「ザ・和歌山」豊かな果実をハイボール用シロップに
2016年3月、「ハイボールに合う」をコンセプトに、和歌山県とサントリー酒類、和歌山の酒造メーカー中野BCが共同で開発したウイスキーの割り材、「紀州果実シロップ」が登場した。「ハイボールが何杯でも飲める!」と共同開発メーカーが自負する新商品だ。
山と海、温暖な気候に恵まれた和歌山県は、様々なフルーツで生産量全国一を誇るフルーツ王国。県では地元のおいしい果実を3種以上使った商品を「和(なご)みックス」と認定し、県産果実の魅力を発信する取り組みを始めた。食品メーカーなどと商品開発から販売促進まで恊働するもので、「紀州果実シロップ」はそのプロジェクト第1弾商品の1つ。和歌山を代表する特産物の南高梅や温州ミカンなど4種の果実を使った、いうなれば"ザ・和歌山"の濃縮タイプ飲料だ。
ウイスキー30mlに大さじ1杯の「紀州果実シロップ」と炭酸水を注ぐだけで、果汁の濃厚な味わいとフルーティーな香り、酸味と苦みが重なる爽やかなハイボールになる。サントリー酒類は、このハイボールを「紀州シトラスハイボール」と名づけ、全国の飲食店へ販促する。年内400店を目指すという。お酒を加えず水や炭酸水で5倍に希釈すればソフトドリンクとしても楽しめる。
試行錯誤の末、好評価を得た自信作
紀州果実シロップは「ハイボールに合う」をコンセプトに開発された、ウイスキーの割り材だ。和歌山を代表するかんきつ類の「温州ミカン」「はっさく」「じゃばら」の果汁と、ブランド品種「南高梅」で作る梅果汁を配合した、いわば"ザ・和歌山"のシロップ。複数の果実を使うのは、味わいに深みを出すため、そしてかんきつ王国と称される和歌山の豊かさを表現するため。
サントリー酒類から依頼を受けて、開発・製造したのは和歌山の酒造メーカーの中野BC。地元和歌山の梅と、果実などを組み合わせる「カクテル梅酒」という新しいジャンルの仕掛人として知られる。梅酒に限らず清涼飲料水やガムなどに混ぜる梅果汁の販売シェアは8割に達するという"梅のスペシャリスト"だ。今回の「紀州果実シロップ」の開発にあたっては、果実の選定や、果汁とシロップの配合バランスにおいて、サントリー監修のもと試行錯誤を繰り返したという。
というのも、カクテル梅酒の味のベースは苦みなどを抑え、飲みやすさを優先した設計が基本。中野BCは過去の商品開発を通じて、梅、温州みかん、はっさくの原料特性は把握しており、味の組み立ても比較的容易だった。しかし、当初他の素材と合わせるのを難しく感じたのが、少しクセのある香りと独特の苦みをもつ「じゃばら」。「ウイスキーの割り材」の開発は初めての同社に対し、サントリー酒類からは方向性の決め手となる、こんな要望があった。
それは、「甘くておいしいシロップという固定観念を一切取り払ってほしい。そしてハイボールとの相性が確実に良くなるはずだから『じゃばら』をぜひ使ってほしい!」というもの。
ウイスキーの味、香りと乖離(かいり)せずに互いに引き立て合う、果汁4種配合による割り材。中野BCは「これまで作ってきたシロップとは全く違うジャンル」と位置づけ、さまざまな配合比で試作。結果、「じゃばらの苦み、クセのある個性がウイスキーとのマッチングを魅力的に高める、絶妙なバランスが表現できた」と中野BCの中野幸治社長も胸を張る。
紀州果実シロップにおける各原料の役割は、「温州みかんが自然な甘みのベースの味を作り、梅とはっさくが酸味と香りを際立たせ、じゃばらのクセがウイスキーとの相性を抜群にしている」(中野社長)
紀州果実シロップ製造、要所は手仕事
製造工程の写真も数点借りた。商品が工場で作られる過程を消費者が目にする機会は極めて少ないが、こうして見ると、要所要所は「手仕事」であり、目で舌で人間が確かめるのだと気づかされる。
割り材としても十分に発揮できる香りと味のインパクトを重視したという、"少しオトナ"な果実の特徴を生かした、さっぱりとした味わいだ。柑橘系の香りと酸味、苦みはウイスキーとの相性は抜群だ。
(ライター 赤星千春)
[日経トレンディネット 2016年4月4日付の記事を再構成]
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