ライフコラム

生きものがたり

泥のペレットが目印 空気中でも生きるトビハゼ

2013/9/14

トビハゼは陸上生活に適した魚だ=葛西臨海水族園提供

 トビハゼは泥干潟を生活場所としている。愛知県から九州までの沿岸を中心に、東京湾から沖縄島までの広い範囲にわたって分布するが、高度成長時代に生息場所の泥干潟が埋め立てや護岸工事などで失われたために減少し、今は環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に指定されている。

■皮膚呼吸とえら呼吸のしくみ

 有名なムツゴロウよりももっと陸上生活に適応した魚で、干潟に潮が満ちてくると、岸方向に移動し、くいや石の上などに上がって水の外に出ようとする。魚は普通、水から出れば死んでしまうものだが、トビハゼはえらだけでなく皮膚でも呼吸できるので平気だ。水中ではえらと皮膚でほぼ半分ずつ、空気中では4分の3以上を皮膚呼吸に頼っている。

 トビハゼの皮膚にはいくつかの特徴がある。まず、表層がとても薄く、メダカの4分の1、ムツゴロウの2分の1程度しかない。えら表面の薄さとほとんど同じだ。しかも、その表層には毛細血管網が走っていて、ここで酸素を取り入れている。呼吸の障害になるうろこと粘液はほとんどなく、体を触ってもぬるぬるしない。つまり、皮膚で呼吸するのに都合よくできている。

 ただ、皮膚を保護するうろこも粘液もなくては体が乾燥しやすい。そこで、表層の下の層に中空の大型細胞がコルク状に並んで断熱材の役目を果たし、乾燥と体温の上昇を防いでいる。

■涙ぐましい雄の繁殖行動

ジャンプするトビハゼ=葛西臨海水族園提供

 繁殖期になると、雄は干潟に直径2cm、深さ30cmほどの巣穴を掘る。普段はくすんだ黒褐色だが、黄褐色の婚姻色に変わり、背びれを広げたりジャンプしたりして雌に求愛し、巣穴に誘いこむ。巣穴はJ字型に湾曲し、袋小路の先端部はほかの部分よりも少し太くて、ここが産卵室になっている。産卵が終わると雌はいなくなり、卵を世話するのは雄だ。

 巣穴の中での雄の行動は不明であったが、最近、長崎大学の石松惇先生によって撮影され、繁殖行動の一部が明らかになった。

 巣穴にたまっている水にはほとんど酸素がなく、卵が水につかっていると死んでしまうので、雄は干潟の表面で口に空気をため産卵室の中に運ぶ。トビハゼの口はほかのハゼよりもかなり大きいが、そうは言っても、口の中に含む空気量は産卵室と比べると100分の1程度。潮が引くと、雄は何度も巣穴を出入りして空気を産卵室に運ばなければならない。

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