ライフコラム

生きものがたり

カタクリに舞うギフチョウ、人間の営みが育む文化

2013/4/6

 日本は四季に恵まれ、様々な生きものが生息する。人間社会の周りでいのちを育む野鳥、昆虫、魚、動物にスポットを当て、人々の暮らしとの関わりや、時代・環境の変化に伴う生息状況の移り変わり、ユニークな生態――などを紹介する。

 寒さが厳しかったこの冬もようやく去り、待望の季節がやってきた。ソメイヨシノの開花の便りとともに、日本列島を春が北上してゆく。

カタクリの花に蜜を求めるギフチョウ=撮影 永幡嘉之

 今回紹介するのは「ギフチョウ」。本州に分布しており、北限は秋田県。決して身近なチョウではないが、春の短期間にだけ現れる季節の使者として、あるいは黄色と黒を基調に赤や青をちりばめた美しさから、メディアに取り上げられる機会は昆虫のなかでも抜きんでて多い。

食草は「徳川家の家紋」

 今では里山の環境変化や森林面積の減少とともに、各地で数を減らしている。神奈川、静岡、三重、大阪など、太平洋側の都市近郊は減り方が顕著で、人間による開発がそれだけ甚だしかったことの裏返しだろう。

 食草はカンアオイの仲間。これも著名な植物とはいえないが、徳川家の家紋に使われた三つ葉葵(あおい)はこの仲間をモデルとしており、冬にも青々とした重厚な葉が日本人に好まれたようだ。今も山野草の愛好家の間では人気が高い。

 ギフチョウのメスは芽吹いて間もないカンアオイ類の若葉に卵を産む。幼虫は柔らかい葉を食べ、初夏に落ち葉の下などで蛹(さなぎ)になる。そのまま夏、秋、冬と長い季節を過ごし、やがて次の春の訪れとともに固い殻を破って羽化するのだ。

暖かな日中は移り気に

ギフチョウの食草であるコシノカンアオイ=撮影 永幡嘉之

 成虫はスミレ類など様々な花を訪れるが、日本海側の雪国では、特にカタクリの花を訪れる場面が多い。カタクリと特別な関係があるというわけではないのだが、現れる季節も場所もよく一致するし、何よりも美しい花に美しいチョウという組み合わせがよく似合う。

 カタクリの花は夕方に閉じる。午前9時頃、朝日が当たると開き始め、15分ほどで、あわせて6枚のがく片と花弁が反転する。間もなくギフチョウが飛来して、ぶら下がって蜜を吸ってゆく。朝は30秒ほど花にとどまることもあるが、気温が高くなる日中は10秒ほどで蜜を吸い終えると、次々と別の花へ移ってゆくので、なかなか撮影の機会に恵まれない。一面にカタクリが咲いている場所では、どの花に来るか見当もつかないので、花の前でカメラを構えているわけにもいかないのだ。

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