ネットCM 時間と人に制約なく、笑いと癒やし
品田英雄・日経BPヒット総研上席研究員
4月の値上げに合わせてインターネット上で話題になっているのが赤城乳業の「ガリガリ君」のCMだ。
数人のスーツ姿の男たちが並ぶと、流れてくる曲は耳にしたことのあるフォークソング。「値上げは全然考えぬ~、年内値上げは考えぬ……」。1970年代初頭のフォーク歌手高田渡が歌った「値上げの唄」だ。歌が流れること50秒以上、カメラが全体を映し出すと作業服姿も含め100人以上が整列している。そして歌の最後「値上げに踏み切ろう」に合わせて、それまで動かなかった人たちが深々と頭を下げる。その後に映し出されるのは「ガリガリ君」のパッケージだ。
ネット上では「10円の値上げをエンターテインメントにしてしまうなんてすごい発想」などの驚きの声が寄せられている。
ネット上には企業が作った面白い動画が多数存在する。共通点は時間とタレントに捕らわれないことだ。
片岡物産のバンホーテンココアの動画は笑える版とほのぼの版で評判が高い。笑える版は、優しいママがヘビーメタルバンドに変身する「ママメタル」。鍋が噴きこぼれても「噴いてるよ」というだけで火を止めようとしない旦那に「私はあんたのメイドじゃない」とキレて、キッスのような姿でシャウトする。主婦の日常に潜む様々な不満をぶつけてみせる50秒だ。
ほのぼの版は「理想の母親」。時間に追われて子どもたちに申し訳ないと思う母親たちの反省の声を集める一方で、母親についての子どもたちへのインタビューを見せて母親たちをホロリとさせる。約4分のショートムービーだ。
ほかにも、auは、携帯電話誕生30周年を記念して「おもいでケータイムカプセル」を作った。母親が家を出て行く息子の荷造りを手伝ううちに昔の携帯電話を見つけ、中を見直しているうちに息子の成長を実感するというもの。4分あるからこそできる大作だ。
これらの動画には有名人は出てこない。時間や人に縛られないからこそ実現できた面白い企画といえそうだ。疲れたおじさんにもネットCMは笑いや癒やしを与えてくれる。
[日本経済新聞夕刊2016年4月16日付]
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