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リーダーのマネジメント論

夢の新薬へ「10年後読める人材を」内藤流の育成術 エーザイCEO 内藤晴夫氏

2016/5/7

 世界初の画期的な認知症治療薬の開発を目指すエーザイ。大型薬の相次ぐ特許切れで高収益構造を維持するのは難しい局面だ。創業家3代目の内藤晴夫代表執行役最高経営責任者(CEO)は、米国の名門ビジネススクールで学び、革新的な経営手法を追求してきた。内藤流のリーダー論を再公開する。

 大型薬の特許切れ、後発薬の台頭など製薬業界の経営環境は厳しい。社長に就任して四半世紀を超えますが、今が一番厳しい状況ではないですか。

 「エーザイでは、主力の大型薬が特許切れし、財務的にチャレンジングな時を迎えています。しかし、真に優れたものが問われる時代、真に優れたものしか報われない時代だからこそ、多く取り組むべき課題がある。社長としては今までの中で一番やりがいを感じています」

 エーザイでは認知症を根本的に治す新薬の開発が進んでいます。実現すれば、世界中が期待する新薬の登場となります。複数のパイプライン(新薬候補)品目の開発プロジェクトが進んでおり、早ければ2020年頃には承認されるとの声もありますが。

 「ご存じのように新薬開発は非常に難しいものです。認知症薬のパイプラインは、当社がオプション権を有している提携先の候補化合物も含めると5つになります。スウェーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンス社から抗体医薬品の候補物質を導入したり、米バイオジェンと共同開発をしたり、他社との提携も積極的に進めています」

 認知症は社会的なコストも非常に大きい病気だともいわれています。家族や地域社会の負担が重く、先進国では大きな課題となっています。

エーザイCEO 内藤晴夫氏

 「現在、世界には5000万人の認知症患者様がいて、それぞれの患者様の医療や介護費用を合計すると、約100兆円かかっていると推定されています。医薬品によって、認知症の進行を遅らせることも必要ですが、社会全体として認知症患者を受け入れる体制を整えることも大切です。認知症の人を受け入れて、認知症の人と共存することができるコミュニティーをつくることが求められていると思います」

 エーザイは昔から人材教育に力を入れていますが、今はどのような人材を求めていますか。

 「物事に動じない人と、『時機読解力』のある人ですね。時機読解力は神戸大学の三品和広教授が提唱している言葉です。現在起こっている事象から、10年後のビジネスチャンスを見出す力のことを意味しています。10年後の2025年に求められる医薬品については、既に今の時点で様々な情報があふれているのです。その情報の中から必要な情報を選び出して、10年後に会社としてのあるべき『立地』を明確にすることが求められます。物事に動じない力と時機読解力の両方を持ち合わせている人材を今後育てていかなければならないと考えています」

 10年後を読める人材を養成するのは至難の業ですね

 「エーザイの次期中長期計画策定のプロセスでは時機読解力を社員が身につけることを大きな柱の一つとしています。他企業が目をつけないような新たな分野に焦点を当てられるような人材は、中長期な視野を持ってビジネスをしている製薬業界において、非常に重要な人材になります。社員一人ひとりの持つ意見や行動、個人の営業成績などから時機読解力のある社員を見つけ出すようにしています」

 以前は米国のビジネススクールを活用した人材教育を重視していたと思います。内藤CEO自身も米国のケロッグ経営大学院で学び、その後もビジネススクールに将来の幹部候補生を派遣してきましたが。

 「1980年代後半から現在まで、約100名の社員を国内外のビジネススクールに送りました。現在でも年間約2名の社員をビジネススクールに派遣しています。また、社内研修を含め、多くの社員にできるだけ多様な教育機会を提供したいと考えていますが、教育だけでは補えない部分も多くあることは確かです。教育に加え、その人が持っている経験や得意分野、元来兼ね備えている力を見出してあげることも重要だと考えています。そうでないと時機読解力を持った社員は育たないでしょう」

 他社に先んじてガバナンス強化にも乗り出しました。現在では、取締役の半数以上が社外取締役です。取締役会がお友達の仲良しクラブだったりする会社もありますが、効果は上がっていますか。

 「実は、将来を見据えた『時機読解力』とか、認知症のサポート体制などは、社外取締役が過半数を占める取締役会の中で出てきたアイデアです。社外取締役はみなさん経験豊富で有能な方ばかりです。私の個人的な友人だった人は一人もいません。取締役会では社外取締役の方々のおかげで活発な議論が行われています」

 武田薬品工業は外国籍の幹部陣が数多く、まるで欧米企業のように見えますが、エーザイも外国籍の執行役は増えていますね。

 「6人(2015年11月時点)の執行役が外国籍です。企業がグローバル展開していく中、縦割りではなく、国をまたいだ横の連携を強化するべく各エリアのトップを執行役としています。会議も昔から英語でするようにしてきましたが、英語が話せない人には、日本語を使ってどんどん意見を言ってもらうようにしています。やはり国内営業一本で来た幹部もいますし、英語だけだと彼らのいい意見を吸い上げられませんから。最近、私もできる限り、英単語を交えずに、日本語で会話するように心がけています」

 今後の新薬開発でエーザイが目指すべきところはどこですか。

 「2020年に向けた新薬の開発に加え、10年後、20年後に向けた新薬の効率的な開発も求められています。現在、がんに関しては免疫系の薬が注目をされ、認知症に関しては脳にたまるたんぱく質の研究が進められています。今後はそれぞれの病気に対応するさらに新たな分野における新薬の開発が必要です」

(代慶達也)

内藤晴夫氏(ないとう・はるお)
1947年生まれ。慶応義塾大学商学部卒、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得。1975年エーザイ入社、83年取締役、研究開発本部長などを経て1988年に社長に就任。現在は取締役兼代表執行役CEO。2014年に英国よりKBE(名誉大英勲章)受章

 2015年12月11日、18日に日経Bizアカデミーに公開した記事を再構成しました。

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