洋水産研究所(現国際水産資源研究所)が音頭を取り、東海大学、近畿大学などが参加した。

 このプロジェクトの主な目的は生け簀(いけす)養殖の開発であったが、我々は水族館水槽での世界初の飼育を目指した。クロマグロは体にウロコがないので傷つきやすく、その上、音や光の変化に敏感で、驚くと壁やガラス面に衝突して死んでしまう。非常に飼育の困難な魚である。

 海洋科学博物館では、まず角型の水槽で飼育した。2週間ほどで頭部が変形し始め、2カ月もすると頭全体が大きなこぶのようになり、とても展示できる状態ではなかった。大形の展示水槽(600立方メートル、表面積約100平方メートル)で飼育してみたところ、先住のブリにおびえてエサがうまく捕れず、長期飼育はできなかった。ただ、マグロ類だけで飼育した実験水槽では1年以上飼育することができた。

 その後、ブリを取り出した大型水槽にクロマグロを40尾の群れで展示した。時々驚いたように突進してガラス面に衝突するマグロが後を絶たず、約半年後に最後の1尾が死亡してしまった。結局、この水槽でマグロを飼育するのは無理だと判断し、74年に研究を終了した。

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